みえない祈りを
初めての企画参加です。
「うーん。なかなか良いのがないなぁ」
今日はパパがお休みの日。パソコンやぶ厚い本を広げてうなっていることろに、凪がやってきました。
「パパなにしてるの?」
凪の頭をやさしくなでながら、パパはこたえます。
「凪の弟か妹にあげる名前を探しているんだよ」
「見つからないの?」
「いろいろ見て、考えながら探すんだよ。生まれてきてくれて、一番最初のプレゼントだからね!」
どうやらパパは、赤ちゃんのお名前を考えているようです。
……あら、凪の表情がなにか考えているようですね。
「凪もさがす!!」
パパはリビングで本を広げているので、そのとなりで探すと思いきや、凪はクツをはいてお外へ出て行きました。
「お名前〜♪ お名前ー!」
凪はいつもの公園へ向かっているようです。遊びに行くのでしょうか?
公園にはいろんな名前があります。遊具はもちろん、お花も、同じ花に見えるけれど、ちがう名前がついていますよね。そして。
「にゃーん」
「あ、クロくん!」
黒いノラネコです。凪とお友だちの凛ちゃんは、このノラネコをクロと呼んでいます。いろんな人たちが、いろんな名前をつけて呼んでいるようですが、クロは気まぐれに返事をして、気まぐれにどこかへ行きます。
「クロくんはいつも自由だよね」
そう言って、凪は公園に沿って流れる川へ向かいました。
川には、大きな鳥、小さな鳥、魚もいます。みんなに名前がついています。
「お名前、ないなぁ」
元気に歩いていた凪は、疲れてしまったのでしょうか? 少しゆったりになっています。
パパとママと凪。三人で楽しみにしていた赤ちゃんの大切なお名前。一所懸命探していますが、なかなか見つからないようですね。
川沿いをそのまま歩いてゆくと、近い将来凪が通う小学校が見えてきます。
「あと少ししたら、凪もここに来るんだぁ」
小学校を前にして、少し元気が出たのでしょうか? もうお姉ちゃんですものね。
「凪、お姉ちゃんかぁ……」
すてきなタイミングで凪がつぶやきましたが、やっぱり、どこか不安そうです。
「お姉ちゃんなのに、お名前見つけられない……」
あら。失言だったみたい。もうこの時代には言ってはいけないのねぇ。私が小さい頃は、よくあるセリフだったけれど。
まだ日が沈むには早いけれど、お家に帰る頃には凪はしょんぼりしていました。
「ただいま……」
「おかえりー、凪」
パパもママも、凪がなぜお出かけしたのか分かっているので、しょんぼりの理由も分かっているわね。
パパとママは凪をソファに座らせ、なにも聞かずにゆっくりと抱きしめました。
凪は安心したのか、静かに泣き出してしまいました。
「ごめんなさい。凪、探したんだけど、お名前見つからなくて……ごめんなさい!」
「凪、おちついて、大丈夫だよ。凪は探し始めたばかりだろう? パパはもう二ヶ月くらい悩んでいるよ。あせらなくてもいいんだよ」
パパの突然の告白に、凪はびっくりです。びっくりしすぎて泣き止みましたね。
そんなに長く探しても見つからない赤ちゃんの名前。凪が一日、いえ二時間で探せるはずがないと思うのは仕方のないことです。
パパは名付けのセンスがありませんから。はぁ、誰に似たのやら。
泣き止んで落ち着いた凪は、笑っているパパとママにたずねます。
「パパ、ママ、凪の名前はどうやって見つけたの?」
きょとんとしながらも、しっかりとパパを見つめる凪はさすがです。パパとママは顔を見合わせて、パパは気まずそうにそっぽを向き、ママはニヤリとした笑顔を見せました。
「凪の名前は、凪自身も、そしてまわりにも穏やかな影響を与えられるようにと祈ったら見つかったのよ」
ママが上手くまとめました。
凪は、穏やか、とほっこりしてくれてます。
たしかあの時は、『子どもが出来たことにより、パパが半年くらい慌てふためいた生活をしていて、パパに似たら大変! 落ち着いてと願いを込めた』とかじゃなかったかしら。あの時はお父さんと二人でママさんに平謝りしたわ……。
気まずくなったのか、キッチンでお湯を沸かし始めたパパを見て、ママは静かに凪へ問いかけます。
「凪は、この子にどんなことを祈る?」
ママに聞かれて、凪は少し考えてこたえます。
「優しい! あと楽しいのがいいな!」
「そうね。じゃあ、ママと一緒に探しましょうか」
「うん!」
ママと凪は、ぶ厚い名付けの本を見ながら、やさしいと楽しいと、と名前を探しています。そんな二人を、パパは穏やかな気持ちで見ています。
時折、凪はママのふっくらしたお腹を撫でています。
「早く会いたいね!」
「そうね。パパもママも、凪お姉ちゃんも待ってますよ」
「待ってるよー! ーーー」
ありがとうございました!