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83/101

□理由

□?年(YE?年)

□本拠地


 目が覚めると、俺は……


 って、寝てたんじゃないんだよなあ。

 部屋には、ゲームのときと同様、ガイダンスの音声が流れている。この世界はさすがにリアルだろう。さてさて、案内には()()()に従わないと怪我をしかねない。他人の身体を動かすのは、想像以上に危ないのだ。

 よちよちと鏡にたどり着くと、前誕同様、細いながらも筋肉で引き締まった身体。今誕の顔つきは誠実そう。どこか最初の俺に雰囲気が似ている。前誕はうさんくさい(つら)で、好きでは無かった。

 ……また名前を考えないといけないのかな。「3代目滝沢秋」とかにさせて欲しい。芸能人はそういうの、ありじゃない。

 ハンガーに掛けられた制服は、RPG『Re-birth』世界と同じもの。ってことは、今は霊和なのか?


 最初の部屋を出て――

 相変わらず(ひと)()の無い、寂しい通路を歩き――

 指定された部屋に入室する。

 そこには同じく制服を着た、女子2人が立っていた。さすがに今誕、京は女か。

 俺が思わず(あん)()して笑うと、女の1人が不機嫌になる。せっかくダイナマイトなバディに戻ったのに、台無しだぞ。

 そして小さく手を振る、もう1人。姿勢が綺麗で、所作が優雅。顔が異なっていても、誰だか分かる。さすがは、The・大和撫子、目にするだけで心が温かくなる。

 ……俺もだけど、2人ともオリジナルの容姿に近い素体が()てられているような。でもそうなら、20年近く前からこの再誕が予定されていたことになるんだよな。気のせいか。


「やあ、3人揃ったね」

 壁でも無く、床でも無く、天井でも無く。どこからともなく声が響く。

 大和国武士団、団長、天野さんのご登場。一体、何歳なんだろ?


「滝沢くん、調子はどうかな。今誕は特殊な念転写をさせてもらったけれど」

 さっそく、気になっていることに触れてくれた。座った方がいいかな、本物も話は長いのだろう。


「まだ良く分かりませんが、今のところは大丈夫ですよ。……でも最後の念転写のときに、俺は拒否したはずですよね。どうしてゲームを使ったのですか?」

「私も驚いたのです。内容には自信を持っているですが、本当に利用するとは予想外なのです。ありがとうなのです」

 ……京も内心はダメ元だったのか。そういうの、創らないで欲しい。


「うん、そのあとに、大功労者から(こん)(がん)があったんだ」

 ――なんだそれ?


「俺の念転写に関わる重大な話ですよね? 大功労者さんがどんな功績を挙げたのか知りませんが、他人に左右されることでは無いでしょう?」

 今のところ支障は感じていないが、大切な記憶に()()が生じているかもしれない。まだ念結晶に残っている前誕の念記録で次の念転写をすれば、今の俺に支障が見つかっても回復できるのだろうが、そうするとこの第3誕の記憶は破棄になる。

 問題視するつもりはなかったが、他人が決めたと聞いたら、腹が立ってきた。


「君の言い分はもっともだ。僕が君の立場でも受け入れられないと思う。それでも老良くんのゲームを利用したくなる事情があったんだよ。それについてはまだ話せないけど、きっと納得してくれると僕は確信しているんだ」

 天野さんは相変わらず隠し事をする……


「……分かりました。正直不満ですが、天野さんを信用します」

 天野さんは自分の念記録を捨てて、菊を助けてくれているからな。それに京のゲームが楽しくなかった、と言えば嘘になる。


「私はその方に――功労者さんに感謝するのです。それで、秋のプレイ記録(ログ)を確認したいのです。見て良いのです?」

 感謝、ねえ? ただの、はた迷惑だろ。

 まあ、京は前誕、男にされたからな。それと比べたらゲームぐらい、どうってことない。


「僕は許可するけど、滝沢くんは?」

「どうぞー」

 天野さんの問いに、俺は(しゅ)(こう)

 俺のゲームプレイに、後ろめたいところなんて無い。

 ……そんなには無い。

 ……あまり細かくは、見ないで欲しい。


 それを受けて京は、左手首のリングを何やら操作しては、空中に表示される数値やグラフと格闘を始める。

 この特殊装備、そんな機能があったのか……


 そうして俺のプレイ記録(ログ)に、一喜一憂する京。


「……バージョンが上がっているのです」

 念転写後もプログラムを更新していたみたいだね。ただ期間が短かったんだよな。50歳ぐらいで止まっていた。女性の寿命は80歳()え、武士も戦死者を除けば同じなのに……


「……大外の世界が、改変されているのです。マンションに通い妻、していないのです」

 京の暴走防止に、天野さんと坂上さんが介入してたってやつかな。そんなことまで、(たくら)んでいたのか。盛りすぎだろ……


「……私の中のほうが往復運動回数が少ないのです。発射回数は等しいのです。放出量は多いのです」

 ――ぶぶっ!

 それを計測するかあ?!

 その回数が同じになるまで、君たちは真剣(ガチ)勝負(バトル)を続けていたじゃないか。

 俺の苦労も知らないで……


「好色指数は127なのです。外部観察より、内部は更にエロエロなのです」

「――京、後で詳しく話を聞かせてね」

 モウ、ヤメテクダサイ……


「……私が先にもらえたのです」

 これは(しゅん)(かん)の返礼のことかな? とっても嬉しそう。


 そうして最後に――


「ちっ、側室に(ゆず)られているのです」


 懐かしい舌打ちが、部屋に()()()した。


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