タヌキのポンポン(漢字多め、読み聞かせ用)
娘のお気に入りの話、シリーズ第一作目です。
寝る前の読み聞かせの時には、ぜひ最後の場面でお子様をぎゅっと抱きしめてあげて下さい。
山の麓の小さな森に、狸のポンポンが住んでいました。ポンポンは森の人気者。丸いお腹をポンポン叩いて、楽しい歌をうたいます。ふさふさ尻尾を揺らしながら、愉快なダンスも踊ります。
冬の終わりの朝、ポンポンが目を覚ますと、ちょっぴり喉が痛みます。
「どうやら風邪を引いたみたいだな」
ポンポンは山の上の、とげとげみかんの木を見に行くことにしました。とげとげみかんの実は酸っぱいけれど、喉の風邪にとてもよく効くのです。
ポンポンは、朝の冷たい空気の中、ふうふう言いながら山を登って行きました。
てっぺんまでたどり着くと、
「あれぇ、もう一つしか残ってないや」
とげとげみかんの実は一番高い枝で、朝日を浴びてきらきら光っていました。
「これじゃ僕には届かないな」
ポンポンが山を下りてゆくと、ちょうど熊のダンダンが冬ごもりから目覚めたところでした。
「おや、ポンポンおはよう」
「やぁ、ダンダン久しぶり」
ポンポンは掠れた声で頼みました。
「目覚めたばかりで悪いけど、山の上のとげとげみかんの実を取ってくれない?僕じゃてっぺんまで届かないんだ」
「そりゃ無理だね。とげとげみかんの木は、おいらの背よりずっと高いだろ」
ダンダンはあくびしながら言うと、食べ物を探しに行ってしまいました。
ポンポンがさらに下りて行くと、兎のピョンピョンが穴から顔を出しました。
「あれ、ポンポンおはよう」
「やぁ、ピョンピョン。お願いがあるのだけど。とげとげみかんの実を取って欲しいんだ。君は跳ねるの得意だろ」
「そんなの無理だよ。あたい、跳ねながら走るのは得意だけど高くは跳べないもの」
ピョンピョンは丸い尻尾をぴょこぴょこさせながら駆けていってしまいました。
仲良しの小鳥達にも頼んでみました。
「チュンチュンにピイピイ、とげとげみかんを取ってくれない?」
「そんなのできないわ」
「あの木はトゲだらけだもの」
「身体が傷だらけになってしまうわ」
ポンポンは森の外れの、親友の狐のねぐらにたどり着き、
「コンコン、とげとげみかんの実を取ってきて!風邪で今にも死にそうなんだ!」
と言うと、ばったり倒れてしまいました。酷い熱です。
「可哀想に、寒い中あちこち歩き回って来たんだな」
コンコンは寝床にポンポンを運ぶと、外に飛び出して行きました。
コンコンが向かったのは蟻の巣でした。
「おぅい、蟻くん達、起きてくれ!僕らの友達ポンポンが風邪で大変なんだ。とげとげみかんを食べさせてやらなくちゃ」
「何だって」
「ポンポンが」
「こりゃ一大事」
コンコンはぞろぞろ出てきた蟻たちを背中に乗せて、山を駆け上がりました。
目当ての木の下で蟻たちを下ろすと、彼らは刺の間をすり抜けて、あっという間にてっぺんまでたどり着きました。そしてガリガリと付け根を噛みきると、実はコンコンの手の中にぽとりと落ちました。
コンコンはしっかりととげとげみかんの実を抱え、頭に蟻たちを乗せて元来た道を走りました。
……
しばらくすると、コンコンのねぐらには、森じゅうの動物たちが集まって来ました。
「ここにいたのか、ポンポン」
「風邪を引いたんですって?」
「お見舞い、持ってきたよ」
ポンポンは出てきて言いました。
「ありがとう、みんな。でももう僕、すっかり良くなったよ。とげとげみかんを食べたからね」
そこで、みんなは持ち寄った食べ物で、ポンポンが元気になったお祝いをすることにしました。
兎のピョンピョンが持ってきた、良い匂いの花を飾り、熊のダンダンが集めた蜂蜜を舐めたり、小鳥たちが咥えてきた甘い木の実をかじりました。
大活躍した蟻たちは、もちろん一番美味しいところをもらいました。
柔らかい春の日差しが、一面に降り注いでいます。
お祝いの会がお開きになると、ポンポンはコンコンを抱きしめて言いました。
「蟻くん達に頼むなんて、よく思い付いたね。ありがとう、君は最高の親友だよ」
コンコンは照れくさそうに「へへへ」と笑うと、ポンポンをぎゅっと抱きしめ返しました。
いずれは紙芝居にして、市内の幼稚園に持っていくつもりです。
沢山の方に楽しんでもらえますように。