♠士道
「武士の能力は、大きく2つの軸で評価される……」
1年生の担任は中村先生で、受け持ち教科はこの「士道」。ようやくRPGっぽい話が出てきた。
「念深、念幅の2つだ。どちらもX~Eまでの6段階で示す。あと、能力の高低では無いのだが、念質という属性があり、これは1文字で表すのが一般的だ……」
「先生、私の祖父は『丙丁の土』だったと聞いているのですが、これはどういう能力なのでしょうか?」
「ああ、良い質問だ。以前は甲乙丙丁の4段階だったが、昨今の士道国際化に伴いアルファベットに改められ、上位2段階が追加された。▅▇█の祖父殿は、今の表現だと『念深D、念幅Eで、念質が土』の武士、ということになる。……私と同じだな」
教室内に「おおー」とどよめきが上がり、▅▇█の奴が喜んでいる。
「話を先に進めるぞ。念深は武士自身の身体能力と、扱える念体の強さを表す。念幅は一度に独立して扱える念体の数を表す。特に決まりはないが、どちらかがD以上で『武士』と見なされる。更にC以上は称号が与えられ、『上級武士』と呼ばれる……」
「先生、『将軍』や『剣王』は称号ですか?」
また別の奴が質問すると、「ちげーよ」「それは念質だろ」などと教室がざわめく。
「それは念能力Bレベル以上の武士の別称だな。例えば個人で戦うのが得意か、集団を率いるのが得意か、というふうに得意とする役割に応じて称される名だ……」
むむ、「集団を率いるのが得意」って、仲間に強化魔法をかけたりするのか? このゲームでは、魔法は見ていないけど。
「ほかはいいか? お前たちが入試で受けた実技試験は、念深の能力を測る簡易試験だ。小玉は念質の大まかな確認、小太刀を持てればEレベル、刀であればDレベルの可能性があると見なしている」
俺は最低ラインのEレベルか。地味な出だしのゲームだな、これ……
皆も思うことは同じだ、「私はEレベルかあ」「俺、Dレベルだぜ」と騒然となる。
「こら、静かにしろ。あれは簡易試験だ、より正確なところは自分でつくった念体でなければ分からない。……念質が関わるからだ」
騒ぎが引き、皆、話の続きを待つ。
「念質は4大属性、火、風、水、土があり、8割の念士はこのどれかに該当する。しかし、例えば火の属性であっても、個人によって少しずつ異なるんだ。同じ属性の武士同士でも、他人の念体を自分のものと同じようには扱えない。だから試験官の属性との開きにより、Dレベルの念深でも、刀を持ち上げ難く感じることはいくらでもありえる」
……それならあの入試は、多少の運も絡むな。武士レベルの教員を何人も用意するわけにはいかないのだろうけれど。俺の属性は4属性以外で、不利だった可能性もあるのか。
「先生、属性は1人でいくつ持っているんですか? 私は2つの小玉を持てましたけど……」
また別の生徒からの質問で、再びクラスが沸く。「俺は1つだけだ」「私は3つよ」と情報交換が始まる。まあ、こんな話を聞けば、不安になるよな……
「騒がしいぞ。お前たちはもう高校生なんだ、少しは落ち着け。……試験官たちは、念質が偏らないように選ばれているが、相性によっては3つの小玉を持てる場合がある。だが、持っている属性は1つだけだ」
あれ? 7つの俺は何なんだ?
つい怪訝な顔で中村先生を見上げると、
「1つだけのはずなんだ、普通はな……」
と、俺を見つめて、そう言葉を濁した。