小説を書き始めて、撤退しました(通算2回目)
【はじめに】
この後書きは、本作をどのようにして書いたのかを記すものです。いわゆる「メイキング」、「楽屋話」ですね。私はこの手のものが大好きで、自分の作品にも書いています。
前作『ファンタジー・ワールド・オンプラネット』では、この後書きと同様の内容を、別作品『初めて小説を書いてみたら想像以上に大変でした。』にして投稿しました。これが存外に目立つことになり――瞬間ですがエッセイの日間9位に。ハイファンタジーのランク入りはとても分厚い壁があったのに、エッセイのそれはペラペラでした――、今回はそこまで長くないこともあって作品末に添えることにしました。
執筆過程についてはメモを残していたわけでもなく、記憶を美化し話を盛りながら再現しています。経緯はかなり整理して記載したものの、事実は七転八倒、当時の思考を追っていただくのは大変だと思います。ご容赦ください。
前口上は以上です。
ご関心をお持ちいただけるようでしたらお楽しみ下さい。「現実編」より文字数は多いです。
【目標のようなものを立てました】
初めて書いた前作は、約10万文字、三人称視点、RPG系設定の作品でした。そこで2作目は、こうした点で1作目とは異なる作品にしようと、次のような目標を立てました。エッセイを書き終えたすぐ後、2019年2月中旬のことです。
1)20万文字書く
10万文字、書くのは大変だったのですが、力尽くで書き進めて、曲がりなりにも書けてしまいました。でもその倍の20万文字にもなれば、さすがにもっと計画性のある執筆が必要になるように思え、前回とは質の異なる執筆活動を経験できるだろうと挑戦することにしました。
ただ量を追求すると、中身がスカスカの作品になりかねません。そこで一旦2割増し、つまり24万文字を書いて、推敲の段階で4万文字を削ることで、作品の密度を高めようと目論みました。
2)「視点」をきちんと会得する
この目標については、前作の顛末を説明する必要があるでしょう。前作では1人称視点で書き始めて早々に挫折し、3人称視点に替えたのは良いものの、視点の扱いを最後まで自分のものに出来ませんでした。3人称視点の文章で視点がコロコロ移ることを「head hopping」と言い、読者が混乱しやすいのでタブーとされています。ですがどうしてもこれをやってしまい、その修正に苦しんだのです。
今振り返ると、漫画やアニメなど映像付きの物語と同じ調子で登場人物の心情を書いていたのが敗因だと思います。2作目を何人称視点で書くかは決めませんでしたが、基礎的な技術をクリアして、読者が混乱しない作品にしようと志しました。
3)ストラテジーゲーム系の物語にする
「ストラテジーゲーム」って、分かりますでしょうか?
私の周辺では、「シミュレーションゲーム」は通じても「ストラテジーゲーム」は通じなかったりします。寂しい。これはコマをちまちまと動かして陣地を奪い合う、戦争ごっこゲームのことです。「なろう」の公式キーワードに沿えば、「オリジナル戦記」を書く、ということになります。
それでこのジャンルの(更に言えばターン制の)ゲームの楽しさを表す表現に、「もう1ターン」というフレーズがあります。これは「次にこのコマンドを実行したらどうなるだろうか?」と試したくなり、いつまで経ってもゲームを中断できず気がついたら徹夜する、といった風情を表しています。――こうした中毒性のある面白さを、小説に持ち込めないかと思いました。
【ストラテジーゲームをデザインしてみました】
この程度の構想だけで、早速2作目の出だしを書いてみました。書きたくなったから、書いただけです。
ゲームに怪しげなチートMOD(※ゲームを改造するデータ)を入れてクリアしたら、PC画面に吸い込まれ、ゲーム内世界に転移されてしまった、という物語導入。ゲーム内の武将たちが実体化して、崇められたり、蔑まされたりしながら、周辺を探索し、現地人と接触したりして、現実世界に帰還する方法を模索していきます。――いくらでも書き進められそうな感触がありました。
そこで今度は、物語の設定にも繋がる、ゲームの仕様について考えてみることにしました。ストラテジーゲームの多くは、ゲームプレイ後半の展開が単調になりがちで作業感が増す、という欠点を抱えています。この問題について自分なりの解決策を出しておきたいと思ったわけです。こういうことを考えるのは、楽しいですし。
1)武将を短命にする
武将は短期間に成長して全盛期を迎え、やがて衰える存在にします。またその能力は子に引き継がれるものとします。この設定により、プレイヤーはゲームの初めから最後まで、継続して武将編成を考える必要があり、緊張感が続くはずです。ご存じの方はスポーツチーム経営ゲームや競走馬育成ゲームの楽しさを思い浮かべると良いでしょう。
物語の設定としてみると、これは世界の根底に「出会い」と「別れ」が短期に生じるメカニズムを組み込むことになり、次々と「感動の物語」を生成できそうです。
――この発想は『Re-birth』の武士が30代半ばで引退し、ひいては伝説的武士の余生が記録されないという中核の設定へと連なっていきます。
2)地理関係を変化させる仕掛けを用意する
一般に争い事は基本的に隣接した国や部族の間で発生します。そして通常、地形は変化しないので、国と国との隣接状態は固定されたままです。そこを覆そうとファンタジーな仕掛けを考案します。
この世界にはモンスターが巣くう洞窟や塔がそこかしこにあって、周辺の人の往来を阻害している。これらはボスモンスターを倒すと消滅するが、また別の場所にポップする、というものです。更にその場所はランダムだが、結界や儀式によって確率を高めたり低めたり出来る、と設定しました。
こうすることで通商で栄えていた国が一気に不景気になったり、ダンジョンが謂わば要塞となって強国の侵攻から守られていた小国が突然ピンチになったり、といった事態を引き起こせます。外交により国と国との関係が変化するといった展開とは異なる、新鮮味のある物語転換を用意できると考えました。
――これは、大和国が結界によりチート的な存在になる設定へと形を変えていきます。
【主人公のチート能力を考えてみました】
続いて主人公の設定です。各武将が実体化し、主人公は君主に憑依します。各武将は特殊能力を持っているのですが、チートMODにより「復活」能力を備えていることにしました。
最初に思いついた能力は「不死」でした。主人公が未知の世界でも、積極的にリスクのある行動を取れるようにするためです。ただこれだと生き地獄を味わう羽目に合う可能性があるなと某有名漫画のラスボスを思い出し、「事前に指定した場所に蘇ることが出来る」という能力に変更しました。
――そう、この設定が「Re-birth(再誕)」そのものになります。
【そして撤退しました】
こうして快調に筆が進むかに思えたのですが、すぐに減速します。
まず設定を要する事項が膨大。味方武将たち、周辺諸国の事情とその武将たち、洞窟や塔のモンスター、魔法とスキル、……キリがありません。
次に物語の記述難度が高い。初期はまだ良いのですが、活動を進めるに連れ、西に東にと複数の敵対的な集団、友好的な集団と向き合うことになります。これらを順に少しずつ話を進めるのか、1集団とのやりとりを一気に進めて時間を巻き戻してまた進めるのか、うまく記述しないと混乱すること必至です。またいずれにしても、かなりの長編になるのは間違いありません。20万文字で納まるような話になど到底ならない。
そして致命的だったのが主人公の動機付け。現地人殺傷を受容する心理に持ち込む展開が、奴隷解放とか種族差別解消とか一般的な事情しか思いつけませんでした。更に現実世界に戻る手段も、意外性のある仕掛けを考えつけず。MOD作成者は異世界と何らかの連なりがあるのでしょうが、こうした物語顛末のための設定を考えるのは、ゲームシステム系の設定を考えるのとは違って、楽しくないのです。
それでもそこは凝らなくてもいいと割り切ったのですが、小説を書く気持ちはどんどんと失せていき。
こうして2作目は、3月初め、書き始めて2週間ほどで一旦止まりました。
「小説を書き始めて、撤退しました」の第1回(?)は、エッセイ『初めて小説を書いてみたら、想像以上に大変でした。』に記載しています。