♠♠次から次へと
【それにしても、おかし過ぎるな】
【念深がC+レベルなのです】
京の助けを借りて俺は立ち上がる。痛みは残るが、外傷は治癒した。
念深Dレベルの俺が、念深Aレベルの西洋竜の体当たりを受けて、この程度のダメージで済むはずがない。
【とりあえず、仕留めるでごわすよ】
西洋竜の新たな頭の根元を抱え込み、鯖折りで締め上げる大鳳さん。
足や腕の防具を延長して、自分より遥かに巨大な念食獣に絞め技を決めていく。
――めちゃくちゃだ。
普通、武具には従属させた念体を、防具には自分自身の念を用いる。大鳳さんがやっているように防具を攻撃に使用することはできるが、それは正に諸刃の剣、自分の命を削りながら攻撃しているようなものだ。
【はは、拙者は武具を生成できないのでごわす。……そろそろでごわすよ】
動きを止めた念食獣が、その首をくの字にへし曲げられてしばらく。ついに折られて、消えていく。
【下がるのです】
【承知でごわす】
京の警告に素直に従う大鳳さん。
念食獣の本体は消滅せず、しかし動きは止まっている。
……今度は、尾が頭に変化している?
【このような念食獣は、聞いたことが無いでごわすな】
【秋、鳩で探るのです】
【従魔召喚!】
鳩を飛ばして、威力偵察。
最初の形態を基準にすると、今は右腹に頭が、先ほどまで頭があった左腹には尾が生えている。……自分で言っておきながら、ややっこしい。
【今度はB+になったのです。気をつけるのです】
【これが大軍師の分析でごわすか。初見殺し揃いの念食獣に、これほど心強い念質はないでござるな】
京が図示した解析結果に、感嘆する大鳳さん。
これ、俺の念幅能力があって、できることなんだけどなあ。
【うふふ、秋ったら、拗ねないの。――3刀召喚!】
……拗ねてなんか、いないし。
菊は3刀を召喚し直し。
宙を駆って一方的に元西洋竜、今はなんだか分からない形態の念食獣を、切り刻む。
【これが林殿の技でごわすか…… いやはや、どうなっているのでごわす? 念体を踏み台にして跳ね、念体だけで斬りつける? まるで、おとぎ話のようでごわす】
そう言いながらもドスドスと、念食獣の新たな頭に向かって走る大鳳さん。こんな言い方だと愚鈍そうだが、そこは念深X、俺なんかよりずっと速い。
【この状況なら、拙者のほうが相性が良いでごわすな…… どすこい!】
念食獣の足に、防具で延長された腕を差し込んだと思ったら、そこからすくい投げ。
ひっくり返った念食獣の首にしがみつき、両手、両足で締め上げる!
菊は一方的に攻められるが、相手も巨体。時間がかかる。大鳳さんのほうが仕留めるのは早いのだろう。
「この状況」というのは、皆上級武士以上なので、周りに気を遣わずに攻撃に専念できるという意味かな?
【その通りでごわすよ。拙者、味方をかばうのは苦手で、いつも難儀するのでごわす。……さて、落ちたでごわすか?】
ぐったりした念食獣から、距離を置く大鳳さん。
念食獣のこうした様子も見たことは無いが……
【また、新しい頭が出てきたのです。秋、お願いするのです】
先ほどまでの頭と尾が胴体へと消えていき、再び新たな頭と尾を生み出す念食獣。
今度は羽根の付け根に頭を生やしていて、動きを相互に干渉させている。
【これはCレベルなのです。弱いのです】
【ならば、ここは私たちにお任せを!】
大鳳さん参戦以降、周辺警戒に当たっていたバロウンさんとズオウンさんが斬りかかる。
菊も大鳳さんも、技は強力だが、念の消費も激しい。念食獣は確実に小さくなっているが、どこまで長期戦になるか分からない。弱い状態ならこの2人で攻めて念を節約するのは、堅実な攻め方だろう。
【私も加わるのです】
と、念食獣の背にしがみつく、京。
……あのー、京さん? 何やってんの?
【こいつは背中を攻撃できないのです。直接接触して、何が起こっているのか探るのです】
京は直接接する相手の念能力を、計測できる。先日も大鳳さんの念深を、握手だけで言い当てていた。俺との出会いでは、俺の念能力が暴かれていたわけだけど……
【Cレベルならそろそろ。――はあっ!】
ズオウンさんの渾身の一撃。
念食獣の動きが止まり、またぐったりする。
固唾を飲む、俺たち6人。
共有されている京の感覚に、念信を傾ける。
【消えていくのです……】
京の言うとおり、何かが消滅していく。――これ、通常なら念食獣を倒した後に吸収している、念そのものじゃないか。
やはり倒れている?
【何か来たのです。これは――Aレベルなのです!】
【離れるでごわす!】
京が腹に防具を張るのが、わずかに早いか?
背に現れた新たな頭が、そのまま京を突き上げる!
【ごふっ!】
血反吐を吐きながら、空高く吹き飛ばされる京。
まずいっ!
【はあっ!】
すかさず、天に駆け上がる菊。
100メートルはある?
【く、屈辱なのです……】
【もうっ! 大人しく抱かれていなさいっ】
くの字に腹を抱えた京を空中でキャッチ。お姫様抱っこにして、菊が跳ね降りてくる。
その様子は階段を数十段抜きして、駆け下りるかのようだ。
【どすこーい! ……これを躱すでごわす?】
地上では、大鳳さんがまたぶちかましに行く。
――が、今度の念食獣は体を傾げ、大鳳さんの圧を巧みに逃がす。
Aレベルの念食獣ともなると、大鳳さんの技もそう簡単には決まらない?
【看護、願いますっ】
菊は、京をバロウンさん、ズオウンさんの元に預け、念食獣に向かっていく。
正面は――もはやどこが正面か、念食獣の奇形は著しいが――大鳳さんが受け持ち、背後を菊の3刀が切り裂く。
――これ、攻撃は安定するが、長期戦は厳しそう。
【確かこのあたりよね?】
【も、もう少し、左なのです】
菊の独り言に、お腹を抱えて治癒をしながらも、京が応じる。
2人はさきほど念体が乗り移った場所を探っている?
【ここね! 3連斬!】
左羽根の付け根、特に強固でも弱点でもないっぽい部位を、3刀が抉る。
その巨体に対して致命的とは思えぬ攻撃だったが、念食獣の動きが再び止まる。
Aレベルがさっきので倒せるなんて、大当たりだったのか?
……だがそれでも、消滅まではしない。
【また動くのです。秋、鳩なのです】
バロウンさんに支えられながら立ち上がった京から念信。
【分かった。従魔召喚!】
今日何度目かの、鳩の威力偵察を強行。
おっ!?
数羽落とされたが、念深Dレベルの攻撃が通る!
【こいつは弱っちいのです。もう一度なのです】
止めるバロウンさんを振り払い、念食獣の背に飛び乗る京。
最初の西洋竜の状態から2周りは小さくなったが、まだまだ大きい。
【体積は3割減なのです。攻撃は要らないのです】
京は俺の疑問を読み取って答えつつ、バロウンさん、ズオウンさんの攻撃を制止する。
猛る念食獣の背に掴まるその姿は、まるでロデオをしているようだ。
【何か来たのです。……食べられたのです?】
菊と大鳳さんに囲まれる中、京を背負って暴れていた念食獣の動きが止まる。
確かにそれは、別の念が、念食獣の念を吸収して乗っ取ったような感触。
なんだ、これ?
【今度はCレベルなのです。動きを止めて欲しいのです】
先ほどより激しくなった念食獣、しがみつくのが辛そう。
京の抱える腹痛が、念信で伝わってくる。
【どっせーい!】
【はぁっ!】
大鳳さんは念食獣にがっつりと組み付き、菊は軸足を切り刻んで動きを止める。
【ありがとうなのです。今度は食べ返しているのです】
俺もだいぶ分かってきた。
この巨大な念体というご馳走を、どこからか訪れる念体たちが代わる代わるに奪い合っている。洞窟で西洋竜はじっと丸まっているように見えたが、内部では襲ってくる念体を返り討ちにして吸収していたのか?
【――後藤殿! そやつはヤバいでごわす!】
【Bレベルに食べられたのです】
京が起き上がるよりも早く。
菊が京を抱え上げ、すかさず念食獣の背から飛び去る。
西洋竜を洞窟から引きずり出して、4時間超。
この調子では日没前に倒しきれない。
念食獣は、夜間は活動が緩慢になるが、攻撃を加えれば応戦してくる。そして念食獣の知覚はさほど視覚に依存していないようで、その攻撃力は衰えない。一方の武士は、暗闇の中では思うように動けない。なので夜戦は、圧倒的に不利だ。
俺たちの旗色はかなり悪い。どうしたものか……




