♠運命の火
♠照和39年(YE2739年)8月15日午後
♠カナル国際管理地域
【エンジン4つ……大型の飛行機が飛んでくるのです?】
京が、紫と青の信号弾を打ち上げたが。
上空は地上よりずっと風が強いよう。あっという間に東へと流されていく。
【さすが鳥蛇、栄養満点ね】
遭遇してから6時間、ついに鳥蛇を倒して、その念を吸収する菊。最大念信を経由して、菊の身体に力がみなぎるのを感じる。
長い戦いで疲れたし、京の負傷も気がかりだが、この1ヶ月、心にのしかかり続けていた不安が晴れて、気分が良い。
『聞こ……か、応……くれ……』
……どこからか、雑音混じりに声が聞こえる。
【腕輪が光っているわよ】
菊の指摘に、左腕を見ると。
特殊装備だと渡された材質不明の腕輪が、明滅を繰り返していた。
「えっと……、はい、もしもし?」
どう使えば良いのか分からない。口元に近づけて話してみる。間違っていたら格好悪いな……
『良か……、無……? 今すぐ……難しろ。アメ……撃が繰り上が……』
音が途切れ途切れで、聞き取れない。
念食獣を倒しても、しばらく無線通信は回復しないと話に聞いたような。鳥蛇のような大物だと、その時間も長引くのかも。
緊急事態っぽいけど、鳥蛇は殺ったし、慌てることもないだろ。やっぱ、さっきの信号弾、見えていないのかな……
【……この音、何か落ちているわね?】
【あそこなのです。上空9000メートル。直径1メートル、長さ3メートル。着地まであと50秒。爆撃予定まであと5日、1つだけなのもおかしいのです?】
笛を吹いているかのような音が、か細く聞こえる。
『……返す。今すぐ……から……くれ!』
通信相手は怒鳴っているような口ぶり。
これを知らせようとしているのか?
そして――
西の空が赤く染まり、天に届かん勢いで巨大な煙が立ち上がる。
遅れて腹に響く重低音――
大地が揺れる――
暑い熱風が吹き荒れ、草木が瞬時に炭へと化していく!
【防具装着! 京も!】
菊が盾をいくつも念製し、俺たち3人を取り囲む。
【分かっているのです!】
京も盾を幾重にも展開。
俺も自分の防具を目一杯造る。
【来るわ!】
【来るのです!】
菊と京が俺に抱きつき、身を固める。
俺はせめてもと、2人の頭を抱きかかえる。
一段と強い熱風が押し寄せ、3人を転がす――
上下が分からない――
服が燃え、髪が燃え。消し炭となって崩れていく――
熱風による火傷と念による治癒が、皮膚の爛れと回復を繰り返す――
【まだ……来るわ……】
【数キロに渡って……数十機……なのです……】
こんな状況でも、新たな笛のような音を聞き分ける2人。
目を閉じても眩しい光――
終わらぬ大地の振動――
吹き寄せる灼熱の風――
『滝沢くん、聞こえるか!? 応答してくれ!』
ようやく安定する通信…… この声は澤村さんか?
「滝沢……です、痛っ――」
頬の火傷が治りきらない…… 声を出したら、激痛が走った……
『……反応あったぞ、急げ! 聞いてくれ、アルバ合衆国がハリケーン発生を理由に予定を5日も繰り上げ、戦略爆撃を決行しやがった……』
ああ、あの夜は風雨が強かったな…… 迷惑な話だ……
『できる限り、爆撃地を離れろ! 新型爆弾は目に見えない細胞破壊粒子を飛散させるそうだ! 武士の身体でも耐えられん!』
なんだよ……それ……
「無理……です…… 動け……ま……」
声を無理やり、絞り出す……
細胞破壊? 俺は2人を守れないのか……
『ちっ、駄目だ。爆心地から近すぎる。武士団の極秘機体なんだろ? 急いでくれ!』
運転手と話をしている? 道路が無事とは思えないが……
まぶたを開け、頭を動かす……
菊と京の防具が、まだ展開している……
俺の防具は、とっくに消滅したのに……
『君たちの位置は把握している。あと数分だ、気を保て!』
もう声が出ない……
視線を落とすと、2人の背がはだけている……
ひどい、火傷だ……
いつの間にか、念信も切られている……
自分の治癒を後回しにして、俺のために防具を張り続けているのか……
とてつもなく、痛いだろうに……
短いはずの、気の遠くなる時間が過ぎ……
赤黒く染まり、荒れ狂う空の中――
黒い飛行体が、目に入る――
宙に静止、垂直に降下――
無音、ジェット噴射も無しだ――
車では無かったのか……
なんだよこのゲーム、科学考証がめちゃくちゃだ……
……そうだ、これ、ゲームだったんだよな。どうして俺は、こんなつらい思いをして頑張っているのだろう……
着地を待たず、飛行体のハッチが開く……
何人もの武士が、飛び降りてくる……
澤村さん、吉野さん、野口さん、菊池さん、尾崎さん……前田さんもいる…… 皆さんも、細胞破壊粒子を浴びてしまうよ……
大の大人たちが、泣きそうな顔で叫んでいる……
俺はいいから、2人を先に……
服がはだけて可哀想だ……
そう、上着をかけて……
最後に俺も担架に乗せられ。
そこで俺は、気を失った…………




