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2:劣勢

 サフランとアスターが出会ったのは、3年ほど前のこと。

 まだ、サフランが魔法学校に入る前だった。


「女はね、素敵な男性と結婚することが一番の幸せなのよ」


 そう言われても、いまだ一度も恋をしたことがなかったサフランにはピンと来なかった。

 恋愛をしなくても、結婚は可能だとは知っていた。

 しかし、サフランは嫁として妻として母として、家庭に入る自分が想像できなかった。

 サフランには、魔法使いになるという夢があったからだ。


 だが、サフランは、その夢を散々馬鹿にされた。


 魔法使いになっても、きちんと食べていける者などたった一握り。

 才能がある者の中でも、更に優秀な者に限られる。

 お前なんかがなれるはずがない。


 心ない声にサフランは何度も傷付いた。

 しかし、両親を亡くして養父母のもとで育てられていたサフランにとって、

 魔法使いになる事は両親に近付くために残された道であり、自分の力を活かせる唯一の領域だった。


 サフランの希望に、養父母は良い顔をしなかった。

 サフランの両親は魔法使いであるが故に、事件に巻き込まれて死亡していたからだ。


 養父母がサフランの夢に反対したのは、サフランを思ってのこと。

 しかし、サフランにとってそれは自分を馬鹿にする周囲と同じ意見でしかなかった。


 そんな時に出会ったのが、アスターだった。

 サフランが13歳になったばかりの夏のこと。

 魔法使いを目指しているという彼は、サフランの気持ちに寄り添ってくれた。

 はじめて、夢を否定されなかった。その事に、サフランはこの上なく励まされた。


 サフランには魔法使いとしての才能があった。

 それは養父母も認めざるを得ない非凡なものだった。


 やがて養父母はサフランの熱意に押されて、試験を受ける事を認めた。

 条件は、一度で合格すること。


 受験資格はたったひとつ。15歳になっていること。

 

 サフランは必死で勉強に励んだ。

 あらゆる魔法書を読み漁り、昼夜を問わずに勉強した。

 昼はアスターと共に、夜は遅くまでひとりきりで、ずっと勉強を続けた。


 出会った翌年。

 アスターが、魔法学校の入学試験に合格した。

 次は君だと励まされたとき、サフランは二つの夢を持つようになっていた。


 魔法使いになること。

 アスターと同じ学校に入ること。


 アスターは試験に合格してから、更に優しくなった。

 恋愛というものをサフランが知ったのは、その頃のことだ。

 いじめられっ子だったサフランに、1つ年上で人気者のアスターはまぶしい存在だった。

 魔法使いとして同じ夢を持つ、兄のような恋人。

 サフランは舞い上がっていた。


 成績優良者として名を連ねて、トップクラスの成績で入学を果たしたのが去年のこと。


 そして今年。2年生への進級試験に合格を果たしたサフランは、

 誰よりも先に報告したくて、彼を探していた。


 まさか彼が、中庭でフリージアと唇を重ねている事など、知る由もない。

 彼が裏切るなどと、サフランには想像もできなかった。



☆ ☆ ☆



 進級試験合格発表の翌週。

 週明けに登校したサフランを待っていたのは、いわれなき中傷だった。


「どうして……」


 教室から逃げ出したサフランは、古い書物が置かれた資料庫でうずくまっていた。


 「あなた、アスターのストーカーだったんでしょ?」

 「成績も不正だって聞いたわ」

 「アスター先輩がかわいそう」

 「試験だって先輩に助けてもらってたんじゃないの」

 「入学試験だって、実力ではないのではなくて?」

 「フリージア先輩をねたんだって?」

 「身の程知らずな子」

 「おかしいと思ったのよ。アンタみたいなブスと付き合っているだなんて」


 週末のうちに、女子生徒の間で噂が広がったらしい。

 知らなかった。そんなことまでされているなんて。

 知らなかった。女がそんなやり方をするだなんて。


 アスターとの交際と勉強に必死で、友達など作らなかったサフランはひとりぼっちだった。

 かばってくれるクラスメイトなどいるはずもない。


「……何それ」


 確かにサフランは目立たない地味な容姿をしている。

 目はフリージアのように青くない。茶色だ。

 髪もフリージアのような金ではない。栗毛だ。


 背が高くてかわいい服装など似合わない。

 鼻は低めで、唇だって愛らしい花の色ではない。


 フリージアが美しいからといって、どうしてここまで言われなきゃいけないの。

 サフランは、溢れてくる涙を拭いながら、苛立っていた。


 入学試験も進級試験も実力だ。

 それなのに、どうしてそこまで疑われなければならないのか。


 美青年が自分のようなブスと付き合っていたことが、そんなにも妬ましいのか。



 ぐすぐすと泣いていたサフランは、扉が開かれたことにビクついた。

 たくさんの書物が詰め込まれた棚の間を縫うように、足音がひとつ近付いてくる。


 誰かはわからない。でも誰だっていい。

 会いたくない。不細工が泣いていると笑われるだけだ。

 膝を抱えたサフランは、みじめな気持ちでいっぱいだった。


 足元はサフランの前で止まった。

 ちらりと見れば、そこにはほっそりとした脚がある。


 彼女は言った。


「泣かないで、サフラン。あなたの力になりたいの」



 慌てて顔を上げたサフランは、そこに一人の少女を見つけた。



「シンス……」



 華奢で可愛らしくて愛らしくて、声まで可愛い美少女。

 成績も優秀で、成績発表の際には自分と名前が並ぶことの多い相手を忘れているはずがない。


 その美しい金髪を、サフランは睨みつけた。



 サフランは、シンスが大嫌いだった。

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