表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/101

♠♠西と東と

「彼が団長で、ヴィキンガ団を創った男なのです」

 新たに入室してきた男を紹介するスターク。

 ぱっと見、初老に見えたが、年齢不詳に訂正。白髪や額のしわはウジイエより年上を思わせるが、肌のつやは年下のようだ。年の割に苦労を重ねてきたのか? うん、分からん。

 スタークのほうがはるかに強そうだが、団長を尊敬しているのが伝わってくる。


「若いときに大和国武士に会ったのです。稽古をされて、ありがとうなのです。だからあなたたちに会いたいのです」

 一通りの自己紹介を終えると、ここに来た理由を説明する団長。ただ、名前を名乗らなかったのには違和感を(いだ)く。偽名を使っている俺たちが、どうこう言えないが……


「どうしてヴィキンガを創ったのです?」

 思いもかけない質問をする京。それを知りたくて、年配の武士を探していたのか?

「ダンマルク国では、武士は弱いのです。武士を守るために、ヴィキンガを創ったのです」

 意外にも、団長は表情を緩めて答えてくれた。語りたいことを聞いてくれた、ってところみたい。「武士が弱い」というのは、地位が低いって意味合いか? スタークよりは分かる大和語だけど、意味をくみ取るのが難しい。ミッチーを連れてきた方が良かったか……


「あなたも弱かったのです?」

 京が話を掘り下げにかかる。

 どうしてこんな話に食いつくのだろう? 菊の様子ものぞいてみると、ただ真面目に耳を傾けている。

 相手に失礼なので、俺たちは念信を張っていない。俺は2人の考えることが分かるつもりだったが、こうしてみると全然ダメだな……


「私は兄と姉が5人いたのです。3番と4番は兄で、武士なのです。ダンマルク国は、武士は戦え、なのです。でも、出すお金は、少しなのです。そして家族のお金も、少しになったのです」

 兄弟のうち、団長含めて3人が武士だったってことか? 武士は遺伝しない。大和国でも念士は30人に1人、エウローペー地域は更に低いだろう。すごくレアなはず……

「3番兄と4番兄は、念食獣に殺されたのです。お金、もっと少しです。家に帰ったら、みんなバラバラだったのです。私、怒ったのです。名前、捨てたのです。ヴィキンガを創ったのです」

 続く団長の、団長さんの話が、重くなってくる。

 俺のうちも貧乏だったからなあ。でも大和国は武士の待遇は良いから、そんなふうには、……ああ、いかん、またゲームとリアルが混同している。


「それは……、それはとても哀しいことなのです」

 うん?

 うつむいて目をぎゅっと閉じる京。鼻すすってる。今にも泣き出しそう。

 どうして、そこまで?


「大和国の武士とは、どこでお会いになったのですか?」

 菊が続くも、話題の転換を図る。

「そこはヘラクレス海峡なので――」

 それに団長さんが応じると。


「Det er en alvorlig situation !」

 若い念士が、ノックもせずに部屋に入ってくる。

 スタークが何やら(しっ)(せき)しているっぽいが、かまわずに話を続ける念士。

 スタークと団長さんの表情が、険しくなる。

「西の海から、ダンマルク国の戦う船が来るのです」

 そう、団長さんが状況を説明してくれると。


「Det er en alvorlig situation !」

 また別の念士が入ってくる。

 飛び交うダンマルク語の会話。

 ……今度はフチテーという単語が混ざっている。

「東の海からフチテー帝国が来るのです。同じ時間なのです」

 団長さんの眉間のしわが一層深くなる。

 ヴィキンガの戦力では、東西同時は厳しいか。


 ……っと、なんですか?

 左隣に座る京が、俺の袖を引っ張る。

「ヴィキンガを助けたいのです」

 はい? 今日の京はいつもと様子が違う……


「私も賛成!」

 右隣に座る菊が、俺の腕を強く引いて同意する。痛いんですけど……

 昨晩の天野さんとの話は菊にも伝えたけど、どうしたんだ、このノリは?


 うーん、団長さんの話に情をほだされたのかな。

 まあ、2人がそう言うのなら……

「団長さん、情報を集めたいので、従魔を召喚させてください」

 俺は立ち上がって、ヴィキンガの話に割り込んだ。


 ――♠♠――♠♠――♠♠――


【2隻なのです。ボートを降ろしているのです】

 京が念信と口頭とで、鳩の視覚を声に出す。

 銃も備えている軍艦らしき船2隻が、右舷に、左舷にと次々ボートを釣り下げていく。乗っているのは武士だろう。ダンマルク国は、フチテー帝国のような上陸艇は保有していないっぽい。ごく普通の方法で上陸してくるようだ。武士の身体能力なら、これでも充分だろう。


 ハウペール城塞は、島の北端から北西側の海岸に沿って少し南に降りたところに位置している。その城塞の周囲を囲む壁の一角で、俺は鳩を召喚して、西に東にと飛ばしていた。菊と京とも最大念信を張っている。

 想定外だったのは、団長さんが俺たちについてきたこと。スタークたちに幹部級武士の招集などを指示して、手が空いたよう。俺が鳩を念製すると「あ、あの人と同じなのです」と、驚いていた。俺以外にも鳩を造る物好きな武士が存在するとは、世界は広い。そいつも、恋人にでも頼まれたのかな……


【ズオウンさんが立ってるわ】

 東側の鳩はフチテー帝国の拠点に到達。こちらはヴィキンガの敵と内通する形になるので、状況を声に出すわけにはいかない。菊は念信だけで、話しかけてくる。団長さんがここにいるおかげで、やりづらいことこの上ない。


【ずいぶんと早いですね。宣戦布告したばかりなのに……】

 鳩を見つけて手を振ったズオウンさんに、念信をつなげる。俺が鳩を飛ばしてくるのを待ち構えていたようだ。

【ええ、ハウペール城塞にいるもので。14時に攻めるそうですね】

 俺は隠さずに応じる。

【……そうなのですか。ダンマルク国から珍しく作戦指示が来まして】

 淡々と話すズオウンさんだが、その念には不快感が(ただよ)っている。


【フチテー帝国の武士は20万人以上、ダンマルク国は300人以下なのです】

 裏念信で京の解説。それだけ差があっても、政治が絡むと立場が逆転――とまで、いかなくても、都合良く使われるのか。偉い人にはなりたくない……


【なるほど、西からはダンマルク国が来ていますよ。武士も20人弱はいます】

 これだけの武士を動員すると、ダンマルク国の念食獣退治の体制には大きな穴が開くだろう。彼らも必死だ。

【そちらについては、我々は関知していません。――予想はしていましたが。思っていたより規模は大きいですね。今回は()()()()()()()()か……】

 戸惑いを示すズオウンさん。浅い念信なので感情を隠すのは容易なはずだが、むしろ先ほどから表に出している。八つ当たり?

【フチテー帝国の状況は分かりました。忙しいところありがとうございます。どうかお気をつけ下さい】

 釈迦に説法だが、戦いは戦い、万が一は起こりえる。無事を祈念して、俺は念信を切った。


「軍議の準備ができたのです。あなたたち、ここから出ると安心なのです」

 俺がズオウンさんと念信をしている間も、京と菊がダンマルク国の様子を団長さんに解説していた。武士17名、念士70名、4隻に分乗して迫っている。ズオウンさんとの話を総合すると、フチテー帝国が上陸を開始した後に攻めてくるのだろう。こちらは予告が無いとのこと。ガチだ。

 それでも団長さんは、俺たちの身に気を(つか)ってくれる。

 さて……


「軍議に、私たちも参加したいです」

 平易な大和語を選んでそう告げると、

「え? はい、なのです!」

 驚きながらも、(しゅ)(こう)する団長さん。


 なぜだか京も菊も、やる気満々なんだよな。2人ともこの団長さんを気に入っているらしい。

 ……俺は()いてなんか、いないんだからね。


 ――♠♠――♠♠――♠♠――


 どうしていつも、こうなるのかなあ……


 城塞の中庭。

 対峙する京とスターク。

 ヴィキンガの多くの武士や念士達が、その様子を見守っている。俺や団長さんも一緒だ。ミッチーは外で待たせっぱなしなので申し訳ない。ヴィキンガが観光客や島民へ連絡したので、戦いが起こることを知ってヤキモキしている。


 軍議では、俺たち3人も加勢すると提案した。喜ぶ幹部のほうが多かったが、難色を示す人も少なからず。城塞に来て数時間の武士に、不審を抱くのも当然だ。スタークも後者の幹部だったが、そこで団長さんが「模擬戦なのです」と言い出した。


「……軍師、なのです?」

 スタークが不平を漏らす。相手は剣王である菊だと思ったのだろう。団長さんも、そのつもりだったようだ。


 そんなスタークに近づく京。そして、腹に左手を当て、()()突き飛ばす。面白いように後ろに転がるスターク。でもさすがに受け身も上手く、すぐさま立ち上がる。

 ざわつく中庭。スタークも顔が真っ赤だ。対する京は右人差し指で「来い来い」と挑発。


 あー、これから共闘するというのに、もう少し(おん)(とう)にできないものか。

 恐る恐る団長さんの様子を(うかが)うと、また俺の鳩を見た時みたいに「あ、あの人と同じなのです」とか驚いている。なあんだ、それは団長さんの口癖なのか。


「武具召喚!」

 スタークが小斧を持って京に向かう。

 それを軽く避けながら、足をひっかける京。

 バランスを崩すスターク。

 その背を蹴る京。

 ――実力差は大きい。


「基礎は良いのです。いい人に鍛えられているのです」

 おお? 京が褒めるのは珍しい。

 俺に戦いの全ては見切れないが、このスターク、怒ってはいるも、動きは最小限。常に相手の動きに即応できる体勢を保っている。それは初見殺し揃いの念食獣相手には、重要なこと。


「団長が教えたのです」

 そう言い、果敢に攻めるスターク。

 (すき)は無いが、しかし、京のほうがずっと早い。

 何度も何度も、ぶっ飛ばされ、転ばされ。

 盛り上がっていた中庭は、いつしか静まりかえる。

 そして――


「私が弱いのです。ありがとう、なのです」

 ついにスタークが、大和流全面降伏姿勢(どげざ)を取る。

 まだ余力はあるように見えるが、これからフチテー帝国とダンマルク国との決戦が控えている。若いのに冷静だ。ヴィキンガの唯一無二という立場が、この男を鍛えたのだろう。俺なんかより、ずっと大人だ……


「みんな、大和国の3人を仲間にするのです!」

 団長さんの言葉に、中庭に集まった武士や念士は歓声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ