10:遭遇
「──サフラン!」
階段を駆け上がって地下倉庫から飛び出したシンスは、
慌ててサフランの姿を探したものの、既に周辺にその姿はなかった。
まったくとんでもない双子だ。
いいや、本当にとんでもないのはアスターだ。
シンスは軽くなった髪を揺らして歩き始めた。
髪は女の命とも言う。
確かにシンスは、自分の髪を大切に伸ばしていた。
だが、傷付いた友達よりも大切だとは思えなかった。
「サフラン……」
彼女がどこに行ったのか分からず、シンスは不安げに眉を下げた。
先ほどの話は、今のサフランには刺激が強すぎた。
知らなくても良い真実だって、この世には存在する。
知ったからといって、どうしようもない事だってある。
しかし、シンスは後悔していなかった。
あの双子から与えられた情報は生々しすぎて刺激が強かったが、
それと同時に確かに使える情報のように思えたから。
アスター先輩は、サフランに試験を解かせていたのかもしれない──
シンスは歩きながら眉を寄せた。
試験問題の出どころは不明。
だが、あの双子がいれば、それも簡単に入手できそうな気がした。
サフランは試験の問題だとは知らずに、答えを与えていた可能性だってある。
楽に進級試験も定期試験もパスできると踏んで、サフランと付き合ったのなら。
アスターの狙いが、サフランの頭脳だったとしたら。
「──最低ね」
シンスは眉を下げて嘆息した。
まったくもって。つくづく最低な男だ。
それ以外の言葉が浮かばないほどに、シンスはアスターを軽蔑していた。
「あれ、シンスちゃんじゃん」
「こんなとこで何してんの?」
廊下の角を曲がったとき、二人組の男子生徒に声を掛けられた。
「ごめんなさい。急いでいるの」
名前も知らないような生徒だ。
馴れ馴れしい呼び名が嫌で、シンスはすぐ脇を通り抜けようとした。
「待って待って。何かお探し?」
「なになに、急ぎって? 彼氏とか?」
しかし、二人組はすぐに廊下を塞いだ。
「シンスちゃんに彼氏とか、スキャンダルじゃん」
「こんなかわいーのに彼氏いないとかねーだろー」
くだらない話をしてゲラゲラと笑っている二人組に対して、
シンスはいっそ溜め息のひとつでもつきたい気持ちになっていた。
廊下を進む事をあきらめたシンスは、すぐ傍にある階段に入り込んだ。
「シンスちゃん、最近サフランと仲良しみたいじゃん」
その一言にシンスは階段を上がりかけた姿勢のまま止まった。
振り返ると、二人組はにやにやと笑みを浮かべてシンスを見ていた。
「なんで? なんで急に仲良しになったの?」
「やっぱ振られてかわいそーだから、とか?」
探りを入れているのだとすれば下手すぎる。
単なる好奇心だろうと判断したシンスは「違うわ」とだけ告げて二階を目指した。
そのとき、上階から誰かが降りて来る音がした。
顔を上げたシンスは、そこにいた人物を見て息を飲んだ。
「あら、ごきげんよう。シンス。久し振りね」
階段を降りて来たのは、
フリージアだった。




