♠♠再誕
……このゲームは、また容姿をカスタマイズできないのか。
だが文句を言っても、どうにもならないことは俺も学習済みだ。
用意されているブレザーに着替え、狭くて暗い謎の金属性の通路を抜け、指定された部屋に向かう。自動ドアが開くと、そこには同じく制服を着た、見知らぬ男と女の学生がいた。
2人とも破顔して俺のほうに振り返ったが、すぐに表情を曇らせる。何だこの、「芸能人が現れるかと思ったら、違ったぜ」的な反応。……いや、遠慮しているのか?
うーむ、俺の容姿が変わっているのだから、これはやはり……
改めて見直すと、女子学生は凜とした姿勢に優雅な所作。これは、菊だ。
なら、もう1人の男は誰なんだ? 今は目を伏せて、とても不機嫌そうな面持ち。俺よりも2周りは小柄で、顔立ちも中性的、女の子が男装をしているようにも見える。彼も特級武士の1人なのだろうか……
まあそんなことよりも、京が見当たらないのが気になる。まさか京の身に何かあったんじゃないだろうな……
「えっと、滝沢秋だけど……」
そう話しかけて、自分の声の変化に気づく。身体が違うのだから当たり前か……
「一文字菊さん……だよね?」
状況は菊も同じだろう。俺はためらわずに話を続ける。
「そうよ、秋。……その、助けてくれてありがとう」
涙を浮かべ、丁寧にお辞儀する菊。
俺は生き残る選択をしただけ。頭を下げるのは俺の方だ。あの悪夢が、脳裏に蘇る。
……しかしこれは助かったことになるのだろうか? 俺は菊を見つめて、考えてしまう。
美人でスタイルも良いが、以前の菊とは全くの別人。仕草や話し方は同じなので、もし以前の菊を知っている人が見れば、「菊のものまねが上手な人」に見えるだろう。
なんとも、もどかしい。
あの瀕死の重傷から復帰しての再会なのに、素直に喜べない。思いきり抱きしめたいのに、失礼では無いかとためらってしまう。
「京は? まだ復活中なのかな?」
「それが……」
言い淀み、気まずそうな菊。どうして? 聞いては不味いのか?
と――
「3人揃ったね。それでは私から説明しよう」
突然、天井から声が響く。
「僕はここ、大和国武士団の本拠地に住んでいる団長の天野だ。わけあって姿を現せないが、よろしく」
……ついに名乗った、天野さん。って、団長かよ?!
こうして改めて聞くと、まさしく現実世界の不動産屋に入り浸っている天野さんと同じ声だ。どうして『武士物語』に登場するのだろう?
そして「よろしく」とか言われても、どこに向けば良いのか落ち着かない。3人とも部屋をキョロキョロする。
「話づらいかな。部屋の中に幽霊が漂っているとでも思って、話してくれ。あと、君たちの名前は変更してもらうから、何か考えておいてね」
「はあ……」
幽霊がいると思え、とか言われてもなあ。名前を変えろというのは、やはり俺たちは死んだからなのか?
「そのあたりはおいおい説明させてほしい…… のだけれど、話をする前に困っていることがあってね。老良くんが、再誕は問題なく成功しているはずなのに、どうにも口を利いてくれないんだ。肌も重ねた滝沢くんの力で、どうにかならないかな?」
――ぶほっ!
一連の超科学力に、念能力の査定状況……、そんなのバレてはいるんだろうけど、明け透けにしゃべってくれるなあ。
「そ、それ以前に、京は今、どこにいるんですか? 顔を――顔は変わっているのかもしれませんが――顔を見たいです!」
「んん? そういえば老良くんは、前回は女だったね。彼の役割は大軍師なので、今誕は知見を広げてもらうために男にした。素体の割り当て上も都合が良くってね。そこに立っている男性が、老良くんだよ」
……
……
……
ええーっ!?
「それでは京が口を閉ざすのも当然です。女の子はデリケートなんです。今からでも京を女の子にできないんですか?」
俺がパニクっているうちに、菊が口火を切る。
「えーっ? そんなの、気にする特級武士なんて、今までいなかったけどなあ。ついこの間、……700年前に女剣聖・源を男の素体に念転写したときなんかは、喜んで子どもを作りまくって、派遣先から戻ってこなくなったくらいだよ」
はあ。懐かしい人がご登場。キョウコさんは基準にならないだろ……
「剣聖・源って、キョウコさんですね。もしかして派遣先は、フチテー帝国ですか?」
あのウジイエの驚きが、今、解明される?
「そうそう。君たちはオリジナルのときに、彼女と顔を合わせているのだったね。彼女は今で言うフチテー大陸――当時は違う名前だったんだけど――そこの砂漠の街に赴き、目的の大型念食獣を倒した後もそのまま居着いてしまったんだ。まだ念食獣が大量発生していない、牧歌的な時代だったしね。そして一大帝国を築きあげた……」
何の違和感も無く、当時のキョウコさんの活躍が想像できる。……と、今はそんな話を続けている場合ではなかった。
「あのセクハラ姉さんと、他の女性を一緒にするのはどうかと思います。神経の太さが違いすぎます」
「そういうものかなあ。僕なんか、種族を越えて念転写していたのに…… いずれにしても、再念転写は現実的ではないんだよ。素体はとても貴重なんだ。1体育てるのに肉体年齢分、君たちの素体は17年かけているし、並行して培養できるのは12体まで。次のロットは4年後だ」
この人、武士を機械のように扱うなあ……
「あと、これも重要な制限なんだけど、同じ念が同時期に存在すると、念干渉が生じて念深、念幅ともレベルが低下してしまう。再念転写するんなら、今の老良くんは破棄処分するしかない」
むう、これはどうにも……
男子学生――京も、拳を握りしめている。
「それに老良くんは、滝沢くんと良いつがいになりたいのだろう? なに、君たちの先は長いよ。今後も3人は常にセットで、再誕してもらう。そのたびに、数十年間、行動をともにするんだよ? 一度、男を経験しておいたほうが、滝沢くんの嗜好を把握できるぞ。一文字くんより、優位に立てるだろう」
……遠慮なくしゃべってくれるなあ。
京とは何度も最大念信を交わした。俺の心を十分に知っていると思うが。……あ、夜は外していたっけ。と、ともかく、俺も他人の事は言えないが、天野さんはデリカシーがなさすぎる。
「……ったのです」
およ、京が口を開いた。
中性的な声で、案外、違和感が無いかも。
「……分かったのです。このままで良いのです。でも次回以降は、必ず女の体にするのです」
「はは、やっと口を利いてくれたね。老良くんなら理解してくれると思ったよ。念転写する素体の性別については、確約できないんだよね。誰を再誕させるかは、そのときの情勢で決めるんだ。まあ君たちの場合はできる限りの配慮をしよう。……では、しっかりと男の性衝動について学習するといい。次誕以降の交尾が捗るぞー」
……だめだ、天野さん。
誰かこの人の口を、閉じさせてほしい。




