♠♠暗闇に
右手に念体による刀、左手にランタンを持った菊が、先行する10羽の鳩に続いて横穴を慎重に進む。その途中、縦穴の底で1つ、そこから曲がっている横穴に1つ、ランタンを設置して、経路の明るさを確保していく。
【あら、ここから中が広がっているのね……】
えっ?
――入り口にいる菊のランタンの光は、地面の一部を照らすだけ。どの天井にも壁にも、灯りが届いていない。これは半端ない広さだ。
【気をつけろ、菊!】
【うふふ、ありがとう、秋。慎重に行くわ】
俺の何の役にも立たない注意に、応えてくれる菊。
最大念信では、その緊張が伝わってくる。
【秋、もっと鳩を増やして、周囲を探るのです】
京からイメージ映像が送りつけられる。
見えない周囲に鳩をぶつけて、広さを把握しようとする作戦だ。
【従魔召喚!】
とりあえず、100羽。
ランタンの灯りをたどって菊の頭上を通り越し、上下左右へと鳩の群れを散開させる。
【横は左も右も15。幅30メートルなのです】
両サイドの壁に行き当たった鳩は、そこから壁に沿って前進させる。
壁面は平らでは無いので、飛ばすというより、走らせるような感覚。
【上は25メートルなのです】
天井にぶつかった鳩も同様。
このような動きをさせるなら、鳩より蜘蛛のほうが適切なのだろうけど、念体の形態にさほどの意味は無い。そのまま鳩を天井に這わせて、進ませる。
さらに……
【奥行きは55メートルなのです。ほぼ直方体なのです。奥に1頭、いるのです】
洞窟の立体映像を念信で送りつけてくる京。
観客席付きの体育館くらいか? 角はかなりカーブしているが、単純な形状の洞窟が広がっていた。
で、そいつの予想体長、15メートルを超えているんですね……
【たぶん、丸まっているのです。菊、ランタンを投げるのです】
洞窟の立体測量映像に、放物線を書き加える京。
天井すれすれに投じて、滞空時間を稼げって指示か……
【難しいことを言うのね。――えいっ!】
可愛らしい声とともに、飛んでいくランタン。
(ガシャ)
天井にぶつかり、砕け散った。
【全然、ダメダメなのです。菊は役立たずなのです】
菊の投げたコースを映像に書き加えて、ダメ出しをする京。
指示された軌跡に対して、真上に投げすぎだ。
【そんなこと言ったって、加減が分からないじゃない。待ってなさい……】
そう怒りながらも、残してきた2つのランタンを回収する菊。
帰り道が暗くなるが、横穴の長さは30メートル程度、問題ないだろう。
【2投目。行くわよ】
今度は放物線を描く、ランタン。
天井すれすれに通り過ぎるのを、付近の鳩が視覚に捉える。
そうして、落下へと転じ――
【えーと、あれは……】
と、俺。
こういうとき、リーダーは落ち着き払う、ものなのだよ……
【羽根付きのトカゲなのです】
と、京。
はは、確かに、トカゲだね……
【尻尾を伸ばせば、20メートルを超えるかしら】
と、菊。
だよね、大きいよね。
【すぐに剣王を引き返させるべきです!】
と、バロウンさん。
すごい剣幕。生真面目だよね……
【何、呑気にしてるんだ。あれは――】
と、ズオウンさん。
以前はもっと鷹揚に構えていませんでしたか? 余裕を持ちましょうよ……
ランタンは、その灯りに向けて開けられた口にかみ砕かれた。
洞窟は再び、暗闇にとざされる。
しかし京は、周辺に配置されていた鳩たちの視覚から、念食獣の全体像を構成。
全身うろこに覆われた巨大なトカゲ。
カナル国際管理地域にいた鳥蛇とは異なり、図太い胴体、逞しい4本足、鋭い爪。
翼は閉じられていたが、かなり大きそう。
羽毛は無い。
【6本指で、歯は84本なのです】
……京、補足をありがとう。
いつもながら、良くあの短い時間に数えることができるよね。
――そう、洞窟奥には、西洋竜が丸まっていた!




