1:目撃
愛してくれていると思っていた。
しっかりと手を取って、いつでも優しい言葉をささやいてくれるから。
唯一の人なのだと感じていた。
いつだって、私の味方をしてくれるものだと信じていたから。
魔法学校を卒業したら、結婚してほしいとまで言ってくれていたのに。
「──……うそ」
美しい花々が咲き誇る中庭。
その中央にある東屋は、簡素な造りをしている。
日よけのための屋根とそれを支える柱を中心にテーブルが広がり、それを囲むようにベンチがある。
その東屋のベンチに腰掛けた二人の男女。
まさしく美男美女の組み合わせに、通りすがった──サフランは息を飲んだ。
だって、そんな。まさか。
男性の方は、サフランと結婚を前提に交際をしているはずのアスター。
対する女性の方は、学校内でトップを争うほど美しいフリージアだった。
二人は手を取り合い、あろうことか口付けまで交わしていた。
「ああ、フリージア。君は本当に美しい」
口付けを解いて間もなく、吐息交じりにアスターが告げた言葉に
サフランは目の前が真っ暗になった。
サフランは、決して美しい少女ではなかった。
目は大きくなく、少し釣り目がちで鋭い印象がある。
フリージアの見事な金髪に敵うはずもない栗色の髪。
豊満さに欠ける胸元も、少し低い鼻筋も、決して美しくはない。
気が付けば、サフランはその場から逃げるように駆け出していた。
たえられない。たえられない。耐えられない!
だから夢だと言って。あんなの悪い夢だって。
やさしいお姫様は、素敵な王子様と出会って結ばれる。
醜い娘は、魔法使いの力で美しい姿を手に入れられる。
一度愛された者は、一途にずっと愛し愛されるもの。
そんなの、──ただのおとぎ話。