□不調
□霊和20年(YE2820年)5月
□甲斐県青木ヶ原
菊と京とで、連日の念食獣狩り。
念転写により、以前の念能力は取り戻すことができるが、念体は服従し直して強化しなければならない。大和国には強い念食獣はいないが、いきなり海外に出向くのは危険だ。面倒だが、ここは地道にやり直し。
前誕から今誕は、約60年が経過していた。これは伝説的武士の平均再誕周期150年と比べるとだいぶ短い。天野さんに聞くと、俺たちが短期間に再誕されたのには理由があるが、それはいずれ分かるとのこと。ついでに、念能力は入念に鍛えておけと言われた。前誕の緩い雰囲気とは、かなり状況が異なっている。
【おい! 京も、どうした?】
【なんでもないのです】
京の動きも精彩を欠く。大軍師といっても、その念深は剣王に匹敵する。俺はもちろん、そんじょそこらの武士などより、遥かに強いはずだ。
【そういう秋のほうはどうなの?】
【……うん、ずっと念に靄がかかっているような感じだ。治りそうに無い……】
俺も他人のことは言えなかった。
従魔を念製するにも一苦労。ようやく造って念信を試したら、視覚と聴覚を共有するのがやっと、最大念信を張れないという有様。当然、念転写の問題を疑って天野さんにも報告したが、関係無いと断言された。
【それは困ったわね。私は異常が無いけど……】
菊はすでに3刀を召喚し、宙を自由自在に駆け回っている。
俺と京だけなのだが、京は念能力ではなく、素の身体能力に問題がある様子……
【私の不調は、理由が分かっているのです。でも秋に直接話すのは、お断りなのです。業腹ながら、側室に伝えるのです。側室から聞くのです】
そう言って菊に近づく京。俺は念信を切る。
京が何やら菊の耳元でコソコソすると、菊は驚いた顔に。
顔が赤らんだような?
「そんなの私……」
「被害者の私が言えと、言うのです?」
菊の不平に、問答無用な態度の京。
どうして京が、そんなに偉そうなんだよ?
……そして菊がこちらに向かってくる。
オリジナルの顔つきに似ているものの、今誕は彫りが深くなって、凜々しさを増している。食生活の変化で大和国民全体がエウローペー地域人っぽくなっており、それが素体にも反映されているのだそう。
「秋、1度しか言わないからね」
「う、うん」
なんだか、緊張する。
「京は前誕、男にされたでしょう」
……そういうことか。
「それで?」
分かった気はするが、思い込みはいけない、よな? うん。
俺は菊に続きを促す。
「今回は女になって、その、京は、お、お胸は大きいし、……お、男の人のは無くなったしで、勝手が違うのですって!」
やはり推測通り。
だが「男の人の」とは何なのか、具体的に言及して欲しい。
――不味い。
顔がニヤけてしまう。
「もう! 分かってて、聞いたわね?」
「ゴフッ」
軽いボディアッパー。
しかし剣聖の一撃。
俺はふっ飛ばされて、大木の枝に吊り下げられた。




