♠源・嵐・京子
「あっしが行きます。その間に少しでも手立てを!」
そう言って向かっていくウジイエ。
相手になるわけがないが、そんなことはウジイエ自身が一番分かっているだろう。
「はは、それでこそフチテーの皇帝家だ。褒めてやるよ」
始まる打ち合い。
ウジイエには悪いが、意外にも、曲剣と曲剣がぶつかり合う。
力を試すためだろう、瞬殺にはしないようだ……
「なんだい、思ったよりバランスが良いじゃないか。隙も少ないねえ。見直したよ」
そう言い、攻めこんだかと思いきや守りに徹し、戦いを一方的にコントロールするキョウコさん。
ウジイエも道中、老良さんに鍛えられていた成果がそれなりにはあるようだ。
それを見て一文字さんと老良さんは、話を交わすが……
「どうしようも無いのです。私が正面から行くので、側室は後ろから狡猾に襲うのです」
「……分かったわ、京」
作戦とも言えない作戦を立てて、キョウコさんに向かう2人。
当然キョウコさんも気づく。
「おっと真打ち2人の登場かねえ。お前さんはもうどいてろ。2人の邪魔になるだろ」
そう言ってウジイエの曲剣を叩き落とし、喉元に刃を当てる。
「ま、参りました……」
両手を挙げ、引き下がるウジイエ。
「行くです!」
「はあっ!」
打ち合わせ通り正面から向かう老良さん。
一文字さんは正面から跳躍したものの、念体を次々念製し、それらを蹴って後ろに回り込む。
「! 本当に宙で軌道を変えやがる。それはアタイも真似できないねえ」
そう言いながらも楽しそうに2人の刀をさばく、キョウコさん。
全く剣筋が見えないが、あの2人の刀を同時に受けることって可能なのか?
信じられない。
「つけ入る……隙が……無い……のです……」
「はっ! とっ! やあっ! はっ!」
老良さんは正面から正攻法であらゆる角度から撃ち込み、一文字さんはいつの間にか2刀流で次々角度を変えた跳躍を交えながら打ち込んでいるのに、当たりそうな気配がない……
「いいね、いいね、お前ら。予想以上だ。こいつは気が変わった。アタイのとっておきを見せてやる。少しどいてな」
そう言うや老良さんに蹴りを、一文字さんに掌底を入れて2人を吹き飛ばす。
「がはっ!」
「ごほっ!」
今まで聞いたこともないうめき声を漏らし、倒れる2人。
「ちょっと小突いただけだろ、大げさだよ、2人とも。……と、それじゃ行くよ。従魔召喚、いでよ、嵐!」
何もない空間から従魔が現れる。
それは普通の召喚と同じだ。
しかしその大きさが、常識外れ。
まさに白馬というべき念体。
キョウコさんはそれに飛び乗った。
「は、白馬に乗る剣聖だと……」
「それがどうしたんだ? ウジイエ?」
驚いたのは俺も一緒だが、ウジイエのそれは尋常じゃなかった。
「我らがフチテー帝国の創始者チンクは、白馬に乗る剣聖だったと言い伝えられていまして……」
? チンクという名は、大和人っぽくないような……
「はは、それは光栄なこった。でもそんな700年前のおっさんと一緒にされるのは、さすがのアタイも傷つくね!」
そう言い、すでに退場したウジイエに嵐とともに突撃するキョウコさん。
「す、すみません」と必死に回避するウジイエ。
今の、避け損なったら、ただの怪我じゃすまんだろ。
「滝沢! いつまでぼーとしている。こいつの能力も測ってみやがれ!」
今度は俺に向かって突進してくる、キョウコさんと嵐。
迫力、半端ないっ。
「はっ!」
ウジイエのことを笑えない。
俺も必死に避けて、「従魔召喚!」と鳩10羽を再度召喚する。
「老良さん、大丈夫か?」
「だ、大丈夫、なのです。鳩を全方向から向かわせるのです」
「よし、行くぞ!」
縦横無尽、降参したウジイエ含め、俺たち4人に嵐を突っ込ませるキョウコさん。
だが移動速度は、空飛ぶ鳩のほうが上だ。
嵐の四方を取り囲み、一斉に突撃させる。
しかし――
!?
いつしか曲剣から槍へと武具を変化させたキョウコさんは、嵐と分担して全ての鳩を叩き落とす。
その嵐の動きが異様だった。
本物の馬とは似ても似つかない動き、曲がるはずのない方向に脚を曲げては蹴り上げ、長いしっぽすらも武器にする。
「どうだい、アタイの嵐は!」
得意気なキョウコさん。
どうだいって言われても、こんなのどうしろと……
「あなたさま、もう一度、お願いするのです」
老良さんから再度の依頼。
そろそろ鳩を失う可能性があるが、そんなもの、また念食獣を従わせればいい!
「従魔召喚! 行け!」
今日3度目、10羽同時召喚を行い、嵐に突撃させる。
「何度やっても、同じだよ!」
そう言い、再び全羽を叩き落とす。
そして1羽も消滅しない。
きちんと見切って、手加減しているのだ。
「分かったのです。嵐の念深はBレベル。対角線上の脚は同時に使えないのです!」
そう一文字さんを見つめて言い、嵐に向かって駆け出す老良さん。
一文字さんも宙を蹴り、嵐の後ろに回る。
「今なのです!」
「はあっ!」
右前と左後から。
タイミングを合わせて斬りかかる2人。
いけるのか!?
「ははは、凄い、お前ら凄いぞ! 人相手の戦いなんて所詮遊び。しかし初見の嵐にここまで立ち向かえるとは、お前らは本物だ!」
嵐の右前足は老良さんの顔の前で、キョウコさんの槍は一文字さんの喉元で寸止めされていた。
「降参なのです」「参りました」と弱々しく告げる2人。
豪快に褒めるキョウコさん。
合格点はもらえたようだ。
冷や汗かきっぱなし、寿命が何年も縮まるような模擬戦はようやく終わりを迎えた。
のは良かったけれど……
「滝沢! 明日からお前の念幅を重点的に鍛える。そうすれば老良の分析力をずっと引き出せるはずだ。一文字の戦いも楽になる。覚悟しておけ!」
と、俺は死刑にも等しい宣告を突きつけられた。




