となり
初めて投稿します。よろしくお願いします。
「たっくん、美香ちゃん今日もお願い!」
「おう!頑張れ!」
「はいよ!頑張れ千晴!」
大袈裟に深呼吸してる千晴を見る。
隣で応援をしてる美香を見る。
そして、千晴の手を握る俺。
(このままでずっと3人で一緒にいたいな)
なんて、思ってる俺は多分負けてる。
千晴の恒例の気合いの入れ方だ。
ここ最近頻繁にある。
その理由は高校の先輩と話すために先輩のバイト先の喫茶店に入る前にいつもやってるからだ。
俺たちは小学生からの腐れ縁で高校まで一緒に来てしまった。離れたくてもなんだかんだ今まで一緒に過ごして来たんだ。
ちょっと変わったのが、高校入会早々に千晴が一目惚れした事だ。一個上の先輩で、弓道部のエースらしい。真剣な眼差しがかっこいいって千晴と美香が言ってたからな。
「じゃ、行ってくるね!また明日!」
顔を真っ赤にしながら一人で喫茶店のドアを開けて千晴がちょっとぎこちない歩き方で入っていった。
「さっ!私たちは千晴が話せたかメールを待つとしようか!泰輝行こう!」
喫茶店を背にして美香が笑顔で話しかけてる。
本人は分かってないかもしれないが、少し表情が暗く見えるのは俺の勘違いならいいと思う。
「そうだな。……そういえば公園に美味しいクレープ屋が来てるって言ってたな。行く?」
「本当?行く!行きますとも!先に着いた方がおごってもらえる事にしょう。お先に〜!」
「おい!ずるいぞ!」
笑いながら、一足先に公園に走って行く美香を追いかける。
(このままがいい。かわってほしくない)
このままの関係が良い、なんて思ってる俺は自分の心に負けてる。
夏になり、千晴は学校でも先輩と話せる関係になった。それによって俺らといる時間も少しづつ減っていった。必然的に俺は美香と二人でいる事が多くなる。
移動教室で移動中に、先輩と話す千晴を廊下で見る。キラキラしてる千晴は眩しかった。
「あの二人いい関係になるといいね」
隣で美香がそう言った。
「そうだな」
笑ったのかわからない表情の美香を見ないようにして答える。
(まだ変わりたくない。もう少しだけ)
思ってはいけない事を考える俺は、本当の気持ちに負けた。
秋になって、美香と二人で帰る事が多くなり、あっちこっちの美味しいもの求めて歩くようになった。
「今日も美味しかった!泰輝ありがとう!そういえば千晴からメール来た?」
「あー。告白するってメールか?」
「うん」
美香の寂しそうな瞳は、夏とは違う風の冷たさのせいだって思う事にする。
「千晴長かったね。やっとって感じかな。ねぇ、泰輝。上手くいったら、3人でお祝いしようね」
「あぁ。この前行ったチョコケーキの美味しい店でも行くか。千晴、お土産のシュークリーム食べて、今度はケーキも食べたいって言ってたろ」
「うん!泰輝にしてはいい考えじゃん!」
バシッと笑いながら肩を思いっきり叩いてる。
サプライズにしようかな、なんて言って笑顔の美香を見る。
大丈夫かなんて、心配してる俺はなんなんだろう。本当はどう思ってるのなんて、聞いて俺はどうしたいんだろう。
(お願いだから変わらないで。まだ君の隣にいたい)
でももう、無理なのかもしれない。俺はそれ以上を望んでしまった。
「たっくん、美香ちゃん。オッケーもらった!」
「……千晴!おめでとー!」
「良かったな!」
「2人ともありがとう‼︎」
あれから数日後、放課後先輩に告白しに行った千晴は笑顔で教室に戻ってきた。そして、先輩と手を繋いで幸せそうに帰って行く。
「……千晴幸せいっぱいだね」
「本当に良かったな」
夕方の教室に2人で千晴と先輩が校門から出て行くのを見ていた。良かったねって美香が笑ってたから。寂しそうに笑ってたから。夕陽に涙が光ってたから、動けなかった。
「……ごめん」
慌てて顔を背ける美香。
(この関係が変わってもいいから。そんな顔を見たいわけじゃないんだ)
俺は美香を抱きしめた。我慢できなかった。だって俺は。
「ねぇ……俺じゃダメ?」
いけない事だってわかってるけど。
「先輩の事好きなのはなんとなくわかってた。
でも、俺じゃかわりにならない?」
心の隙間に入れるなら。
「先輩の代わりでいいから、俺と付き合って」
まだ、好きじゃなくていいから。代わりでいいから。
「美香。好きだよ」
君が好きだから。だから……。
そっと、美香の顔をぞき込む。
「……あっ。えっ?ウソ……」
「美香?」
美香の顔が真っ赤になってる。
夕陽のせいじゃ……ない?
「あっ。……わ、私、泰輝は千晴が好きだって思ってた。だから、私のせいで千晴と先輩付き合っちゃたから。だから……っ。」
美香と目があった。俺を見て顔を真っ赤にしてる可愛い顔。
(期待していい?聞きたかったとこ聞いていい?)
「ねぇ、美香は俺の事どう思ってるの?」
美香は俺の目から逃れるように、目を逸らした。
「どう思ってるの?教えて」
観念したように美香が、小さな声で
「わ、私は、泰輝が……。……好き」
「本当に?」
コクンとうなずく仕草が可愛い。
「ありがとう。美香、下校時間になるから帰ろっか」
美香の前に俺の手を出した。美香はびっくりしてたけど俺の手に自分の手を重ねてくれた。
俺は美香の手をギュッと握って、まだ恥ずかしがってる美香の手を引いて学校から出た。
いつもと変わらない下校風景なのに、手の中にある温もりだけでこんなに違うのかなんて思った。
いつまでも、隣の可愛い笑顔と一緒に。
読んでいただきありがとうございました!