♠♠私は部屋に入るのです
「会って、どうされるのです? 何が目的なのですか?」
朝食を食べ終え。
今日の予定は、島の北東海岸沿いにある美術館の見学だったのだけど。
「昨日の戦いぶりを見てたら、表敬訪問したくなっちゃって。スタークって武士がいたじゃないですか。俺たちでも強い武士には憧れるんですよ」
予想通り、予定変更に抵抗を示すミッチーに、大嘘をついてみる。
スタークなんて、菊や京の足下にも及ばない。俺は勝てないけどな。
「アポは取られてないでしょう? 海外は――国にもよりますけど――大和国みたいにアポ無しでは、面会などさせてもらえませんよ」
「それは何とかなるんじゃないかなあ。俺たちもそれなりに箔がある武士だし」
などと、傲慢をかましてみる。
実際、大和国の特級武士を名乗れば、たいていの武士は予定を変更してでも会ってくれると思う。サインをねだられてもおかしくない。
「あー、もう…… 車を出さない、と言っても、皆さんなら走っていかれるのでしょうね。分かりました。ロータリーで待っていてください」
ようやく折れるミッチー。
「ありがとうなのです」
そう京が礼を口にすると――
「ああ、京さま。こんなリーダーに振り回されて、お可哀想に…… よよよ……」
ひざまずいて手を取り、大げさに京に泣き寄るミッチー。
今回はその京が言い出したんですけど。
――♠♠――♠♠――♠♠――
「スタークさんに、お目にかかりたいのですが……」
ハウペール城塞内。
読めないがおそらく「ここより先、立ち入り禁止」と書かれている看板横に立っている念士に、声をかけてみる。念士や武士には、ある程度、大和語が通じるはずだ。果たして――
「誰なのです?」
と、大和語で応じてくれて、俺たちの身分を聞くや、慌てて取り次いでくれた。
城塞内は石造りで、あちこち補修がなされている。あばら屋、ならぬ、あばら城塞だ。
規則性の無い通路をしばし歩き、俺たち3人は大きな机の置かれた一室に通された。会議室なのかな?
なお、ミッチーには念のため、外で待機してもらっている。鳩2羽の見守り付きだ。
「待たせたのです。私は私をスタークと呼ぶ、なのです」
しばらくして、昨日の上級武士が部屋に現れた。
俺たちより年齢は少し上か? ピンクがかった肌に彫りの深い顔は、エウローペー地域の北部に入ってよく見かける。ややクセのある大和語は、この地域の方言みたいなものなのかな?
「初めまして。大和国の将軍、小林秋介です。本日は急な訪問にもかかわらず……」
俺が自己紹介を始めると、スタークは手を前に出し、
「私は大和語を弱いのです。ゆっくり話すと、私は嬉しいのです」
と釈明した。
……実直じゃないか。好感が持てる。
続けて菊と京が、それぞれ自己紹介を進める。
問題はここから。京はベテランの武士に会いたいらしい。まったくもって難しいことを言ってくれる。城塞内でも案内してもらって探すしかないかと思っているが、そこまで応じてくれるかどうか。
などと、悩んでいると……
(トントントン)
「私は部屋に入るのです」
ノックをして、初老の男がドアを開ける。
「団長! 何が理由で、この部屋に来たのです?」
スタークは驚いた様子で、立ち上がった。