異世界における他殺死ガイド98
バガッ! バギギ!
長く広い階段の上、戦い続けるのは勇者ジークと魔王ジャブアである。
ドドドドド
二人の戦闘の影響により、周囲が次々崩壊していく。
ガガガガ!
戦いながら階段を上る二人。二人が階段を上りきると、そこは王の間へと続く広間であった。
ガシャア!
勇者が魔王に向かって剣を振るえば、魔王の展開している不可視の盾が氷の膜のように割れて消滅した。勇者の攻撃力が高すぎて受け切ることが出来なかったのである。
だが魔王は何重にも不動を展開し、剣が自身の体に到達することを防いでいた。
ブウウウウン
無数の半透明な腕が手刀の形になったかと思うと、勇者に向かって一斉に突き出される。
シュドドドドド!
そのほとんどを剣で受け流す勇者。
バチュ!
だが受け流し損ねた手刀により、勇者の肩がえぐられた。
サアア
あっという間に勇者の肩の傷が再生する。永続化された回復魔法と、アグリアの不死性が持つ再生の力が合わさった結果である。
パパッ! ゴガガ
光弾を放つ魔王。避ける勇者。避けられた光弾が城の壁を崩していく。
バヒュウ!
風魔法を発動して飛行し、上を取る魔王。
ボアアアアッ!
一瞬で生成された巨大な火球が勇者に向かって放たれる。
勇者「っ!」
ゴオオオッ!
口から灼熱の炎を吐く勇者。巨大な火球は炎によってかき消される。
炎に包まれる魔王。だが常に張られている防御層により、魔王の体は焼かれない。
魔王の後ろに逃れた炎が天井を破壊する。崩れ落ちる天井。
バサッ! ガガガガ!
赤い翼を広げた勇者は落ちてきた瓦礫を足場に魔王へと迫る。
シュバァッ! バシャシャ!
勇者の回転尻尾攻撃。削れる不動。だが尻尾は魔王の体へわずかに届かない。
ブウウウウン
魔王の体の周りに半透明の鎧がブレて見える。いいや、ブレているわけではない。魔王は並列意識を動員し、無数の不動を同時展開しているのである。
オオオオン
半透明の腕が振りかぶられる。何重にも重なり合った不動による殴りつけである。
ゴオオオン!
両腕を交差し、魔王の攻撃を防ぐ勇者。
ドガガガガガァッ!
凄まじい破壊の力が連続して勇者を襲う。
勇者「っっっっ!!!」
両腕がへし折れ、体にも深いダメージを追いつつ勇者は落下した。
勇者の体が床へと叩きつけられる。その瞬間である。
鉄爪狼「グルアアアッ!」
ドフッ!
落ち行く勇者の体を背中で受け止めたのは鉄爪狼であった。
シュキキキ!!
勇者へ追い打ちを掛けようとしていた魔王の体に三本の白い線が交差する。それはアリエス、ジオ、ザトーの剣戟であった。
剣戟により何体かの不動が切り裂かれたが、すぐに新たな不動が生成された。
魔王「……」
勇者の仲間の参戦を見て、魔王の動きが止まった。
ウーラ「ナウー!」
そこに後ろから襲い掛かるウーラ。
ギロリ
ウーラ「ナウー!?」
振り返った魔王に睨まれて怯むウーラ。
バゴッ!! ドシャアアア!!!
突然壁を突き破り、大量の水と共に現れたのは兇亀に乗ったアウロラである。
アウロラ『ブレイド』
兇亀「ゴアアアアッ!!」
ギュルルルルルッ!!! ドガアアアッ!!!
虚を突かれた魔王は兇亀の体当たりをもろに喰らい、吹き飛んだ先の壁に激突し、衝撃で崩れた壁の瓦礫に埋まった。
「ジーク殿!」「ジーク!」『ダイジョウブカ』「ナウー!」
勇者の仲間達は傷を負った勇者の元に走った。
既に全回復していた勇者は鉄爪狼から下りた途端、鉄爪狼を蹴り飛ばした。
鉄爪狼「ギャイン!」
壁に激突し、血を吐く鉄爪狼。
アリエス「クロ!?」
勇者の奇行に驚くアリエス。次の瞬間、勇者に蹴り飛ばされた兇亀が壁に激突した。
兇亀「ゴアア!」
アウロラ『ナニヲスル』
勇者に抗議の目を向けるアウロラ。
ギャリィン! ドガッ!
ザトーは勇者の剣を鉄の爪で防いだが、やはり蹴り飛ばされて壁に激突した。
勇者「アリエス、アウロラ、魔物から離れろ。ジオもその男から離れるんだ」
ジオ「ジーク!?」
ウーラ「ナウー!」
ウーラが勇者の背中に飛びつき、羽交い絞めにした。
勇者の頭の中の地図には鉄爪狼、兇亀、そしてザトーが赤い点として映っていた。
勇者「そいつらは敵だ」
ザトーに剣を向ける勇者。
アリエス「ジーク殿、落ち着いてくれ。クロはジーク殿を助けただろう。敵じゃない」
勇者「ジャブアは俺達を混乱させるつもりだ」
アリエス「いいや、あれは間違いなくクロだ」
勇者は己の言葉を信じず、鉄爪狼の元へ駆け寄ろうとするアリエスを手で制した。
勇者「こんなところに昔の仲間が都合良くいるわけがない。おかしいとは思っているんだろう?」
アリエス「う……」
ジオがザトーを指差して言う。
ジオ「あれはザトーだ。ザトーしか知らない俺の過去を知っていた」
勇者「ジャブアには人の心を読む力があると伝えたはずだ。そいつらは全て偽物だ。目を覚ませ」
ジオ「いつ心を読まれたって言うんだ? それに、仕草や癖まで読めるものなのか?」
勇者「それは……」
魔王「くくっ」
ガゴゴッ
瓦礫が落ちる音に振り向けば、勇者達は瓦礫の山から浮き上がる魔王の姿を見た。
アリエス「!」
アリエスが驚愕する。魔王のそばに鉄爪狼が座っていたからである。
アウロラ『ブレイド』
ジオ「ザトー!?」
兇亀もザトーも、既に魔王のかたわらに居た。
魔王「こいつらの体は俺が魔法で作り出した。体の構造も記憶も、全て生前と変わりない」
アリエス「そ、そんな!?」
ジオ「嘘だ」
アウロラ『ナンダト』
勇者「偽物だと明かすのか」
魔王「なんであれ、彼らは生前の彼らと変わらない存在だと感じたはずだ。勇者の仲間達よ、彼らを倒せるか? ああそれと、この女もだ」
キン キシ……
魔王の後ろからフラリと姿を現したのはジュレスであった。その目には光が無く、体からは紫のオーラが立ち昇っている。
勇者達には一目でわかった。ジュレスが今、完全に魔王の支配下にいるのだということが。
勇者「ジュレス」
ジュレス「う……ぐ……」
勇者に名前を呼ばれ、ジュレスの目にほんの少し光が戻る。そして、ジュレスは苦しそうに言葉を絞り出した。
ジュレス「ジーク……躊躇するな……」
魔王「相変わらず強い女だな。だが黙れ」
魔王がジュレスに手を向けると濃い紫のオーラがジュレスを包む。
ジュレス「ぐううっ!?」
瞳から光が消えたジュレスは勇者達に剣を向けた。
勇者「ジュレス、すまない」
シュウウン
ジュレスの義足が収納によって外された。
ドッ
義足を失ったことによりその場に倒れこむジュレス。だがジュレスは剣を勇者達に向け続けていた。
魔王「それでこの女が止まるものか」
勇者「まだだ」
シュウウウウン
ジュレスの体に何かが装着された。それは拘束具であった。
魔力糸を編み込んだ拘束着に、強力な魔物の皮で作られたベルトが、亀甲縛りの形でジュレスの体を締め上げていた。
ジュレス「ムグー!!」
何故かジュレスの口にはギャグボールまでつけられていた。
魔王「なんという非道を」
エビ反りのままうめき続けるジュレスを見まいと、魔王は手で目を覆った。
勇者「皆良く考えるんだ、かつての彼らは、魔王に味方するような者達だったのか?」
アリエスが悲しそうな顔をしてうつむいた。
アリエス「そうだ。あいつは死んだ。もういない」
ジオもまた悲しそうな顔をしてうつむいていたが、やがて顔を上げる。
ジオ「だけど、俺の背中に、この胸に、一つとなって生き続ける!」 ※茶番の天元突破!!
アウロラは特に悲しそうな顔はせず、怒りの目を魔王に向けた。
アウロラ『ミンナイクゾ』
アリエス、ジオ、アウロラはかつての友、或いは恩人に対して武器を向けた。
鉄爪狼「グルアアア!」
ザトー「来い、ジオ!」
兇亀「ゴアアアア!」
ぶつかり合う三体と三体。だがアリエスとジオは武器を振りかぶった状態のまま動かなくなった。
ズシャア!
武器を落とし、膝をつくアリエスとジオ。
アリエス「やっぱり無理だ! クロを傷つけるなんて」
ジオ「あんたを殺すなんて、俺にできるわけないじゃないか!」
アウロラ『ウオオオ』 ポカポカポカ
アウロラは兇亀の鼻を殴りつけていた。
それを見た鉄爪狼、ザトー、兇亀は少し考えた後、魔王の方へと向き直った。
魔王「何?」
鉄爪狼達は魔王に敵意を向けていた。
勇者の頭の中の地図に映し出されていた三つの赤い点は今や青い点となっていた。
鉄爪狼達はアリエス達の行動に心を打たれ、勇者側に寝返ったのだ。
アリエス「クロ!」
ジオ「ザトー!」
アウロラ『ウオオオ』 ポカポカポカ
思いもよらぬ奇跡に感動し、涙を流すアリエスとジオ。
魔王「お前達……、その行為がどんな結果に繋がるのか、わかっているのか?」
鉄爪狼「グルルル……」
魔王に対して威嚇する鉄爪狼。
魔王「わかった。消えるが良い」
魔王が鉄爪狼達に手をかざすと鉄爪狼達の体が粒子となり消えていく。
アリエス「そんな、クロ!」
アリエスが鉄爪狼に抱き着く。鉄爪狼はアリエスの頬を少し舐め、粒子となって消えた。
ジオ「ザトー……」
ジオがザトーに近づく。ザトーはジオの頭を少し撫で、粒子となって消えた。後には鉄の爪が残る。
アウロラ『ウオオオ』 ポカポカポカ
アウロラは兇亀の鼻を殴り続けていた。兇亀は首をひっこめたり出したりしながら粒子となって消えた。
アリエス「……」
ジオ「……」
アウロラ『ハッ!』
アリエスは武器を拾い、ジオは鉄の爪を装着し、怒りに燃える目を魔王に向けた。アウロラはキョロキョロした。
鉄爪狼達の消滅を確認した後、魔王はジュレスに向かって手刀を放った。
バシュッ!
勇者「ジュレス!」
ウーラ「ナウー!?」
勇者はウーラの羽交い絞めを振りほどき、ジュレスの元へと向かおうとしたが遅かった。
拘束着が切り裂かれ、ジュレスは恥辱から解放された。
そして魔王の手から放たれた光がジュレスへと向かう。
サアアアアア
ジュレスの脚が再生されていく。そして、ジュレスの体から立ち昇っていた紫のオーラも消えていく。
ジュレスの脚は完全に再生した。
ジュレス「ムグ!?」
目に光が戻ったジュレスはすぐに状況を理解し、魔王から距離を取った。ギャグボールは着けたままである。
勇者「……なんのつもりだ」
魔王を睨みつける勇者。
魔王「前回と同じように楽勝ではつまらんからな」
魔王は風魔法で浮かび上がり、王の間へと向かった。そのまま王座へと腰を下ろす。
王座で頬杖をつきながら、魔王は勇者達に向かって手招きした。
魔王「さあ、全力でかかって来い。再びお前の全てをねじ伏せてやろう」
ゴゴゴゴ……
ガラララ
王の間の天井が崩れ、太陽の光が降り注ぐ。もはやヌベトシュ城のほとんどが崩れ、残っているのは王の間の周辺のみである。
最終決戦の舞台は整った。
シュウン
ジュレス「!?」
最終決戦に挑むべく、勇者はまずジュレスに靴下を履かせた。




