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♠♠縦穴

 入国後、ターゲットとした丘を迂回しつつ、東から西へと国中央部をほぼ横断し、武士隊は丘の西側に駐留させることにした。ネーデルラント国の首都を含む3つの主要都市を背に、丘からの念食獣を退治する布陣である。

 この国では「なんとかダム」という都市名が耳に付くので質問してみたら、「堤防」を意味するのだそう。大和語の「ダム」と同じだ。世界各国を渡り歩いていると、こういう発見があって興味深い。


 そうして俺たち5人は、今日からいよいよ探索開始。

 車2台で朝一に駐留地を出発して30分、早くも大物の念食獣に遭遇する。なお小物はキリが無いのでスルーしている。


【推定C+レベルの念食獣なのです。鳩をお願いするのです】

 2本のシンプルな(つの)を生やした念食獣。水牛系かな? 京が念信してきた視覚イメージに従って、鳩10羽で威力偵察する。


【ありがとうなのです。B-レベルあったのです。菊が先行するのです】

【了解っ】

 解析に要したのは1分ぐらいだろうか、外見は鈍重そうなのにかなり素早い。5羽の鳩を失ってしまった。さすがに第3次念食獣侵攻の中心地、他国ならラスボス級の念食獣が普通に散策している。

 だがそれでも……


【菊が無力化したのです。あとはバロウンさんとズオウンさんにお願いするのです】

 菊が戦うこと30分、水牛系念食獣の動きがかなり鈍る。

 菊といえども3刀召喚と空中跳躍を封印するとその戦闘力は念深Bレベル、剣王相当まで落ちると、京が裏念信で解説してくれる。それでもB-レベルの念食獣を1人で狩って全く負傷しないあたりは、さすが剣聖という感じなのだろう。


【……了解です】

【お任せください!】

 男武士のズオウンさんは不本意そう、女武士のバロウンさんは割り切っている。性格の違いが出ているのが、面白い。

 2人は程なくして念食獣を倒し、その念はバロウンさんのほうが吸収した。


 このような戦いを数度繰り返し、俺たち5人はついに縦穴に到着する。

 これは他国の武士団なら、数ヶ月の月日と数百の武士の犠牲を要する道のりだったということだ。事実上、大和国の伝説的武士レジェンダリィ・サムライが参加している武士隊で無ければ、ここまで来るのは不可能であろう。


【さーて、思ったより深そうだが……】

 鳩の視界が暗くて、良く見えない。直径10メートルくらいの縦穴。昼過ぎだが太陽が低くて、光が数メートルしか差し込まないのだ。――忘れがちだが、これまで経由してきた国々同様、このネーデルラントも大和国最北端よりも北に位置している。


「地道にやるのです」

 車に積んであったロープとランタンを、バロウンさんとズオウンさんに手渡す京。

 2人は()(ぎわ)よく2カ所に杭を打って、穴を横切るようにロープを張り、それに滑車を引っかけ、もう一本のロープにぶら下げたランタンをゆっくりと降ろす。杭は周囲の木からの切り出しだ。

 並外れた運動能力を持つ武士がこうした土木系作業を行うと、本当にあっという間に完了する。


【……ありゃ、ここからは完全に横穴だな】

 ランタンとともに鳩を降下させると。

 穴は垂直から斜めへと傾斜を始め、ランタンを下に降ろせなくなる。

 そこから光の届く範囲はしれていたが、それでも途中から横穴になっているらしきことが確認できた。横穴も直径10メートル近くあり、異様だ。壁は地下水で濡れ、底に細い流れを作って、どこかへと流れ出ている。

 なお鳩にランタンを持たせられれば話は早いのだが、念体は人工物を拒絶するので、残念ながらそれはできない。


【私が降りましょうか?】

【それはあまりに危険でしょう】

【何かあったときに、この50メートルの縦穴からどう脱出されるのです?】

 菊の名乗りに、ズオウンさんとバロウンさんが難色を示す。

 ビルだと20階分くらいだろうか。そういえば平聖の時代ともなると、20階程度の高さのビルは、そこかしこの都市で見かける。

 ……っと、よそ事を考えてしまった。2人の指摘はもっとも。俺も、どうしたものかと思う。空間跳躍を封印してでは、菊でも容易には登ってこられないはず。


【うーん……、こうやってかしら?】

【あっ!】

 言うや、いたずらっぽい笑みを浮かべ、菊は縦穴に身を投じる。

 所々で壁を蹴って減速しているのだろう、ドコバコと激しい音がする。

 その音が止むと……


 穴底のランタン横で待機している鳩の視覚が、近づいてくる菊を捉える。

 菊はしゃがんで、ランタンに結びつけられたロープをほどき――


【秋、登ってみるから、鳩で追ってね。……行くわよ!】

 ランタンを左手にぶら下げて、走り出す菊。

 壁を蹴り上げながら、()()()状に駆け上がってくる。

 ――めちゃくちゃだ。漫画かよ?


【ふー、意外と難しいわね。スピード上げると、ランタンの灯りが消えそうになるんだもの】

【そっ、そこですか!?】

 一息ついてボケる菊に、()()()()に突っ込んであげるバロウンさん。

【何度か練習すれば、ズオウンさんも、できるのではないかしら?】

【……遠慮させて戴きます】

 いじられたズオウンさんは、苦虫を潰す。


【この女、念体を踏み台にして駆けていたのです】

 京が裏念信で、密告してくる。

 そうだよな、さすがに菊でも、その技を解禁しないと今のは無理だろう。

【仕方ないじゃない。そうやらないと穴が崩れてしまうわ】

 すかさず菊も裏念信で弁解。


 まあ、でも……


【ここで話をしていても(らち)は明かない。菊にこの縦穴を――というかこれは洞窟か――洞窟を調べてもらおう】

 ズオウンさん、バロウンさんへの(てい)(さい)も整った。

 俺は最初から取りたかった作戦を、ようやく皆に切り出した。


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