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中編

その後、人間と魔王軍の戦いは熾烈を極めた……らしい。

疑問符がつくのは、仕方ないだろう。超がつくほどド田舎な村には戦火が及ぶこともなく、戦況など伝聞でしか知ることができないからだ。


俺は、日々田畑を耕しながら息子の帰りを待っている。

一年、二年、三年の時が過ぎ、ようやく風の噂で勇者一行が魔王を倒したと聞いた。

息子も帰ってくるなと、俺が思いはじめたある日のこと……家の古いドアがドンドン! と叩かれた。


「誰だ? こんな時間に。――――息子だったらいいんだが」


俺は、すっかりクセになった独り言を口にしながらドアの方へと移動する。

もっとも、そうは言いつつも、訪れてきたのは息子ではないだろうとも思っていた。

なにせ我が家のドアには、鍵なんてかかっていない。息子ならノックせずに入ってくるに決まっているのだから。


「はいはい、どなたさま? ――――って、へ? 息子ぉ?」


俺は予想が外れてビックリした。

息子の無事な帰還は嬉しいのだが、どうしてこいつは柄にもないノックなんてしたんだろう?



「……ただいま、親父」


「――――はじめまして。お父上さま」


その答えは、すぐにわかった。

なぜか元気のない息子のすぐ後ろに、見たこともないような立派な衣装を着た男が立っていたからだ。

長い黒髪に切れ長な黒い目。白い肌と赤い唇。おまけに頭の両脇に大きな巻き角をお持ちの人外イケメンに、俺はパカンと口を開ける。



「お、お、お父上さまって?」


それはいったい誰のことだ?


「あ~。とりあえず、中に入れてよ、親父」


頭をボリボリとかく息子の言葉に、俺は混乱しながらも二人を招き入れた。

俺の古い木の家のすり切れた床板に、人外イケメンの長いローブが引き摺られる。

高価な布が傷まないといいなと、チラッと思った。





そして、その後、男所帯でいろいろとっちらかった我が家のリビング兼ダイニング兼キッチンのテーブルに座った息子と人外イケメンから、俺は事情を説明される。



「…………は? 魔王を倒した? 兵士Cのお前が?」


これ以上ないほどに目を見開く俺に、息子は渋い顔で頷いた。


「だから、その兵士Cってのが、わけがわからないんだけど。……まあ、でもその通りだ。……だいたい、親父がいけないんだぞ! 『勇者を盾にして逃げ回れ!』なんて言うから」


息子は恨みがましく俺を睨んだ。


なんでも、律儀に俺の言葉に従った息子は、進軍しはじめた当初の頃は、ひたすら戦いから遠く離れて逃げ回っていたのだそうだ。

そして、兵の数が減って逃げることができなくなった戦争終盤では、自分よりも強い仲間の背中に隠れる作戦に切り替えたという。

しかも、どうせ隠れるなら軍の中で一番強い勇者がいいと思ったのだと。


「はあ~? バカなの? お前」


「バカって言うな! 親父がそうしろって言ったんだろ!!」


たしかに言ったが、まさか本気でそんなことをするなんて思っていなかった。


「比喩だよ! わかれよ!」


「わかるか! んなもん!!」


親子の世代間ギャップは、異世界でも大きい。



ともかく結果として、息子は勇者の背中につき従うようになった。

そして、そんな息子を、勇者は気に入ったのだという。


『俺の背中を任せられるのは、常についてきてくれるお前だけだ!』


勇者からの信頼を得てしまった息子は、戦いの最前線に出るようになった。



「――――勇者は、友だちの少ないタイプだったのか?」


「ああ、まあ“勇者様”だったからな」


英雄は、時として孤独なものだというが、そういうものかもしれない。


それでも勇者は強かったし、勇者の周囲には、聖女や国一番の魔法使いが常に結界を張ってくれていたから、ついでに息子も守られて安全だったそうだ。


――――しかし、それも魔王との決戦の場まで。

魔王城の玉座の間ではじまった戦いは熾烈を極め、聖女も魔法使いも次々に倒れ、そして勇者は魔王と相打ちになったそうだ。


「俺も、もうちょっと魔王の剣が長かったら勇者と一緒に串刺しになるとこだった」


いやぁ、危なかったと息子は言い、俺はぞっとする。


「そんな危険な場所までついていかなきゃよかったのに!」


「だって仕方ないだろう? その頃には他の奴らは全滅していたんだ。勇者と離れたら最後、俺もその場で死んでたよ」


あっさり言われた言葉に、俺は目を瞬かせた。



「へ? 全滅?」


「そうそう。生き残ったの俺一人」


息子は自慢そうに胸を張る。


…………それって、人間側の負け戦なんじゃないか?

あれか? 突撃軍は壊滅したが敵の大将首だけは取ったとか、そういうこと?

人間は勝ったのか? 負けたのか?

魔王軍はどうなったんだ?


俺の頭は混乱する。



「……勇者が魔王を倒したんだよな?」


「違う違う。言ったろ、魔王を倒したのは俺だって」


そう言えば、そんな話だった。


「え、でも、さっき相打ちって?」


「あ~、そうなんだけど。そうじゃなくってさ。…………えっと、魔王の剣は勇者の心臓を貫いたんだけど、勇者の聖剣は、ちょっとだけ浅かったんだ。瀕死にはしたんだけど、息の根は止められなくって。……だから、勇者の後ろにいた俺が、勇者の脇から手を伸ばして『エイッ!』って最後の一押しをしたんだよ。それで魔王は死んだのさ」


息子は片手を伸ばし「エイッ」と言って手を突き出す身振りをする。


俺は「ああ」と納得した。

兵士Cなはずの息子が魔王を倒したなんて、どんなマジックかと思ったが、聞いてみればなんてことない。瀕死の魔王にとどめをさすくらいなら、兵士Cでなくても、DでもEでもできるだろう。


そうそうそうかと納得していれば、ここまで黙って聞いていた人外イケメンが、ずずいっと身を乗り出してきた。



「それでは、この後の話は私がいたしましょう」



そう言った。

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