冬の魔物
ぬくぬくと心地よく、どうにもならない。これが魔物の力なのだろう。こたつから出られない。動けない。がんばれば動けないことはないが、動きたくない。
窓の向こうに、星空がみえる。
陽は沈んだものの、苔が光っていて、室内はぼんやりと照らされている。
右側を見おろせば、こたつ布団から顔を出した、白い猫が眠っている。ずいぶんと気持ちよさそうだ。そういう体勢も捨てがたいとおもうが、どうにも身体が固まりつつあって、座椅子を動かすのも面倒だった。
こたつ布団のなかから、右腕を出してみる。
苔の面積が増しており、皮膚の状態も、だいぶ石っぽくなってきた。
左腕も似たような状態で、たぶん、全身がそんな感じになっている。こたつから出られなくなって、気づいたらそうなっていた。いまになっても恐怖はない。ぬくぬくとして、心地よいだけだ。
ぼんやりと照らされた室内で、ぼんやりと星空をながめる。
悪くない気分なのが、どうしようもない証拠だろう。
右側を見おろせば、白い猫。
名前は知らない。そもそも猫を飼ってはいない。この白猫もまた、いつのまにかそこにいて、だらだらと惰眠をむさぼっていた。魔物の正体ではないかと推察できるが、どうにも悪くない気分のせいで、いまひとつ自信がない。
徐々に固まりつつあるのは、体感でわかる。
このままリアルな石像になるとすると、発見者の対応が気になるところだ。行方不明となった住人とそっくりな石像が、こたつでくつろいでいるわけで、無駄に精巧な現代アートとして処理されるのだろうか。そんな作品の制作者とみなされるのは嫌なのだが……これはまずいな。反論のしようもないのに、ちょっと半笑いなのに、けっこう固まってきている。せめて、もうすこし──。