□洞窟
「よし、一文字くんも老良くんも、もう十分だろう」
菊と京の動きを検分していた、佐脇が言う。
どうしてお前に、そんなことが分かるんだ? 大した念深でも無いくせに。以前の仲間と比べて判断しているのか?
「佐脇くん、行くのか……」
「はい! 今までご支援ありがとうございました」
荒木さんが佐脇に声を掛ける。
外見は、佐脇が50よりもっと老けて見え、荒木さんは30より若く見える。伝説的武士の事情を知らなければ、双方の敬称の使い方が逆で、奇妙なやりとりだと感じるだろう。
佐脇のヤツ、小憎たらしくも、俺以外には言動は丁寧なんだよな。ただ、自覚は無いみたいだが女性相手にチラ見しているのがバレバレで、目が緩んでエロいことを考えているのが表情に出て分かりやすい。菊や京は苦笑いして我慢しているが、硬派な態度を気取っているだけに実に滑稽、見ている俺の方が恥ずかしくなってくる。
「そうか、長かったな…… よし、武士隊とスケジュールの調整をしてくらあ」
なんだか感慨深そうに佐脇に告げて、この場を離れる荒木さん。
いくら無数の従魔念士を召喚できる荒木さんといえど、24時間続けて活動出来るわけではない。担当している地域の面積に対して驚くほど人数は少ないのだが、荒木さんはヴェーダ連邦共和国を中心とした多国籍連合の武士隊も率いていた。その武士隊の控える建屋へと、協議に向かったようだ。
□霊和20年(YE2820年)6月
□ヴェーダ連邦共和国 サイレント地域
「俺はここまでだな。周辺の念食獣は、1頭たりとも近づけさせはしないぜ」
「よろしくお願いします。では、行って参ります!」
俺は荒木さんと、戦い前の最後の挨拶を交わす。
大蛇が巣くう洞窟に来てみると、そこには数十人規模の武士隊のテント村が陣取っていた。こうして数十年もの間、念食獣の洞窟への侵入を許さず、大蛇が成長するのを防いできたのだという。
この大蛇、最初に確認されたのは照和30年代半ば、インダス諸島共和国のジャングル。以来、何度か討伐が試みられてきたが、逃げられてきた。最初の人生での恩師、小松校長が恋人と左手を失ったのも、そうした討伐での一戦のことだ。
その後、海を渡って――大型船に張り付いていたのではないかと推測されている――、フチテー大陸のムラユ半島で発見され、西に転々と逃げ延び、ヴェーダ連邦共和国の大高原に棲み着いた。
ヴェーダ連邦共和国は30弱と世界第4位の武士密度を誇るが、それはベースとなる人口が多いから。人が居住していない場所も多数あり、俺たちが訪れているサイレント地域も、人がいなくて動物が豊富という、念食獣が跋扈するには絶好の地域であった。
「大きな洞窟なのです」
入り口の高さは10メートルを超えているか? 中に進めば更に巨大な空間へと広がって、そこに大蛇が巣くっているらしい。
「明るいのは、助かるわね」
荒木さんと武士隊の面々とに見送られて、俺たち4人が洞窟内に侵入すると。
中にはそこかしこに頑丈そうな筐体に包まれたLEDライトが設置され、洞窟を照らしていた。ものによってはカメラやセンサーも埋め込められているとのこと。これらもまた、補修が繰り返されながら、何年も使い続けられているらしい。
「カメラに撮られるのは、恥ずかしいのです」
先から菊と京の会話内容が軽い。2人が緊張しているときの癖だ。何か言って、和ませてあげたいが……
「映像やセンサーの情報が外部に流出することは無いよ。そこらへんの大和国武士団の情報統制は、しっかりしている」
むう、考えているうちに、佐脇に出番を取られてしまった。
世の通信技術が発展する中でも、伝説的武士の情報は厳しく管理されているようだ。とはいえ、俺もこの先、鳩だけを念製していてはダメかもな。技術が進歩するのも善し悪しだ……
「うふふ、それでしたら、思いっきり戦えますね」
菊も京と同様、佐脇に心を許しているフシが見えるんだよなあ。
正直、気に入らない……
そして――
ついに巨大な空洞にたどり着く。
映像で見るのと実際に見るのとでは、やはり迫力が違う。これ、大和国でも平聖中期から各地に建てられ始めた、ドーム球場くらいの広さ、高さはあるだろう。天然ではあり得ない。天野さん出身文明のテクノロジーが使われた、人工の洞窟に違いない。
その最奥、いくつもの薄暗い照明に照らされた先に。
壁に埋まる大蛇の一部が見えた!




