第1話~日当13万円案件
明け方近く、どこなのか?分からない山奥で、重なり合った複数の遺体をスコップを使って掘り起こした少し湿った土で被せる作業を僕は延々と続けていた。この日は、6人の遺体を処理する事になった。
「加納、日が昇る前までに完璧に土を元に戻せよ!!」
「……はい」
いくら日当が10万円超える案件でも、今回ばかりは引き受けるんじゃなかった。僕は、汗と土と死臭に塗れながら、遺体の処理を黙々とこなしていた。
「これって、殺人幇助っていうやつで……バレたら俺も捕まるのか?」
僕は、ブツクサとそんな事を呟きながら、遺体に土を容赦なく被せ続けた。
「あの……一応、終わりましたけど……」
今回のクライアントの素性も知れない謎の男に僕は恐る恐る作業の終了を告げた。
「あん?終わったか……どれどれ……」
男は、僕が完璧に元通りにした遺体遺棄現場を足や手で確認しながら3分間ほど携帯電話で誰かと楽しそうに話をしていた。
「加納、合格だ!帰っていいぞ!助手席に座って待ってろ!」
男にそう言われた僕は、そそくさと荷物をまとめて男に頭を下げて帰り支度を始めた。
「お疲れ様でした……」
僕は、早くこの場を立ち去るべく1人で帰ろうと山奥の獣道を下ろうとした。
「おいっ!勝手に帰るんじゃねえっ!車の助手席で待ってろって言ったろ!!」
男にそう呼び止められて、そりゃそうだよな……と内心思いながら僕は、ワゴン車の助手席に荷物と一緒に乗り込んだ。
「加納……っつったっけ?お前、中々使えるな!今まで来たバイトの連中っつったら、仕事が遅いわ、雑だわ。まあ、酷かったよ!」
僕は、内心こんな残酷なバイトを手際よくやる奴の方が頭おかしいだろ!?なんて思ったけれど、勿論そんな事を口にしたら今度は僕が殺されると思って黙っていた。
「今回の契約は、お前の会社との約束では日当10万円。あ~、あと色々大変だったろうから3万プラスの手当てを付けとくよ!!」
うおっ!やった!自分が死にたくなるようなバイトだったけど、日当13万円!!しばらく遊べるぞ!
「まあ、いつもの事なんだけど、これから俺らの事務所に行って、お前には入念に身体を洗うために入浴してもらう。最後にアルコールのスプレーもかけるけど大丈夫だよな!?」
まだ、戦いは終わってなかったのか……まあいい、今の俺は、そんな小っちゃい事よりも日当の13万の方が、ある意味命より大事だ。身体をゴシゴシされようが、アルコールスプレーを全身隈なく吹きかけられようが、さして問題ない。
「よし、着いたぞ!降りろ!」
13万円。どうする、俺?パチンコ、パチスロ、競馬にソープetc……
「お疲れ様です!」
男の事務所には、鶏ガラのような痩せこけた爺さんが、1人タバコを吸って待っていた。
「ご苦労様。あんちゃんも、ありがとうな……」
鶏ガラに、そう言われた僕は黙って頭を下げて、
「ありがとうございました!」と言った。
鶏ガラ爺さんは、ゴールデンバットにフィルターを付けて旨そうに、しこたま煙を吸っていた。
事務所内の風呂場で、予想以上に全身をゴシゴシされた僕は、最後に裸のまま全身にアルコールスプレーを噴霧され、その後は、何故か?ベビーパウダーのような真っ白い粉末を、これまた全身に満遍なく、まぶされた。戦時中のナチスとユダヤ人か!?ひょっとして、このまま唐揚げにされるのか?とは思わなかったが、随分とマメにアフターケアをするもんだと感心してしまった。
「よっしゃ!それじゃあ、あんちゃんの家の近くまで、車で送っていくよ!」
粉っけが無くなってきたところで男が、自宅の近くまで送ってくれると言ってくれた。僕は、交通費まで浮かせてくれるこの案件を引き受けて良かったと素直に思った。
「あ、ありがとうございます!」
「よし、行くぞ!」
ああ、自分はなんて幸せな時を過ごしているんだろう……まるで天国にいるみたいだ……
「あんちゃん、会社に報告の電話、しなくていいのか?」
あっ、そうだった。日雇い派遣特有の、あのめんどくさい出発コール、到着コール、業務終了コールの内の業務終了コールを入れてなかった。
「すみません。車の中で電話してもいいですか?」
「おう、するがいいさ。途中で俺に電話変わってくれ!」
「お疲れ様です!加納です。作業終了しました。はい、今クライアント様に変わります!」
「オッス!お世話様!今日のバイトの加納君。良くやってくれたんで、手当3万付けるから、ちゃんと渡してやってくれよ!また、案件出たら連絡するわ!それじゃ!」
男から、携帯電話を返してもらって僕は、なんだか幸せな気分に浸りながら自宅付近まで残念ながら名前は明かせないという男と車中でプロ野球の話や女の話で盛り上がった。
「じゃあな、気をつけて帰れよ!また機会があったら、よろしくな!」
自宅近辺の公園前で、僕は車を降りて荷物を持って深々と頭を下げて、
「ありがとうございました!」と言った。
「ゆっくり休めよ~!」
僕は、男の運転するワゴン車を見送って自宅に向かって歩き出した。