■家族
■霊和20年(YE2820年)5月
■甲斐県国府市
ゲームを中断して、1階の坂上不動産に向かう。実家に連絡しようとしたが、情けないことに電話番号すら分からない。
「お邪魔しまーす」
18時を回っていたが、事務所の灯りは点いていた。何時まで営業しているのだろう?
「ああ、いらっしゃい」
坂上さんが出迎えてくれるが、浮かない顔。
「やあ、おはよう」
そしていつものように、天野さんもいた。この人の挨拶はいつでも、こう。仕事柄、24時間、世界中の人と連絡を取るから、「おはよう」なのだとか。職業が何かは聞いていないが、そう言う割には坂上さんの事務所に入り浸っている。
「まあ、座りなよ」
俺としては、実家の連絡先が分かればと来ただけなのだが、坂上さんはいつものようにお茶を用意してくれる。
「何か大事なお話をされていたんじゃないですか?」
2人とも、どこか辛そうな面持ちなので、これでは俺も落ち着かない。
「ああ、すまないね。気になるだろうけど、気にしないでくれ。僕らでも、こういうときはあるさ」
と、坂上さん。
「君こそ、彼に何か用事なのだろう?」
と、天野さんも続く。俺に割り込まれたのに、話を譲ってくれる。
「あ、はい。大した用事ではありません。坂上さん、僕の実家の連絡先をご存じありませんか? 保証人の書類か何かで、分かるのではないかと思いまして」
俺の用件を優先してくれているが、早く話を済ませたほうが良さそうだ。
「僕としてはやむを得ないし、支障も無いと判断するけど。……君は、彼に近い立場として、どうかな?」
ん? 天野さんが、何やら仰々しく坂上さんに尋ねている。どうして天野さんが、この話に絡むんだ? 何をやむを得ないと言っているのだろう?
「そうですね。最後に彼が納得してくれれば問題ないですし、してくれると信じています」
それに答える坂上さんの言葉も、どこか重々しい。まさか、俺の実家に何かあったのか?
「滝沢くん。申し訳ないが、そこまでこの世界を構築していないんだ。僕としては彼の希望も、君の希望も叶えてあげたい。強引なつじつま合わせを、許して欲しい」
いつもながら、謎めいて思わせぶりな、天野さんの話。
……んん?
どんどん思考に霞がかかっていく。
何かを考えられない……
――■――■――■――
「滝沢くん、滝沢くん、起きなさい!」
肩を揺すられ、坂上さんの声に目を覚ますと。
「あれ? すみません……」
俺はソファーで寝てしまったらしい。壁の時計は18時過ぎ。そうだ、俺は坂上さんの事務所を訪問していたんだ。
「お茶の用意をしていたら、眠り出してびっくりしたぞ。よほどゲームに熱中しているんだな」
げっ、なにやっているんだ俺? 人の仕事場に邪魔しておいて寝落ちするとか、恥ずかしい……
「はは、そこまで頑張っているなら、ゲームもずいぶんと進んでいるのじゃないのかい?」
天野さんも、結構ゲーム好きなんだよな。
俺はゲームの感想を一通り話して部屋に戻り、中断していたプレイを再開した。