犬に叱られる夢をみる
「四月半ばに転入生だ?」
大画面の地デジ対応テレビを点けながら慣れ親しんだ奴の顔を見ればカツ丼の飯を口の中に掻き込んでる。随分中途半端に来るもんだ。もう直ぐ浮かれて楽しみなゴールデンウイークだぞ。
「理事長はなんだってまた初めにお前へ言ったんだ」
風紀のくせに素行の悪さはずば抜けた委員長サマだもんな。
「自治委員会の委員長がすっぽかしたからだろ」
「んー?そんな話聞いてないけど」
引き継ぎもなかったし。
「真崎がメモして知らせたっつってたぞ」
「…………あぁ、そういやあったなそんなの」
「お前なぁ」
二階席と違ってテレビに映る一般席は賑やかなもんだな。お、この海老の天ぷら美味い。天ぷら釜あげうどんにして良かった。天つゆにおろし大根を入れてみる。
「ま、棗が話を聞いて無事に終わったんだろ?めでたしめでたし」
「呑気にうどん啜ってんな!」
「大声出すなよ、こんな近距離で。俺はね棗クン、誰かさんが暴れたせいで壊された教室のドアや硝子を美化委員と一緒に片づけてたの。テメェに怒鳴られる筋合いわねぇ」
アホが。凄んでりゃ誰でもびびると思ってたら大間違いだ。はぁ、釜あげ美味かった。うどんは啜るもんだ、麺がのびたらどうしてくれる。獅子唐の天ぷらは食べれなかったな。ちょっと俺には苦かった。テレビから棗を見ればバツの悪い顔をしてカツを食う。
「ま、この話はチャラって事で」
「……あぁ」
派手な成りして愁傷な顔は似合わないぞ。それとも今更後悔か。親が何でも弁償してくれるご身分は楽でいいよな。
「で、会長には言ったのか?」
「あいつは下半身お盛んだったから書記に伝えてきたわ」
そのうちインポになるんじゃね?三日とあけずにヤッてるし。性欲有り余ってんなぁ。
最後のピーマンの天ぷらを平らげて箸を置く。意外とピーマンは天ぷらにすると美味い。
「妥当なところだな。書記って三枝だろ」
何意外そうな顔してんだ。仕事の出来る奴の名前くらい覚えてるっつーの。
「めんどくせぇ、なんでゴールデンウイーク過ぎに来ねぇんだ。修学旅行の企画もあんのに」
「そんだけ親も子も必死なんだろ、いろいろ。不潔そうなカツラに前が見えづらい眼鏡したチビだったらどうする、転入生」
「はぁ?わざわざ変装する奴の気が知れねぇ」
インパクトはあるだろ。注目を浴びるには必要不可欠だから。典型過ぎてここの奴等は相手にもしなさそうだけど、あの生徒会は……分かんねぇな。野郎のケツが大好きな奴らにゃ打ってつけのカモになるか。食事し終わった文化部部長とタイミングよく目が合っちまった。いつ見てもアジアっぽくない顔つきだな。試しに手を振ってみる。あらま、嬉しそうな顔で手を振り返されたぞ。楽しそうで何より。
「じゃ、賭ける?」
「いーぜ」
退屈しのぎにはなるよな。同じ事の繰り返しじゃ飽きがくるのも早い。
「不潔そうなカツラと眼鏡チビに一万」
「大して面白くなさそうな奴に五万」
「やけに自信ありげだな」
「理事長が言ってた」
追加注文したアイスティーを飲んで聞いてれば明らかなハンデ。カツ丼と茶碗蒸しを食べたら怠そうに椅子にもたれて言う棗に嫌な予感がしてきた。
「俺が勝ったらお前の夏休み全部貰うわ」
「なにそれ。金いらねぇの?」
「金はいらない。それよりもお前を貰う」
「俺ってそんなに安いのか……」
ちょっとショック。
「なんなら俺の全財産賭けるぞ」
「ショボイ賭けにいらねぇ額だ」
全財産ってどれくらいだよ。規模ありすぎて分からねぇわ。まだ諦めてなかったんだな、こいつ。俺のどこを気に入ったのか疑問だ。
「対象は明後日来る」
「はやっ」
来週の月曜かよ。ずば抜けた頭脳を持った転入生で賭けた方が良かったのかね。今更後悔しても変わんないが。しょうがねぇ、土日挟んだ月曜を待つとしよう。
□
「朝から呼び出して悪かった。そんな顔すんなよ、織田」
「嫌な顔一つで許されるっていいよね先生」
校内放送で呼び出しやがって、馬鹿じゃねぇのこいつ。何のための自治か分かってねーのな。よくこんなのが教師になれたよホント。金に物言わせて試験受かったって言われたら信じちゃうね。
「そうクサルな。今日転入生がくるって知ってっか?」
「棗に聞きました」
わざわざ呼び出しといて話が転入生のことかよ。珈琲の入ったマグを受け取りソファーの背にもたれかかる。
「これが転入生の個人データ。理事長が是非お前にって。なーんか親しげだよな、お前らって」
「俺あの人の愛人なんで」
思わずポロッと嘘を吐く。向かい側に座った三上は胡散臭い顔で見てくるから嘘だって分かってるのか。
「お前が愛人で終わるタマかよ」
ひでぇ言われよう。歩く卑猥物に言われたかないわ。普段からの顔がエロイだの物食ってる仕草がエロイだの欲求不満共が流す噂が絶えない教師ってのは悲惨だよな。周りは野郎ばっかだし。
「織田はゴールデンウイークってバイト三昧か」
「例の如く」
突拍子もなくゴールデンウイークのことを言われて頷き、渡されたメモリを見る。ゴールデンウイークは稼ぎ時ですから。
「転入生な、都内で有名なチームのマスコットなんだと」
「へぇ」
今時マスコットの文字すら見かけなくなったのに、歩くマスコット野郎なんていんのか。昭和のドラマだったら清純そうな女が族のお飾りで車の中からにっこり笑って士気を上げるってので見たことある。話題がポンポン飛ぶのはこれが言いたかったからか?
「そのメモリにもあるが、容姿はここじゃ並だ。大したことはないが中身が根暗そうだ。二年間の登校拒否にして今期から再出発なんだと」
「面倒くさい奴が来ましたねぇ。頭はいーんですか?」
「普通以下」
「はっ、よくココに入れましたね」
温くなった珈琲を片手にお互い顔を歪める。
「どーやら理事長の知り合いみたいだぞ」
「知り合いねぇ」
あの理事長が知り合いのために進学校の門を開け、席を一つ空けたのか。ぜってぇ裏になんかあるだろ、タヌキだけに。
「親が金持ちで寄付金がっぽりとか」
「金に困ってねぇだろ。体でも貰ったんじゃね」
わお、見たことないけど理事長ってゲテモノ好きか。笑えるわ。
「ま、理事長の下半身事情はどうでもいーですけどね。自治は金積まれても転入生を守ることはしませんよ」
「守る云々は風紀のやることだ、頼まねぇよ。織田のところは中立だ、崩れて貰っちゃ困る」
「はぁ」
なに、もしかして本題は釘を刺すことだったわけ?甘く見られたもんだ。
「お前風紀の棗と賭けてんだって?」
「えぇ、まぁ」
公には出来ませんけどね。
「転入生、変装してるぞ」
「ホントに?!」
やべ、興奮した。賭は俺の勝ちか!
「つまんねぇ奴でもあるが」
「あー」
じゃぁ、この賭はドローかね。折角の五万が……。
「生徒会には気をつけろよ。なーんか最近ソワソワしてっから。おまけに転入生が来るってんで興味本位で近付く馬鹿も出てくる」
「生徒会に関わる事に俺たちはノータッチです。管轄外だからそうなったら指差して笑ってやりますよ」
陰でね。目をつけられても迷惑だ。管轄は風紀のもんだし。
「なぁ織田。そろそろ自治委員会メンバー教えねぇ?」
「駄目ですよ。理事長に口止めされてるから。直接ボスに聞いてください」
俺たち自治の顧問つーか統括はタヌキな理事長なんでね。自分で体を藪の中に突っ込んで蚊に刺されちまえ。
「じゃ、珈琲御馳走様でした」
そろそろ教室帰ろう。三上のお陰で一限サボったし。
「次は英語か」
「いや、次は選択だから。担任のくせに時間割覚えてないとかどんだけ怠慢なの」
ソファーから立ち上がって思わず突っ込んだ。
「喰われんなよ」
「縁起でもないこと言わないで」
呪いでもかける気かこいつは。そんなこと高を括って自分の嗜好を大っぴらにしてる奴に言ってやれ、哀れだから。まぁそんな奴を狙うのはゲテモノ好きだって話だけど。バイバーイって手を振って応接室…じゃなかった、校長室を出て近くの自販機にある紙パックの飲み物をお財布ケイタイで購入しストローからジュースを飲んでいく。
「知佳が好みそうな転入生だけに被害者出そうだな」
当分退屈しなくて済む。ヒンヤリした壁に背を預けて思わず顔がにやけてしまった。
妹よ、お前の知識が役に立つ時がきたぞ。
□
モナカはカオス。どっから湧いて出てきたんだか、転入生は俺たちから離れた所にいるけどワンサカ生徒会の奴等や人気者共を引き連れて食堂まで来てる。なんだって二階席使わねぇのよ生徒会。転入生を連れて行けばいいものを。それだけの権限あるのに連れていけなかったってぇことは話術すら持ち合わせない能無しってこと?
二階席使わない俺が言ったら駄目かね。
「賭は流れたな。あいつブラックナイトのお飾りだって?」
「知らん。黒い夜ってそのままじゃん。チーム名のセンスゼロで人参食べれません。あげるよ棗」
「人参嫌いなだけだろ。実は生徒会の奴等がチームなんてもんに関係してるってんだから笑えるよな」
「実は風紀の奴もチームに関わってるって知ってますよ」
「お前、調べたのか」
なんて顔してんのよ。調べてるわけないじゃん。たかが風紀のことで。
「廊下歩いてれば嫌でも耳にはいるの。なに一丁前に自惚れてんの?」
今日はヒレカツ定食にしてよかった。めちゃ美味いわ。幸せ。
「喧嘩売ってんのか」
「売ったらいくらで買ってくれんの?」
参考までに聞きたい。一度も俺に勝ったことがないだけに。
「お前ってホント人を逆撫でること好きだな」
「褒めてもヒレカツはやらないぞ」
「いらねぇよ。誰が褒めるか!」
あれ、貶してたの?空気よめなくてごめんよ。人の第一印象は見た目が八割で決められるって転入生は知らないらしい。そのくせ自分では見た目で侍らす奴らを決めて話しかけたり、無理やり友人関係を築いたりして周りを白けさせるのが上手いことで一部に有名なのが変装転入生って知佳が言ってたな。自分勝手な自己中が誰からも好かれるだなんて、どこのネバーエンディングだよ。終わってるだろ。
「引きこもりが自己アピールを大袈裟にして好かれるパーセンテージは?」
「イチパーもないだろ。なんだ引きこもりって。ニートのことか」
「ナイーブなこと隠せない質はお互い様の確認だよ」
キャアキャア騒がしいのは女もどきの男たち。凄むガタイのいい奴等は器用に歯軋りしつつ野太い声を張り上げてる。そこに今日来た転入生のお言葉が、人の外見ジロジロ見て失礼だろ!って言いやがった。やべ、言うことがすげーから笑い死ぬかも。おいおい、突っ込みどころが二カ所もあるぞ。いつからお前は建物になったんだよ。外見って口で言うが、そもそも外見って建物のことをいうだろ。俺も知佳に言われなきゃ気付かなかったが、公衆の面前で恥を晒すのはここだけにしろよ。ゼットの奴に言ったら吊し上げじゃ終わらねえ。秀才クラスだからな。本音を言えば、是非ゼットクラスの奴等に今の啖呵をきって貰いたいが。
「ところで転入生はどこのクラスなの」
「あ?確かゼットだったか」
万歳三唱!成績並以下なのにゼットかよ。
「なに一人で笑ってんだ。気味悪いぞ」
「んー?楽しいからだよ。で、編入試験だっけ?何点だったんだ」
「さぁな」
貰ったデータの内容をまだ見てないが、自治にあるのと風紀のとは違うらしい。こりゃあ一波乱ありそうだ。
もしかしてコレが狙いだったのか?理事長。
「お前ら最低だ!」
おーおー、一人で臨戦態勢かよ。声がデカイったらない。宥めるのは副会長の役目か?潔癖症の看板下ろせばいいのに。お前の親衛隊の奴等困惑してんぞ、見るからに汚らしい鬘触ってるから。
「明日から二階席に行くんじゃね、あれ」
「そーなったら麻生たちもこっちに来るな」
それは楽しみ。生徒会はどこまで転入生の事を知ってるのかね。物を食いながら話すあたり親の躾がなってないの傍目からも丸分かりだ。汚ねぇ。会長や副会長とか気になんないのか。今まで注意してくれる人もいなかったんだなぁ、可哀想なこって。
「お前は向こうに行かないの?」
「何で俺が」
「俺の娯楽のため」
他にあると思う?それに結構気にしてんじゃん、あいつのこと。気付かないと思ったのか。
「なんでそう人をけしかけるんだお前は」
「二度も同じこと言わせんな」
いっそお前が転入生をオトしてラブラブになっちゃえよ。指さして笑ってやるから、趣味悪いって。なんならこいつの親衛隊と一緒にやってやりたい。
「楽しそうだな。ここいいか?」
「あれ?伊原先輩、こんちは。今日休みじゃなかったの」
「その筈だったんだけど呼び出されちゃった」
どーぞって言ってみたら俺の前に座って疲れたような顔。あーあ、被害者がここにいるよ。いくらなんでも引退した前生徒会長を巻き込んじゃ駄目だろ。今年から受験なのに。
「お疲れさまです」
「ありがと」
「誰から連絡いったんすか」
あ、それ俺も気になる。
「会計の富沢」
「え、あいつならあそこに、って顔色悪いな富沢」
「人酔いしたんじゃね」
そうかも。結構人混み苦手って言ってたし。
それにしても伊原先輩が一般のところに来るなんて珍しい。気付いた奴が頭下げてるよ。
「あれが今日来た転入生?」
「あのワザと乱した髪だって分かるのが問題の」
「あれって鬘だろ。ウィッグにしては型が古そうだ」
言っちゃった!バレちゃってるし。
「おい、富沢やばいんじゃね」
「ったく、めんどくせぇ。デカイ成りして食堂から出てく事も出来ねぇのかあいつ」
近くにいる保健の委員長に電話して連れ去って貰おう。こっそりと。転入生は会長や副会長の相手に忙しそうだ、なんとかなんだろ。
電話が繋がった相手に事情を説明すると承諾してくれた。ありがとう、委員長。次は自分で何とかしろよ富沢。一瞬、出入口近くにいた親衛隊の奴等が富沢と保健の委員長を見て騒いだけど、あの顔色だ、大した騒ぎにもならずに外へ行けた。お大事に。
「相変わらず見事な手腕振りだな。自治やらせとくのが惜しいよ」
「伊原先輩に褒められたぞ、棗。ちょー貴重だ。ムービー撮った?」
「撮らねえよ」
なに拗ねた態度とってんだ、失礼しちゃう。
「相変わらず仲がいいな」
「先輩の目の錯覚」
「そー思うんならこいつにちょっかい出すのやめてください」
「それは無理」
さっくり言われてやんの。今の会長はどっちかって言えば中性的な感じで、ナヨナヨしくはないけど我が道をいくタイプ。伊原先輩はなんつーか、男らしいがっしりした体躯なんだけど男臭いっていうよりいい匂いがして野性的なもんがあるんだよな。だからか、先輩の親衛隊はなよっちー小柄な男の奴等とちょっとグレかかった厳つそうな奴等と二分してたっけ。
「なんで一般に来たんですか?」
「データだけじゃ人なんて理解出来ないから食堂に来たら二人をみつけた」
「どーせなら向こうに行けば良かったのに」
なに言ってんの、こっち来て正解じゃね。憮然とする棗には悪いが賛成出来ないわ。今の生徒会よりも影響力あり過ぎる。万が一、先輩と転入生が接触してみろ。自治に偉い打撃がくるのは目に見えて分かるってもんだ。冗談じゃねぇ。そん時は絶対風紀に棚上げして面倒押し付けるぞ。
「なぁ、折角だから今から二階席行かないか。都築や橋爪たちもいるって」
ほらって携帯を見せられ、二階席に誘われる。二階席かぁ、暫く行ってないなぁ。去年の冬休み前以来か。
「なんなら棗も来ればいい」
棗を見れば先輩のこと睨んでるし。ちょっと、なにしてんのコイツ!周りが騒いだらどうしてくれんの。
「どうする、織田」
行くか?って聞かれたらついて行く自信があります。俺、先輩のこと嫌いじゃないし。あのね、棗クン。そんな態度とったりするから面白がって先輩にからかわれるんだよ。いい加減気付けばいいのに。
「二階席行くけど、棗はどうする?」
前風紀の先輩もいるみたいよ。
「行く」
棗の返事に、ちょっと笑った先輩を見逃さなかった。やっぱりからかってるし。イジルにはもってこいの人材ですからね。悪ぶってるけど根が真面目だからな。
「今から二階席だと俺、授業出れないな」
「特権あるだろ。何今更気にしてんだ」
そうだけど、ゴールデンウイーク後はテストあるし気になるでしょ。まぁ教科書見とけばなんとかなるし、いっか。
「伊原先輩、先に行っててください。これ置いたら行きます」
「あ、あのっ」
ん?突然入ってきた俺たち以外の声に、見れば照れた仕草の小柄な奴が側にいる。
「良かったら、僕たち片付けます」
「え、いいの?」
「はいっ」
おー、三人で顔赤らめて必死な感じ。いいのかねぇホントに。なんか初めてのことで気が退ける。
「悪いな。じゃぁ、二人ともテラスから出るぞ」
「ありがと」
「頼むわ」
何偉そうに言ってんだか少しは遠慮しろ。毎度楽しようとしやがって。俺が礼を言うとやけに動揺する三人になんとも言えない気持ちが膨らむ。慣れてんのかね、こーゆうの。五月蝿い転入生たちに見つからないよう伊原先輩とテラスへ出た俺たちは少し遠回りしてエレベーターを目指す。あー、緑って酸素出してるんだっけ?生き返るわ。食堂、空調設備あんのに空気悪すぎだ。
「今の、お前の親衛隊だろ」
「はぁ?」
なにそれ棗クン。聞いたことないんだけど。
「間違いないな」
伊原先輩まで。俺の親衛隊なんてホントにいるのかね。
「お前のところは隠れてるから公じゃ分かんねぇよ」
それって親衛隊って言えるのか?でも二人は分かってる感じがする。なんだろうこの疎外感わ。まぁ、いるならいるでいいけどね。あー、久しぶりにパフェ食べたいかも、特大のやつ。腹いせにみんなで食べようか。甘いものが苦手な二人に俺からの可愛い洗礼を。
「丁度いいところ見逃したな。矢野が転入生に殴られた」
食堂の中二階に着いた途端、デカイ液晶テレビを見ていた原田先輩に言われて思わずテレビを見てしまう。液晶は一般の食堂内、画面ズームにしたのか転入生たちが座るテーブル付近が映し出され、周りはてんやわんやだ。音声はあんまり大きくないのに結構五月蝿く感じるからよっぽど声を張り上げてるんだろう。
「ドンマイ棗」
「早速仕事か」
「キチガイかよあいつ」
うーん、キチガイは言い過ぎかもよ。
テレビを見て思うのはどっちが先に手を出したか、だ。
「画像証拠持っていけ。DVDに録画してある」
流石、前風紀の橋爪さん。しっかりしてる。
「つか、当然のように自治の二階部屋使ってるし!」
普段の二階席使ってよ!自治のメンバーが寄りつかないでしょ。何のための隔離部屋なんですか。
「もう引退したし、俺たちが口カタイの知ってるだろ。そこまでメンバー秘密にすることねーじゃん」
「そうは言いますけどね、伊原先輩。今の生徒会が先輩たち真似してここに入り浸ったら責任とってくれます?」
メンバーが秘密ってことは顔を知られたら終わりってことだ。後のことは面倒って他人に押し付けるのは俺だけでいい、他はいらない。どんだけ苦労してここ造ったと思ってんだクソッタレ。
「俺の手間暇なめんなよ」
「あー、悪かった織田。ごめん。そんなつもりじゃなかったんだほんとに。そんな顔するな。おい、移動するぞ」
「ごめんなさい、織田君」
「すまない」
謝って済むんなんて楽でいいよね。情報だけじゃ人を把握出来ないって本当だな。接してみなけりゃ分かんない事が沢山ある。風紀の棗が一般に行ったあと先輩たちに嫌な顔を向けたのは、あいつが隔離部屋に来るとき事前にメンバーへメールして知らせてるからなんだけど、分かってないだろうなあいつのことだし。俺は特別なんて勘違いされても困るから教えないが。
生徒会や役職についてるからって何でもかんでも許されて特別扱いされるなんて鼻で笑ってやる。画像撮って今回のやつ今後の見本にすりゃ良かったな。しくった。
「俺は遠慮するんで、楽しんできてください」
「織田は来ないのか」
「行きませんよ」
気分悪くさせたのお前らだろ。見た目と違って鈍くさかったのか、伊原先輩。顔色の悪い前副会長には同情出来ねえな。出口のドアのとこで橋爪先輩が振り返ってきたので手を振る。笑わずに。二度と近付きたくないわ。
「おーい、もう出てきていいぞー」
厨房にいる奴に先輩たちがいなくなったのを知らせると、ひょっこり顔だけ出してきた熊沢と田代。
「マジ焦った。なんなの一体!」
「我が物顔でここの従業員に命令してたし」
「あー、やっぱりか」
後ろで困った顔して苦笑うウエイターさんにごめんなさいって頭を下げる。職務規定違反になんないよね?仕事の内容にないことさせちゃったんだけど。
「今回のは理事長に報告してください」
逆に慌てだしたお兄さんたちは大丈夫って言ってくれたけどほんとかな?時給に見合わない仕事しちゃだめだよ、契約なんだし。世は調子に乗って従業員を低時給で働かせる雇い主ばっかりだ。
「お前が来なかったら俺ら面見せたかもな」
「すっげーウザかった」
見た目同様、怖い顔しちゃって。普段から不良らしいことやってんだから従業員のお兄さんたちの前でくらいしおらしくすればいいのに。
「ドアのところに暗証番号と血管認証の鍵付けるか」
「えー、めんどくさい」
「また来たら面倒だろ」
やっとテーブルまで来た二人は早速オーダーを一緒に来たお兄さんに伝えてるし。テーブルの上が全部埋まるほど注文するなよ、二人とも。腹壊すぞ。
「もう引退した奴等が今まで同様の扱いされると思ってるんだから救いようがねぇな」
「手厳しいねぇ、熊沢。俺もそう思うけどあの人たちはそれが当たり前だと思ってんのよ、きっと。田代、メンバー全員に鍵付けることの多数決とるからメールして」
俺パソコン弄るの苦手なの。知ってるよね。
「しょーがねぇなぁ。パソコン弄らなきゃ上達しねぇのに」
うん、知ってる。苦手なんて嘘だから。偶には楽をしたいお年頃なんだなー。今日は知佳にメールして転入生のこと教えてやろう。お眼鏡に叶うといいね。
座ってる椅子から立って一人のお兄さんのところに行き、預けてあるノートパソコンを出してもらう。
「食堂にパソコン預けるなよ」
「便利でしょ」
持ち運ぶの怠いし。そんな柿の種食べたような顔をしない、熊沢くん。
「あと、よろしく田代」
「はいはい」
パソコンを受け取ってテーブルに戻った俺は田代にパソコンを渡して、次々にくる料理に食らいつく熊沢を見てしまう。炭水化物多くない?よく食うなぁ。
「送信完了。織田のピッチに送るようにしといたから確認しろよ」
「ありがとー」
普段の携帯じゃない、校内用の自治委員全員が持つピッチをポケットから出せば受信したのかピカピカ光ってるし。もうメール送った奴いるのか。仕事が早いねぇ。イエスかノーで答えるだけじゃなくコメント付きなんだね、田代。退屈しなくて済みそうだ。有り難い。
「ど?面白いコメントあった?」
「中島が今からここ来るって」
「ただの私用かよ」
私用に使っちゃ駄目だなんて言ってないしいーんじゃない。次々メールくるな。すげーわ。
「一年の紫野が鍵のいい店知ってるって。任せよ」
「紫野って白馬の王子様って言われてる奴か?」
「自治にそんなのいんの」
「いるよ」
結構、バリエーション豊富です。スカウトするの大変なんだよね、ろくでもない条件出したりする奴いるから。
「緩そうな奴いたら紹介して。会ってみたいから」
「緩くちゃ駄目だろ」
「口とケツが緩くなけりゃいいよ」
自治の条件なんてそんなもんさ。何驚いた顔してんの二人とも。トップが俺の時点で気付こうね。
「なんつーか、熊沢。俺たち類友?」
「意味が違うだろ」
辞書ひけば解るんじゃない?まぁ、そんなこたどうでもいい。あと二人はメンバーに入れたいんだよなぁ。どっかに逸材、転がってないかね。
「エフの比賀なんてど?」
「ありゃぁヤリチンなだけだろ。見かけは生徒会にひけを取らないが」
比賀って喧嘩に強いって評判の王様?確かに見かけは大した男前だ。中等部から噂は絶えない奴だし人を殴りつけながら笑ってるしな。
あの髪の赤さは毛根ダメージ半端ないと思います。話すと案外面白かった記憶がある。
「なにより生徒会役員を降りたことが引っかかる?」
渋る熊沢に俺が言えば瞬きをして見てきた。
顔の良さはお前もいいよって言ったら馬車車かハムスターが走り回るみたいに働いてくれるかな。
「知ってんの?比賀のこと」
「委員長絡みでちょっとね」
「どーせろくでもないことだろ」
うん、まぁそうだけど。正直に頷けない。
「やほー、みんなのアイドル中島です!」
「選挙カーは間に合ってます。お帰りくださいサヨーナラ」
「委員長は血も涙もない」
乱入してきた中島に冷めた目を向ければ酷い言われよう。血も涙もある人間やってます。茶色く染めた髪は大分ダメージから回復してきたな中島よ。スカウトした最初ん時にしたら比べものにならない。
「何の話してたの?」
「比賀をスカウトしようかなって」
「あの問題児か」
問題児ねぇ。やけに大人っぽいから違和感あるな。
「それよりお前、伊原先輩になんかした?すげー落ち込んでるのさっき見かけたんだけど」
「ザルにでも引っかかったんじゃね」
「たらいの間違いだろ」
「織田がなんかしたんじゃなくて先輩がやらかしたの」
熊沢、たらいくらい知ってますー。ワザとザルって言ったのに……。
「そう。まぁ、織田がヘコましたんならしゃーないわな」
「自業自得」
三人で頷いてるところ悪いんだけど。
「特大パフェを頼みたいと思います」
「げっ、マジで?!」
「正気かよ」
「完食した奴見たことないんだけど」
俺も見たことないよ中島。でも特大パフェに入ってる缶詰めの蜜柑が美味いんだよ。アイスとアイスで挟まれてるから冷たくてね。
「みんなで食べようか」
つーか、食べなさい。俺だけじゃ食べきれないから。俺の奢りだぞ、喜べよ。嫌な顔してないで。
「特大パフェ一つっと」
「ほんとに頼んでるし」
やだなー、田代。こんなことで嘘吐かないよ。バナナは嫌いだから誰かに食べてもらおーかな。
「そーいや土曜に文化部の麻生、ここに来たって?」
「んー?なんか人に追いかけられてたから避難させた」
文化部部長に恩を売っとくのも悪かない。あとで倍にして返してもらえばいいし。ピッチも漸く静かになったな。紫野に鍵のことメールしとこう。
「どーせ損得の考えからだろ」
「どんだけ腹黒い人なの、俺」
間違ってないけどさ。熊沢って意外と鋭いのね。ピッチって使い慣れないから文字打ち間違えるぞ。
「お待たせしました」
「絶景かな」
普段のパフェが五倍くらいのデカサできた。いつものってない飴細工まである。
「いただきまーす」
「すげー、特大パフェ初めて見た」
「なに」
お兄さんにありがとーって言ってからフォークにバナナを刺して、熊沢に差し出す。
「あげる」
「嫌いなの?バナナ」
「匂いと食感が嫌」
まじまじと俺とバナナを見る隣の熊沢に早く食えって催促しながらフォークを手に持たせる。
「織田の弱みはっけーん」
「なんならバナナに埋もれさせようか中島」
場合によっちゃ食べ物も武器になる。粗末なことせずに口に詰め込んでやるから安心しろ。
「ばっかだなー」
自分の隣に座る中島に慰めとは思えない言葉を使って、右肩を叩いてる。
「食い物が織田の弱点になるならこの学校も平和だ」
「人を変なモンに例えないでね」
なんか化け物扱いされてる気がする。ソフトクリームが甘過ぎなくて好きなんだよね。美味い。人数分のスプーンを用意してくれたからみんなでパフェを食べれる。
「蜜柑ミカン」
「これ、桃?シャーベットみたいで美味い」
一般と役員用の食堂にいるシェフたちとは違って隔離部屋のシェフの中にはパティシエがいたりする。スイーツ作れる人って凄いなぁ。同じ手を持ってるなんて思えない。
「飯は食わないのか?」
「うん、一般で食べてきた」
「はぁ?!なんでまた」
「転入生来てたろ、それを見にね」
「苺美味いな。転入生って確か一年の?なんか見た目凄いらしいね」
「変装してた」
「ご苦労なことだ」
わざわざ変装だからな。あんな見てからになんか隠してます!ってモロバレな恰好する神経を疑う。それにあの内面だ。自治に転入生を同情する奴いるかな。いたら希少価値あるかも。
中学二年の頃からの登校拒否ね…調べるまでもなくメモリに経緯は入ってるんだろう。理事長の思惑はなんだろうな。スプーンを白いペーパーに置き、左にある椅子に移動し田代が避けて置いたパソコンを立ち上げ、メモリを入れる。
「人の不幸がハチミツの味したらうまそうじゃね?」
「飛びつくのは蜂よりもハエだろ」
上手いこと言うね、熊沢。あの理事長が用意してくれた情報で暫く高みの見物といこうか。
今後、ここの奴等がどう動くか考えるだけで退屈なんて言えなくなりそう。
「苺は残しといてねー」
「中島」
「遅いよ言うのが!」
「全部食ってるしコイツ」
中島。甘いもので満腹感得ようとしてるだろ。飯を先に食えばいいのに。
登校拒否の理由として上げられるのは三つ。
幼い頃から小学六年に渡り、母親から虐待をうける。中学一年半ばからクラスメートの多数人に苛めをうけ、担任の教師に相談するも校長共々から苛めはないと言われ嘘吐き呼ばわりされる。苛めはネットの掲示板で名指しするまで発展し、教室や学校に居場所がなくなる。
不登校が続き夜遊びを始めた南原は街中に屯するチーマーに近づき、学校にはない繋がりを求めてある男に接近したはいいが金蔓として利用されたうえ弄ばれた後、こっぴどく捨てられる。
壮絶な人生送ってるのはここじゃ珍しくない。虐待ねぇ…。それよりも転入生って南原って名字なんだ?データの始めの方すっ飛ばしすぎて南原って方角かと思ったぞ。チーマーつったらこの辺で分かるのは三つくらいだな。黒い夜のチームに属する生徒会は別として、性悪な男がトップで男も許容範囲な奴いたか?知ってる奴はみんな金に困ってないはずだけど。さては足元みられたな転入生。絶好のカモってわけか。
「世知辛いねぇ」
壁に寄っかかって伸ばした脚にノートパソコンを置く。屋上は丁度いい気温で風もある。風が扇風機の弱みたいにあたって気持ちいい。
「やっと見つけた」
自分以外の声がする方を見れば、王子様じゃないか。
「どったの紫野みー」
「みーはいらないから」
階段で上がってきたのか?一息吐いて日影にいる俺の隣に座ってるし。おつかれさん。
「鍵屋に問い合わせたら取り寄せになるって」
「あー、血管認識するやつはそう転がってないからな」
ま、しょーがねーべ。
「値も張るみたいなんだけど、大丈夫そう?」
「心配すんな。金が足りなきゃ理事長っていうスポンサーがいる」
「あの人、先輩には甘いよね」
どこがだよ。タヌキどころかハンター呼んで剥製にしたいわ、あんな歩く野生動物じみた人。
「パトロン?」
「馬鹿ゆーな。俺は女を抱けても男にケツの穴代償に与えるほど安くない」
「たまにデリカシーないよね、先輩って」
呆れた顔して何言ってんだ、こいつ。
「後輩にきー使ってどうする。バイトじゃあるまいし」
「雇い主になったら気遣ってくれるの?」
お前が俺の雇い主ねぇ。なんに興味持ったか知らないが、問題外だな。
「紫野が俺の後輩になった時点で無理な話」
腹もいっぱいになって眠くなるな。こういい感じに涼しいと。
「こんな所で寝ると風邪ひくでしょ。仮眠室使えば」
「いや、六限出る」
今日まともに授業聞いてないし。さすがにヤバイわ、俺あのクラス好きなのに。
「そーいやお前ってゼットだろ。どーよ、転入生は」
「あり得ないくらい教室で浮いた存在かな。自主性が当たり前のゼットで物事を強要する奴はいらないから」
「そのうちお前らにベータへ飛ばされそうだな」
やっべ、顔がにやける。今年はまだベータクラスへ降下した奴はいないし、あいつが今年度初の記念すべき脱落者になるか。
「ベータを甦らせた先輩がどーしてビークラスなの?」
「あ?実力がそんなもんだからだろ」
学習能力の話だよな?お鉢がこっちに回ってきた。めんどーだ、そろそろ教室に行くとしよう。
「暴力と透かした権力でしか自分たちを誇示出来なかったあそこにプライドを持たせた先輩がビー?信じられない」
「考えたところで、結果は出てるだろ。お前の短所は考え過ぎるとこだ。もう少し柔軟になれよ」
馬鹿みたいに考えたって出ない答えもあるだろ。壁に頭ぶつけてるのと同じだ。考えるだけ無駄。最初からワザと俺がそう仕向けてるんだし。
もーちょっと緩い脳になったら分かるかもな。
「あんまり長居するなよ、紫野みー」
「委員長」
知りたがりも悪かないが、喜怒哀楽を面に出すことを先にしろよ。
「いつでも会えるんだ、少しは自重しろ」
ノートパソコンを持って立ち上がった俺は染めてもいないプラチナブロンドを片手でかき回し、屋上のドアから出る。可愛い後輩なんてもんはいないが、ゼットの紫野ならヒントの一つや二つやったっていーかも。自力でたどり着いたらご褒美を用意してやるか。
エレベーターを無視し、階段で三階まで降りたら丁度ビーから出てきた三井に足止めを食らう。ちっ、どこまでもうぜぇ野郎だ。話を聞けば修学旅行の班決め。行く場所まだ決まってないのに気が早くない?
「俺と一緒の班になりたい人は手を挙げてー」
とりあえずクラスメートに聞くのが一番だろ。一人一人に聞くのは面倒だ。
いち、にー、さん、しー、ごー、ろく。はい、決まりました。
「おかえり」
「ただいま新田。悪いけど記入よろしく」
「アバウトな奴め」
委員長、あとはヨロシク。自分の席に来たら二、三人に囲まれては記入してる前の席の委員長、新田クンはちゃっかり手を挙げて同じ班に決定。意外とノリがいーよね。この緩さがゼットと大違いなところだ。エスなんて勝手にゼットをライバル視してヒスッてる奴ばっかだし。エーはなんやかんや言いつつナルシーオンリー。今年はビーに進級出来てラッキーだったな。
「お前に伝言だ」
「ん?」
わざわざメモしたのか前から渡された内容を見て大笑いしたくなる。
「生徒会の奴がここに?」
「双子の片割れがな」
エーなら大騒ぎになっただろうけど、ビーじゃ生徒会の奴が来ても大騒ぎになるより敬遠して歩く奴ばっかりだから逆に居辛かったろうに、ご苦労なこった。委員長は大の生徒会嫌いだけに人当たりも悪かったかもな。ドンマイ、古沢。
「みんなちゅーもーく」
漸く修学旅行の行き先が決まったんだ、寝てる奴は起きろ。
「なんと、今年は修学旅行が国内に決定しました」
海外なんて特待の奴以外はいつでも行けるし、いーんじゃね。大騒ぎする奴らの気がしれない。
「なんと北海道ときた。今の時期ウニ、イクラ、カニはあるか知らないが食い道楽な旅行に決定」
みんなで拍手。ノリがいーのはビー全体か。
市場行きたい。朝から行くと開いてる食堂があったりするし。国内のどこが悪い。海外よりも食い物が美味いんだぞ、逆に嬉しいよな。
「北海道か」
「委員長、海外じゃなくてイヤ?」
「まさか。北海道なら船に乗ってマグロ釣ってみたいわ」
「時期じゃないかもよ」
マグロって日本だと冬じゃなかった?今は海外の海じゃなかったか穫れるの。この辺はネットで調べてみるかね。
「涎垂らすなよ」
「垂らしてないし」
出来ればゼットとかエーから向こうの奴は海外に行けばいい。どーせ一流ホテルがどうの、シェフがどうの騒いで五月蝿いだけだ。やー、修学旅行の間は自治から離れられるけど代理誰にするかな。暇そうな三年でも捕まえてやってもらうか。エスカレーターな推薦決まってたら殆ど授業寝て過ごせるし。
「織田、素が垂れ流しで悪人面になってる」
「おっと、こりゃ失敬」
教室にいるとどーも気が抜ける。ペタペタ片手で顔を触って顔の筋肉鍛えられたらいいのに。やっと委員長の周りが静かになって欠伸をする。
「委員長、やっぱりホテルは函館?」
「小樽だろ」
「え」
そんな予定たててるの?
「ラベンダー見たいけど咲いてるかな?」
「まだ早いんじゃないか」
修学旅行の話で教室内が浮き足立ってるけど、次は地獄の数学だ。眠くて寝ちゃいたいんだけど数学担当の堀江に見つかったら課題山積みにされるし、授業中に問題を解けなんて言われた日には泣くに泣けない。
「席に着け」
出たよ仁王様が。騒いでた連中が我先に席へ戻っていく。起立、礼、着席を終わらせた後、窓からグラウンドを見れば体育の授業で一年がトラックを走らされている。マラソンか。
「織田」
なんて目敏い奴だ。仁王様に問題を三問出されて黒板まで歩き、問題を解いていく。全問正解で人の悪い笑みをする堀江を直視し、気分は急降下だ。滅茶苦茶眠い。もう課題でいいから寝たい。席に着いて座ってからノートを広げて教科書を開く。試しに仁王像の落書きをしてみよう、教科書に。もう直ぐ雨が振るのか、窓から湿った雨の匂いのする風が入ってくる。
「犬の遠吠え、笑う犬」end.
2022/02/5 投稿
更新凍結した連載物でした。短編に変更しています。
見ていただきありがとうございました。




