□新たな頭
「あなたさま!」
「秋!」
京と菊に看取られて、佐脇が往く。
ったく、最後に仮病かよ。すっかり騙されたぜ、格好付けやがって……
【従魔召喚!】
大空洞に、所狭しと100羽の鳩が現れる。
動き始めやがった最後の首を、鳩の大群で取り囲む。
俺を苦しめてきた念の靄も、くっきり晴れた。
菊と京との念信も最大に。
【ほかの首と干渉しているのです】
既に仕留めた左右の首は、まだ動きはするものの、棒立ち状態。
奥の首の可動範囲を狭め、菊にとって、ちょうど良い踏み台になりそうだ。
【3連斬!】
菊が攻撃開始。
凄みを一段と増している。
舞う2刀の内の1刀は、あの譲られた刀。
菊自身が振るう1刀に勝らんとする威力で、大蛇を刻む。
【特に変わったところはないのです】
……それは、どうだろ? 今は攻撃を菊に任せ、緩慢に動く左右の首を警戒している京はそう言うが。
奥の首は、長さを伸ばしたり縮めたり、ときにジグザグ状に変形したりと、極めて変則的な動きを示している。――これらはめちゃくちゃ特殊だ。1つ1つの変化が十分に初見殺し、たとえ特級武士といえどあの攻撃を前にしたら、無傷では済まないように見える。
ただこの場では、俺の鳩の威力偵察でどれも観察済み、京がすっかり解析しきっている。加えて菊は宙を駆る剣聖、最大念信で鳩の視野も共有して死角も無いので、一方的に攻められる。
【はっ! 3連斬!】
並の念食獣ならとっくに消滅している深い切り口に、菊の3連斬が追撃する。
天井にその首を伸ばし、硬直する大蛇。
【菊、京、一旦、距離を取ろう!】
【はい!】【分かったのです!】
俺の元に飛び戻ってくる、菊と京。
2人とも息が荒い。
身体あちこちの傷や痣が、また深くなっている。
俺の目には捉えられない攻撃を、食らっていたのか……
さすがに最後の首も、油断ならなかった。
大蛇はだらりと、3本の首を下げる。
しかし、消滅する気配は無い。
30年前は1人の武士が――おそらくは3代目の菊が――差し違えて致命傷を負わせ、佐脇さんは1人撤退した、という話。
これがその状況の前触れなのか?
【まだ来るわね……】
菊の言うとおり。
3つの首に、力が戻る……
【変形しているのです……】
京の言うとおり。
蛇のような頭部が、別の何かへと、形を変える……
【従魔召喚!】
再び100羽の鳩を召喚、3つの首に襲わせる。
――くそっ?! 反則だろ……
3首とも、個別の意志を持って、反撃してきた!
――□――□――□――
【反則ではないのです。こいつらはBレベルなのです】
菊とともに、変形した大蛇に斬りかかる京。
……かもしれないが。
だとしても、Aレベル1頭と、Bレベル同時3頭、どちらの相手がマシなんだ?
【――Bレベルなのは、恐らく佐脇さんのお陰なのです】
戦いながらも、感謝がこもった京の念。
30年前は大軍師の京の念を補給されたが、今回は衰えた佐脇の念に抑えた、ってことか――
【2連斬!】
派手な跳躍は控え、体力を温存する菊。奥の、今はトラのような頭に変化した首に、連撃を加える。左右の首が邪魔だが、奥の首は可動範囲が狭く、攻めやすい。
右の、ゾウのような頭の首は、あの返還された青白い1刀が牽制。
左の、サイのような頭の首は、京が相手だ。
【これで決めるのです!】
菊よりも早く。
京がついに、サイの首を切り落とす。
左の首はB-レベル。3つの首の強さには、ばらつきが見られた。
だけど――
【今度はウシなのです――】
こいつ、あの西洋竜と同系統なのか?
別次元に控える念体が、膨大に蓄えられた念に取り憑き、即座に取って代わるタイプの念食獣。
――どうする? 今から長期戦なんて、できっこない。
西洋竜を仕留めた菊の別次元を斬る技は、念食獣の動きを封じておく必要がある。そうでないと、隣接した次元の捕捉が難しいらしい。
三つ首のコイツは、大鳳さん同等の剣聖が3人いないと止められないことになる……
【2連斬! 落としたわ!】
菊も、奥の首を切り落とす。
肩で激しく息をし、一旦、距離を取る。
――って、あれは?!
【酷いのです!!】
【そんな!!】
2人から悲痛な念信が届く。
奥の首に浮かび出た、新たな頭が――
人間の、女性のそれだった!!