♠3大武士
♠照和39年(YE2739年)8月
♠カナル国際管理地域
「分かった…… では我々は、明日からのが最後の掃討になるな」
これまでも4、5日に1度はこのテント村に戻り、再び出立するときには武士隊を引き連れて、あたりを掃討してきた。俺たちが情報を提供する場合とそうでない場合とでは作戦効率が段違いで、全体的にも武士隊のやり繰りに余裕が出ているとは聞いている。明日念食獣の掃討をしたら、以降は現地に人が残っていないかどうかを確認し、避難を支援することに専念すると言う。
「あと君たちに、大和国武士団から連絡が来ているぞ」
と、書類を手に立ち上がり、居住まいを正す澤村さん。大型テント内に勢揃いしているほかの幹部さんたちも一斉に腰を上げ、直立不動になる。軍人みたいだ。
「……一文字・翔・菊殿。念能力を念深A、念幅Cと認定し、その力を『剣聖』と認める」
「は、はい、ありがとうございます」
「おおー」
(パチパチパチパチ)
前回のアフリ大陸のときと異なり、証書を受け取る一文字さん。どよめきと拍手が起こる。印旛県出身、情に厚い浪花節系の吉野さんなんて、涙ぐんでいるし。
妥当だと思うけど、俺でさえ、一文字さんの最新の戦い方を目にしたのは今朝方だ。一文字さんの内に潜むものまでは掴んでいないようだが、大和国武士団はどうやって能力を査定しているのだろう……
「老良・算・京殿。念能力を念深B、念幅Eと認定し、その力を『大軍師』と認める」
「え? はい、なのです。ありがとうございます、なのです」
さすがの老良さんも、戸惑うのに無理は無い。念能力の評価は変わっていないのに、「軍師」を通り過ぎて、「大軍師」だ。念質の「算」についての評価が上がったのだろう。それには俺の念幅向上も、貢献しているはずだ。嬉しい。
「滝沢・万・秋殿。念能力を念深D、念幅Aと認定し、その力を『大将軍』と認める」
!
「はい! ありがとうございます」
うひょ、俺まで「将軍」を飛び越しての「大将軍」だ。2人に弄られても、最大念深を使い続けて良かった。
「大和国武士団の層の厚さは、世界一とされている。それでも3大特級武士が、同じ場所に居合わせたことは無いだろう。こんな歴史的な瞬間に立ち会えて光栄だ……」
いつも冷静な澤村さんや幹部の方々が、珍しくも興奮気味だ。防波県出身、新しがり屋な青年幹部の野口さんは「サインが欲しい」だとか、愛智県出身、カメラが趣味の尾崎さんは「集合写真を撮りたい」とか冗談めかして言っているが、半分本気だろう。
逆にその分、俺の気持ちは急速に冷めてくる。肩書きで戦えたら、どれだけ楽だろう。俺たちが3大特級武士に値するのであれば、意地悪な見方をすれば、あの鳥蛇に勝てるような武士は歴史上でもほとんどいないことを意味する。そんな敵と戦うのだ。不安が募るではないか……
「最後に、武士団から特殊装備が届いているのだが、すまん、皆は席を外してくれ」
周囲の雰囲気に俺たちが戸惑っていると、そこはさすがに澤村さんが締めてくれた。祝辞を口にしながら、幹部の皆さんが大型テントを退出していく。
「特殊装備というのは、これだ」
そう言って澤村さんが俺に手渡してくれたのは、黒い投げ輪のようなものだった。
「なんでしょう、これは?」
「無線通信機、らしい。左手首にはめてみてくれ」
澤村さん自身も半信半疑のよう。それはそうだ。この時代の無線通信機は、成人の男ならなんとか片手で持つことができる、という大きさに重さだ。こういう場面で言われなければ、冗談にもならない。
手にしてみると、金属なのかプラスチックなのかすら分からない。伸縮性があり、拳を抜けて、すんなりと手首にはまった。一瞬、ピカリと光を発し、また鈍い色に戻る。
「あー、あー」
腕輪に向かって声を出してみるが、反応は無い。
「……光れば正常動作だそうだ。私も見るのは初めてだが。これは特級武士でも、限られた者にしか支給されていないらしい」
自信なさげに説明してくれる澤村さん。邪魔とまでは言わないが、正直、ありがたみは薄い。
「これは念食獣がいても、通信できるのです?」
老良さんがつっこむが、それは俺も気になった。念食獣は電磁波を乱すらしい。それが、軍隊では無線通信機が使用されていても、武士団ではあまり利用されていない理由だったはずだ。
「分からないが、おそらく無理だろう。そのような無線通信機の存在を聞いたことは無い。この装置は通信距離に優れているのではないかな。どこにいても大和国武士団本部と、直接通話できるのだと思う」
本当か? それはそれで途方もない。
中継基地も無しで、ここから大和国と通信できるなんて、オーバーテクノロジーにもほどがある。……あれ、これはゲームだった。だったら、あり得るのか。世界観をぶち壊している気はするけれど。
「キョウコさん、――剣聖の源さんは、左足首にはめていたわね」
「そう言えば、そうなのです」
女2人からの証言。俺はまったく気づいていなかった。見ているところが違う。通信機を足にはめるとか、あの人らしいといえば、らしい。
ともかく澤村さんにこれ以上、聞いても無駄だろう。お礼を言って、俺たちも大型テントから退出した。




