♠♠同じ念(※地図あり)
「そろそろ頃合いだな。――従魔召喚」
鳩4羽を召喚。1羽を相部屋の京の、平らな胸に埋める。
【誘導するのです】
窓から飛んでいく3羽。陽も落ちていて、暗闇に溶け込んでいく。
向かうはこの島から北東に20キロメートル。小さな島が3つほど密集していて、フチテー帝国武士隊はその島を拠点にしていた。
【もう灯りが見えるはずなのです】
暗闇の海の上では、方向感覚も距離感覚も掴めない。鳩は京を頼りに飛ばしていく。
ホテルは俺と京、菊とミッチーとで相部屋。観光地のホテルで、シングル4部屋なんて取れない。ミッチーは、冗談なのか本気なのか、俺と菊、京とミッチーの部屋割りを提案していたが、却下である。隣の空気はギスギスしているだろうが、それは菊に我慢してもらうしか無い。こちらの部屋も気まずいけれど、対外的には男同士だ。
鳩3羽はすんなり到着。
小さな島だが漁師が生活していて、数十の建屋が所狭しと隣接している。そしてこの島にも古い要塞があって――こちらはもう遺跡と化しているが――、その横にフチテー帝国武士隊は野営陣地を構えていた。歩哨たちが周辺を歩いている。
そんな中、一際でかいテントに一礼して、正に退出しようとしてる大柄の女性武士がいた。何かの打ち合わせの後だろうか。
【バロウンさんなのです】
所々置かれた照明や、テントたちから漏れる灯りで、陣地はそこそこに明るい。
【今が良いかな……】
鳩一羽、バロウンさんに向けて降下させる――
「何奴なのです?! (フチテー語 京による通訳)」
ちょっ! 武具を召喚するバロウンさんに、俺は鳩に急ブレーキをかける。
あからさまに不自然な飛び方になる鳩。
「どうか、なされましたか、なのです!? (フチテー語 京による通訳)」
通りがかった女性武士がバロウンさんに驚き、走り寄っていく。
「いや、なんでもないのです(フチテー語 京による通訳)」
そう言って歩く方向を変え、陣地の外れに向かうバロウンさん。
今度はそっと鳩を近づけ、受け入れてもらった。
【驚かしてすみません。大和国の小林です】
どこか間が抜けた名乗りになったけど、仕方が無い。事前確認を取らずに念信を張ることなんて、普通はしない。
【ふー…… こちらにいらしていたのですね。今はハウペール島ですか?】
呆れた感じのため息1つ。でも伝わってくる念信は、優しいものだった。
【そうです。数日前から林と後藤、あと大使館の職員に通訳として同行してもらって、来ています】
【そうでしたか。それで皆さま、今朝の戦いを見ていらっしゃった、と?】
【はい、僭越ながら何かあればと見守っていました。ですが……】
【申し訳ないのですが、私からは事情を話しかねます。……ウジイエとお話しいただけますでしょうか?】
バロウンさん、話は早かったが、想定外の提案をしてきた。
――♠♠――♠♠――♠♠――
ウジイエが両手に鳩を持って、ジッと見つめている。
その目がとても優しい。
心なしか、瞳が潤んでいるように見える。
……感動のシーンなんだろうけど、いい歳のおっさんにドアップを見せつけられるこっちの身にもなって欲しい。さっさと胸に埋めろっつーの。
「ウジイエ様、どうかなされましたか?」
人払いされた大きなテント。残ったのは3人。バロウンさんに呼ばれて同席しているズオウンさんが、いつまでも鳩を見つめているウジイエに声をかける。すでに俺たちと念信を張っており、それを踏まえての大和語だ。
「すまん。つい、懐かしくてな……」
ようやく鳩を受け入れるウジイエ。俺たちと念信がつながる。
……さて、どうなるかな。
俺たちは容姿こそ前誕と異なっているが、念は同じまま。ウジイエには、分かってしまうだろう。だとしても、こちらはしらを切るしか無いのだけれど。
【お久しぶりです、ウジイエ様。お忙しいところ、申し訳ありません】
俺は努めて事務的に、話を切り出す。
【! こ、これは……】
初っぱなから、勘づかれたか。反応がウザい。
コイツからすれば、死んだはずの男と同一の念がつながったのだから、仕方が無いけど……
【どうか、なされましたか?】
【申し訳ありません。小林殿の念が、私の恩師にそっくりでして、取り乱してしまいました】
【それは光栄です。それでは続けさせてもらいますね……】
【いえ、その前に……】
むっ、ごまかしきれないか?
【このたびは無理を言って同行させていただいていたズオウンとバロウンの勝手を許していただき……】
あー、もう。そーゆーの、いいから!
……そうこうして、ようやく俺たちの用件に入るウジイエ。
【ご指摘の通り、我々フチテー帝国武士団には、あの島をダンマルク国の元に取り戻すつもりはありません】
【! ウジイエ様!】
【そのようなことを他国に!】
ウジイエの言葉に驚く2人。
正直、聞いた俺も、同じ気持ち。そこまでぶっちゃけるとは意外だ。
【良いのだ。この方には……、この方の念には、隠し事をしたくない】
いい感じのことを言うウジイエ。
一端の責任者として如何なものかと思うが、話はこうだった……
ダンマルク国は、海を挟んでその北に位置するストッコルム王国とともに、北地中海からアトラス大海に抜ける海峡の制海権を握っている。フチテー帝国としても、支援を依頼されれば、無下にはできない国である。
――そんなの何とかならないのかって感じだが、京から裏念信で提示された地図を見て、俺は唸らされてしまった。海峡の幅が、狭いところは7キロメートルしかないのだ。艦船が両国を無視して通過できるような地形では無い――
一方で、ハウペール島は要衝の地にあり、フチテー帝国としてはダンマルク国から独立して弱体化してくれるほうがありがたい。またダンマルク国は武士の扱いが酷くて、特に各国の武士団にとっては心証の悪い国の1つである。
そこでフチテー帝国武士団としては、「努力しているが勝てない」という体を装うことにした。ウジイエ自身は先日の敗退の責任を取って団長を辞任したし、今朝の戦いでは上級武士2人を投入しても負けた。外部から見ても、義理を果たしたと見なされるだろう。
……と。
うーん、そうなのかなあ。
【砂浜周辺には、各国のスパイらしき人が多数見受けられました。あのような死者も出ない戦いでは、本気度を疑われるのではないですか?】
俺は素直に疑問をぶつけてみる。
【小林殿。国家間の武士同士の戦いでそこまでやると、あなたがた大和国が武力介入されるではありませんか?】
【お三方がその役目を任じられているのかと思いましたが、違ったようですね……】
すると返答を畳みかけてくるズオウンさんとバロウンさん。
どうもそんな話は国際常識っぽい。恥ずかしい…… 確かにあの程度の武士集団なら、剣聖1人で双方を無力化できる。
【いや、一般の武士は、噂ではどうであれ、そこまでの事情は知らないであろう。……そういうことですよな、小林殿】
助け船っぽい言葉をかけてくるウジイエ。助かるが、ぐぬぬ……
【お恥ずかしい限りです。私も武士になってまだ1年と少し、これからも勉強させてください】
ここも素直に。
【いえ、私のほうこそ、言い過ぎてしまいました。特級武士であることと、武士団での地位とは別ですものね】
バロウンさんはそう言うが。
地位というより、天野さんが最小限の情報しか教えてくれないから、困ってるんだけどね。
【それで今後はどうされるのですか?】
――と発言したが、これは失敗。こんなの軍事機密もいいとこだ。
【申し訳ありませんが、そこまではお話しできません。ですが早い時期に、ズオウンとバロウンは、再び小林殿御一行の元で経験を積ませたいと思っております】
サラリと答えるウジイエ。
なんか風格が漂っているじゃ無いか、ウジイエのくせに。
このあと、今後も定期的に俺から鳩を飛ばして連絡を取り合うことにし、念信を終えた。
「ウジイエが大人になっているのです。複雑な気持ちなのです」
同じ部屋、最大念信を通してじっと話を聞いていた京は、ぽつりと寂しげに呟いた。




