14:魔女
その日の夜。
サフランと別れて一人になったシンスは、夕食を食べながら考えごとをしていた。
大罪人の血縁。
あの日、双子の魔法使いハイドとドランが再現した幻想のアスターは、
サフランのことを確かにそう言っていた。
ユーフォルビアは、かつて最年少で王室付き魔法使いになったという天才だ。
しかし、禁忌術に手を染めたとして国を追放されたという悪名高き魔女でもある。
サフランがその血縁者だというのか。
そのことを気にしたシンスは、サフランに確認するべきかを迷ったが、
もし、サフランがユーフォルビアの血縁であったとしても、関係のないことだと思い直した。
そんなことよりもアスターのことが重要だった。
サフランに言った通り、
もし試験で不正を働いたというのなら、相応の罰は必要だ。
きっと試験の件に関しては、フリージアの関与はないだろう。
シンスはそう考えていた。
フリージアには、その点でメリットがあったようには思えなかった。
食事を終えて食器を洗い、
歯を磨き、ついでに髪を梳いて、一息をつく。
髪は短くなってしまったが、後悔はしていない。
髪はそのうち伸びてくるものだ。
しかし、サフランが負わされた傷は一生付き纏うかもしれない。
ユーフォルビアのことをアスターに教えたのは、ハイドとドランだ。
それは、本人たちがそう言っていたから、きっと確かだろう。
あのタイミングで嘘をつく理由が、あの双子にあったとは思えない。
「……厄介だわ」
サフランがユーフォルビアの血縁者である。
それが本当であれ嘘であれ、またうわさが流れるようなことがあってはいけない。
サフランばかりが何度も傷つくようなことにはしたくなかった。
ただ、今のままでは遅かれ早かれ、アスターからユーフォルビアの件が漏れる可能性はある。
鏡の前でじっと自分の顔を見つめながら、シンスは溜め息をついた。
「……しっかり考えてシンス。サフランを助けるには、どうすればいいのか」
まずはアスターの動きを確認する必要がある。
そのためには、上級生たちに話を聞く方が手っ取り早い。
ただ、内容が内容だけに話を漏らす人物には聞けない。
シンスが悩んでいると、そこにノックの音が届いた。
こんな時間に誰だろう。
怪訝に思いながらドアに近付いたシンスは、
思いもしない人物の声を聞いた。
「やあ、シンスちゃん! 開けてほしいんだけど」
ドアの向こう側にいたのは、
サフランを笑い飛ばしていた男子生徒エニスだった。




