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♠♠湿地帯と剣王

♠♠平聖8年(YE2758年)8月

♠♠クライーナ国


 それにしてもここクライーナの地形は、起伏に乏しい。ひたすら緑が広がり、池や川も豊富だ。

 こういう地域は念食獣が多いと士道高校の授業で習った覚えはあるが、想像を超えていた。もうキリが無い。天野さんが「全部倒そうと思うな」とか言っていて、それを聞いたときは「(いか)()なものか」と感じたが、こうしてみると同意せざるを得ない。

 無論、街の近くにいる念食獣は根こそぎ狩るが、その街がかなりまばらだ。クライーナ国の武士密度は2、武士が念食獣に対して相対的に少ないので、人々は密集して暮らしている。流通も武士を護衛に付けねばならないので限りがあり、国も発展のしようがない。クライーナ国に入国して2日目、早くもエウローペー地域の国々が置かれている厳しさを垣間見ることになった。


【2号車、南、700メートルに向かうのです。6号車は北500メートルなのです】

【2号車、南、700メートル。6号車、北、500メートル】

 京はすでに全メンバーの念能力を頭に入れ、念食獣の強さに応じて的確に隊を割り当てていく。京から隊員へは直接念信を飛ばせないので、俺が間に入ってひたすらオウム返し。辛い……


【菊はこの地域に行くのです】

【うふふ、分かったわ】

 もちろん京と菊は例外。最大念信により映像込みで直接情報をやりとりできることもあって、話が早い。今は、京が北西の方角、5頭の念食獣の場所を示して、菊を向かわせている。剣王でないと倒せないレベルの念食獣が、いるわけではない。俺でも服従させられるレベルの念食獣を選択して、菊に貢がせようという作戦だ。

 そうして1時間かからず……


「ああ、あそこだ」

「了解です」

 7号車の運転手に、車を止めさせる。

 そこには4号車と、5頭のD+レベルの念食獣と、笑顔で手を振る剣王が、俺たちの車を待ち構えていた。


「うふふ、さあ召し上がれ!」

 妙なノリの剣王が怖い。

 4号車の武士3人は引きつった顔。自分たちだけでこれら5頭の念食獣を前にしていたら、死を覚悟すべき状況だ。

 京の1号車と、菊の4号車は、初日に俺たちにいたずらを仕掛けた武士たちでメンバーを固めてあった。自分たちが襲った武士がどういう化け物なのか、思い知るが良い……


「あ、ああ……、ありがとう」

 俺は動揺を隠して武具を召喚し、5頭の念食獣を順に撲殺する。抵抗しない念食獣、さっくり倒したいところだが、俺より少し念深が深い。時間をかけて従わせていく。格好悪いが、これも鳩を増やすためだ。


「ふー、やっと終わった」

「うふふ、秋、お疲れさま。……ねえ、もう今晩泊まる都市も近いし、ここからは私が()()()ダメかしら?」

 上目遣いに、両手人差し指を互いにつんつん。

 なりふりを構っていない、不退転のおねだりだ。

 さきほどから最大念信で、「運転したいわオーラ」をしつこく(ただよ)わせてくる。

 強い念食獣もいなくて、欲求不満全開だ。


 ――だが、断る。


「剣王・林よ、それとこれとは話は別です。おとなしく車に戻って、軍師・後藤の次なる指示を待たれよ」

 心を鬼にして、菊のおねだりを拒絶する。初日の遺恨があるとはいえ、4号車の武士たちを潰したくない。

 ……のに、だ。


「あの……、私たちなら、問題ないです。少しでも剣王の技能を学びたいです」

 4号車の武士達が、余計なことを言い出しやがった。


【どう思う、軍師殿?】

【一度思い知ったほうが早い話もあるのです。今日の宿泊地までガソリンも保つのです】

 そう、菊が運転すると燃費もすこぶる悪くなるんだよな。まあ、時刻も19時、この時期、日の長いクライーナも、あと1時間で日没だ。あとは寝るだけか……


「わあ、わあ、将軍・小林、ありがとう! さあ、みんな、行きましょう!」

 最大念信で京とのやりとりを聞いていた菊は、俺が表で承諾する前に大喜び。4号車の連中を乗り込ませるや、(またた)()に走り去っていく。考えれば初日の悪ふざけの罰にはちょうど良いのかな。明日は1号車とメンバーを入れ替えよう。

 ……さっそく悲鳴が念信を通して届き始めたので、菊との最大念信は通常レベルに切り替える。


「あの小林さん、聞きたいことが……」

 4号車の無事を祈願していると、7号車の武士達が声をかけてきた。


「はい? 何かありましたか?」

「剣王はどうしてあんなに綺麗だったのでしょうか? いえ、容姿では無くて、服の話です。念食獣は泥まみれだったのに……」

 あー。このあたりは湿地帯だもんな。

 菊は宙を跳ねるし、刀を遠隔操作するしで、関係ないけど。


「あいつはきれい好きだから、防具で泥よけまで、こなすんですよ。それにさきほどの念食獣程度なら、戦うまでも無く服従させたんだと思います」

 そんなに嘘は言っていない。

「そ、それは格が違い過ぎますね。4号車の連中はあんな人を参考にできるのでしょうか……」

 それは、無理なんじゃね。


 そうして翌日。

 4号車の連中は、2度と菊に運転許可を出さないでくれと、朝一番で請願に来た。


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