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異世界における他殺死ガイド96

 

 ヌベトシュ城 ―初恋の間―


「クロ……本当にクロなのか……?」


 バサバサバサ


 バサバサと尻尾を振る鉄爪狼にヨロヨロと近付くアリエス。


 これが敵の罠であれば待つのは死である。だがアリエスは近づかずにいられなかった。


「ブロロロロー!」


 襲い来るブロッホ。


「ガルア!」


「あっ!」


 鉄爪狼がアリエスに噛みついた。目をつむるアリエス。


 トス


 目を開けたアリエスは自分が鉄爪狼の背中に居ることを知った。


「クロ!!」


「ガルアアア!!」


 アリエスが名前を叫び、鉄爪狼がそれに応える。


 鉄爪狼がブロッホに向かって走り出し、アリエスは剣を前に構えた。


「ブロオ!」


 ドシュウウ!


 鉄爪狼の突進を脚部の車輪を後ろに回転させて避けるブロッホ。


 避けたブロッホを追い、鉄爪狼の鉄爪が部屋の壁をえぐる。


 ガララ!


 鉄爪によってえぐられた床が抜ける。


 鉄爪を避けたブロッホに対し、さらに噛みつこうとする鉄爪狼。


 バシュウ!


 ブースターの噴射により噛みつきを避けるブロッホ。


 二連撃を回避し、死に体となったブロッホを待っていたのは鉄爪狼の背から振り下ろされるアリエスの剣戟であった。


 ドギャ!


「ルロォ……!」


「浅いか!」


 ブロッホは今や全身金属製であり固い。そして足場の悪さからアリエスは剣を振り抜けなかった。


 だがブロッホの体はそのまま抜けた床へと吸い込まれていく。


「キューン……!」


 ダッ! トトッ


 鉄爪狼は開いた穴に落ちないよう壁を蹴り、まだ残っている床に降り立った。


 アリエスが床の穴を覗き込めば、ブロッホの姿は既に無く遥か下の地面が見えるだけであった


 ブロッホとの戦闘は終わったが、アリエスは落ち着かない。


 鉄爪狼の背から降りたアリエスは鉄爪狼の顔を覗き込み、尋ねる。


「本当に、お前なのか?」


「グルルルル」


 鉄爪狼のうなり声にアリエスは竦んだ。


 うなった鉄爪狼であったが、その場に寝ころび腹を見せ、息を荒くしながら尻尾を振りだした


「へっへっへっへっ」


 バサバサバサ


「ク、クロ!!」


 アリエスは鉄爪狼の腹を撫でた。


 ナデナデナデナデナデナデナデナデ


 バサバサバサバサバサバサバサバサ







 ヌベトシュ城 ―禁断の間―


「シャアアア!」


 ダフィネルの胴がしなり、ジオ達に向かって振り下ろされる。


 ギャリリリリィン


 落ちていた鉄の爪を腕に装着し、ダフィネルの胴を受け流すのはジオの師、ザトーである。


 受け流しながらザトーはジオに話しかける。


「ジオ、電撃は使えるか!」


「あ、う!?」


「使えるかと聞いているんだ!」


「つ、使える!」


「合図をしたら敵に向かって放て!」


「わかった!」


 バチバチバチ


 ジオは体内に電撃を溜め始めた。


 ザトーはダフィネルの周りを飛び回り、攻撃を誘発させ部屋の床を叩かせていた。


「フシュルルル!」


 ダフィネルは長い体をザトーを囲むように配置し、一気に狭めた。


 ザトーは上に跳躍し、それを避ける。


 そしてザトーは跳躍した先の天井を蹴り、狭まった状態のダフィネルの胴体を両足で踏みつけた。


「シュアアアア!」


 強烈に踏みつけられたダフィネルが叫ぶ。


 ボゴッ!


 床が抜けた。


 ザトーはダフィネルの周りを飛び回りながら、床へも攻撃を加えていた。攻撃で脆くなっていた所に大きな衝撃を加えられたことで部屋の床は丸く抜けてしまったのだ。


「フシャアアアア!」


 だがダフィネルは胴体を伸ばし、落下しまいと踏ん張る。


「今だジオ!」


 バシャアアンン!!


 ザトーの合図とともに、ジオは電撃をダフィネルに向かって放った。


「ジャアアア……ア……」


 ズルズルと穴に吸い込まれていくダフィネル。


 その時、落ち行く様子を見つめるザトーとダフィネルの目が合った。


 瞬間、ダフィネルは邪眼を発動した。


 邪眼の正体は一種の催眠である。


 目は口ほどにものを言う。人は見つめ合った時、非常に細かい所作まで読み取り、相手の様子を知ろうとする。その観察している集中状態を狙い、麻痺や混乱を引き起こす光を送り込む。


 だがザトーに邪眼は効かなかった。


 ザトーの意識は、常に後ろにいるジオに向いていた。


 ザトーの目に、ダフィネルは映っていなかったのだ。


「悪いな」


 ダフィネルの体が見えなくなると、ザトーはジオに向き直った。


「ジオ、良くやった」


 ジオを褒めるザトー。だがジオは警戒を解いていない。


「……何故、生きている?」


「誰が死んだんだ?」


「あんたはあの時、船で魔物に腕を噛み千切られて死んだはずだ」


「そうだな、腕は噛み千切られた」


 ザトーが袖をめくると、そこには金属製の義手があった。


「お前には教えていなかったが、俺には出血を止める技術がある」


「遺体をギルド員に引き渡したのは俺だ。あんたは間違いなく死んでいた」


「あらかじめ船に積んでいた死体と入れ替わった」


「でまかせを」


「ギルドの追手から逃れるためだ。周到過ぎるとは言えないだろう?」


 ギルドの掟は絶対である。裏切り者のザトーはその死が確認されるまで、地の底まで追われたであろう。


「ほ、本当にあんたなのか?」


「ああ、俺はザトーだ。何ならお前の過去の失敗を全て言って見せようか? あれはお前の初めての任務の時だったな、まだ高所が苦手だったお前は……」


「や、止めろ!」


 ジオは手でザトーの口を塞いだ。


「誰も聞いていないだろうに」


「お、俺がどれだけ……」


 ジオはうつむいた。


「うん? 悲しんだのか? 裏切り者の俺の死を? まだまだだな、ジオ」


「……」


「そうだ、あの時俺に何か言ってたな? なんと言っていたか、確か……」


「あ、あれは忘れろ!」


 赤くなるジオ。


「そうか」


 ザトーは後ろを向き、顔をジオに見せないようにした。







 ヌベトシュ城 ―獣愛の間―


武零怒ブレイド! 我羅手亜ガラテア! あれをやるぞ!」


 アウロラが叫び、上へと泳いでいく。


「ゴアアア!!」


 シャガガガガガ!!


 兇亀の背中の刃が伸びる。


 バチバチン!


 金星蟹の鋏が打ち鳴らされる。


「あわわわ……」「ヴロロロ……」


 水の底、抱き合って震えているのは瀕死のイゴルと、メガ覚醒状態が解除されたラチェルである。


 ガキン!


 金星蟹が兇亀の体を掴んだ。


「ゴア?」


 キョトンとする兇亀。


 金星蟹はそのまま兇亀の体を振り回し始めた。


「ゴアアアアア!?」


 アウロラも体を開いたまま縦に回転しだす。


 やがて回転を推力に変え、アウロラの体はイゴルとラチェルに向かって行く。


「大車輪蹴りだああああっ!!!」


 金星蟹が兇亀の体を離した。


「ゴアアアアアアッッッ!?」


 放たれた兇亀の体はブレて回転し、恐ろしい勢いでイゴルとラチェルへと向かう。


「ヒエエエッ!!」「ヴロロロロロッ!!」


 ドゴオオン!!


 衝撃とともに水が濁り、何も見えなくなる。


 スタ


 蹴りの恰好のまま、水の底に着くアウロラ。


「見たか!」


 アウロラはドヤった。


 ズゴ……ゴゴゴ……


「ん?」


 アウロラの耳に不穏な音が聞こえてきた。


 何かが吸い込まれているような音である。


 ズゴゴゴゴ!!


「おおおっ!?」


 急に発生した水の流れに体を引かれるアウロラ。


「ま、まずい……!」


 ズゴゴゴゴ


 イゴルとラチェルが居た辺りに水が吸い込まれている。


 濁っていて見えないが、水の底に穴が開いたのだろう。今この城は空の上である。


 もし水と共に穴から排出されでもしたらそのまま地面に落下して死亡である。


「我羅手亜! お前は戻れ!」


 シュウウン


 アウロラは呪文を唱え、金星蟹を召喚元に帰した。


「ゴアアアッ!!」


 兇亀がアウロラの近くにやってくる。


「武零怒! すぐに水から上がるんだ! そうしないと……」


 ゴゾッ!


 嫌な音がした。


「うっ!?」


 水の底が崩れた。


 ドバッ!


 あっという間に城の外へと流れ出る水。


『ワアア』


 空へと投げ出されるアウロラと兇亀。


 ゴオオオッ!


 地面は遥か下である。


「ゴオウ」


 ハム


『ア』


 アウロラは兇亀に甘噛みされた。


 シャガガッ!! シュガッ!


 兇亀の背中の刃が二枚突き出る。さらに尻尾にも小さな刃が二枚突き出た。


 キュイイイイイイ


 フワッ


 兇亀の背中の刃が回りだすと、アウロラと兇亀の落下は治まった。


『トンデル』


 アウロラは兇亀の口の中で驚いていた。




 兇亀はそのまま城まで飛んでいき、安全そうなところで降りて口からアウロラを解放した。


 解放されたアウロラはうつむいている。


 どこか怪我でもしたのかと、アウロラの顔を覗き込む兇亀。


『ブレイド』


「ゴア?」


『モウイチド』


「ゴアア?」


 もう一度何だ? とでもいうかのように口を開ける兇亀。


 ダッ!


 その口めがけてアウロラは飛び込んだ。








 ヌベトシュ城 ―退行の間―


 モチャム対ウーラの対決は決着していた。


 力、速さ、耐久度、スタミナ、その全てが絶妙なバランスで互角だった二人は、毛並みでの決着を試みることにした。


 ウーラの持つフワッフワの産毛には、モチャムの立派なモフモフたてがみであろうとかなわない。


 ズシャア


 膝を突くモチャム。


「俺の完敗だ。行きな坊主」


 モチャムがウーラに対して負けを認めたのである。


「ナウ」


 お互い傷つけあいながらも、何故か友情のようなものを感じつつ、部屋を後にしようとするウーラ。


 ガゴッ ガラララ!


 突然足元が崩れ、落下するウーラ。


「ナウー!?」


「危ねえ!!」


 ガシッ!


 モチャムが落下するウーラの腕を掴んだ。


 ガゴゴ!


 だがモチャムの乗る床も崩れていく。


「うおおっ!!」


 ブン!


 モチャムはウーラを上に向かって放り投げた。


 トトッ


 崩れていない床に着地するウーラ。落ちていくモチャムに向かってウーラが叫ぶ。


「おじさん!!」


「おじさんじゃねえ! おにいさ……」


 モチャムの体はあっという間に小さくなり、声も聞こえなくなった。


「……ありがとう、おじさん」


 ウーラはモチャムに礼を言い部屋を出た。


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