異世界における他殺死ガイド94
ゴゴゴゴゴ!!!
城は振動を続けている。
外の様子を見ることのできないジーク達には何が起こっているのかわからない。だが上から体が抑えつけられるような感覚から、城が上へと持ち上げられていることはわかった。
ビシビシッ!
部屋の壁にヒビが入る。
「城が崩れる? まさか、城ごと俺達を潰す気か?」
「「「「「ブアアアア!!」」」」」
BBSPが動きだす。
ビクシンスキーの顔の浮かんだ部位が持ち上がり、膨らんだかと思うと周りに生えた手足が広げられ、そのままジーク達に向かって叩きつけられた。
ドゴオ!
だがそれはジーク達にかすりもせず地面にヒビを作った。
ビキビキッ! ビシイッ!
「何だと?」
城の床が崩落する。
ビュオオオオオ!!
崩落した穴から空気が流れ込む。穴から覗くのは何本もの太い黒い管、そして遥か下の地面である。
「っ!?」「た、高い……!」「ナウー!?」『ソラダ』
かろうじて一人が乗れるほどの大きさを保つ床の上、ジーク達は分断されてしまう。
ガラガラガラ
さらに床が次々崩壊していき、ジーク達の乗る床は別々の方向へと動き出す。
「ジークこのままじゃまずい!」
「ウーラ!」「ナウー!」
割れる足場の上、ウーラと離れてしまったアリエスがウーラに向かって手を伸ばすが届かない。
「皆集まれ」
仲間が離ればなれにならないように指示を出すジーク。だが仲間達は動けなかった。
ジークの乗る床に飛び移ろうにも足場が揺れて落下の危険があり、何よりジークそばにはBBSPがいたためである。
すぐにBBSPの排除に動くジーク。
ブオ!
ジークは闘気を纏わせた剣でBBSPの胴を薙いだ。
ギィン!
だがその一撃はBBSPの胴を両断するに至らなかった。
ズググッ!
BBSPの内部が露出する。そこには神器の盾が埋め込まれていた。
コォォォォ……
BBSPの体から緑色のオーラが立ち昇り、神器へと吸い込まれていく。
キィィィン
生気を吸い取り神器が輝く。この状態の神器を破壊することは不可能である。
ゾブブ
BBSPの体から刃が飛び出た。これもまた神器である。
ググググ……
BBSPは体を歪めて神器を振りかぶる。
「ならばこれでどうだ」
BBSPに向かって手をかざすジーク。
グバァ
かざした手が赤く変色し、手のひらには牙の並んだ口が浮き出る。
ゴオォ!
ジークの手から放たれた炎がBBSPを包み込む。これはジークが悪食で取り込んだ火竜アグリアの炎である。
「「「「「ギヒィィィィィィ!!!!」」」」」
凄まじい温度の炎に焼かれ、BBSPが炭と化していく。
ゴトト!
BBSPが燃え尽きた後には黒い炭のこびりついた神器が転がった。
カレルの声が聞こえてくる。
「ありがとうBBSP、君たちは役目を十分に果たしてくれた。安らかな眠りにつくと良い。では勇者君、落ちないよう気を付けて進みたまえ」
カレルの声が聞こえなくなる。
ジークが周りを見回せば仲間たちの姿がない。敵の罠にはまり、分断されてしまったのである。
だがジークの状態管理画面の地図には、味方を示す青い点がそう遠くない距離に映っている。
バッ! シュタッ!
今にも崩壊しそうな床から、崩壊した大部屋の奥の床へと飛び映るジーク。
「皆、無事でいてくれ」
ジークは仲間と合流するため、近くの青い点へと向かって進み始めた。
***
ヌベトシュ城 ―初恋の間―
バキィン!
「くっ!」
肩当てを吹き飛ばされ呻いた女性の頭には羊の巻き角がある。アリエスである。
剣を構え、アリエスが見据える先には全身が金属化した亜人がいる。
二人は球状の部屋に居た。
アリエスの乗った床は大部屋からこの部屋へと運ばれた。そこで待っていたのは魔王の部下の一人、ブロッホであった。
ブロッホの左右の足は膝から下が太くなっており、下部に車輪が二つある。
「ブロロロロー!」
ギュアアアア!!
ブロッホが叫ぶと同時に車輪が回転しだす。
ズシャアアア!!
ブロッホは球状の壁を縦横無尽に駆け回り、腕から生えた金属製の杭でアリエスへと攻撃する。
キィン! ヒュギィン!
ブロッホの攻撃を剣で受け流すアリエス。
「早いな、だがジーク殿の速さには及ばぬ」
余裕を見せるアリエスを見て、ブロッホが速度を上げる。
キュウウウウウン
「ブロロロロー! ブロロロロー! ブロロロロー!」
「ならば私にも、勝機はある」
剣を両手に持ち、肩に構えた体勢となるアリエス。
ヒィィィィィ……
アリエスの周りの空気が張り詰める。
練り上げた闘気を推進力として使い、転移したのかと錯覚するほどの速度で斬りつける。空気の抵抗は技術によって受け流す。
ゴルト流剣術奥義、神気籠である。
「参る!」
……ィィン
空間が歪んだ。
ヌベトシュ城 ―禁断の間―
バリバリバリ!!
暗い部屋に青い雷の光が明滅する。
体内で生成した1ジゴワットの電力を相手に向けて放つ、ジオの奥の手である。
「きゃああああ!」
ジオの雷をもろに受けたサーリヒレイス種の女性、ダフィネルが倒れる。
「はあ、はあ」
ジオの息は荒く、軽さ重視の皮製の服は切り裂かれ、首元がはだけている。
ダフィネルの剣技により消耗させられ、奥の手まで使わされたジオであった。
「皆と合流しないと……」
ダフィネルに背を向け、肩を押さえて歩き出すジオ。その時である。
カッ!
ダフィネルの体が発光する。
ズルルル……
大きなものが這うような音。
光が収まった時、ジオは青い蛇の胴体に囲まれていた。
フシュルルルル
縦長の大きな瞳孔がジオを捉えている。
「あ、う……!?」
その目を見た途端、ジオの体が金縛りのように動かなくなる。
カシャ!
ブルー・ド・ダフィ:
カレルの因子強化により、一時的に魔族としての覚醒の先、メガ覚醒状態になったダフィネルである。メガ覚醒によってサーリヒレイス種の特性が強調され、蛇の胴体が長く伸び、その目は相手を麻痺させる邪眼となった。
古文書に載っている物語の中に、肌が青いキャラクターは少ない。古代では青肌はあまり需要が無かったのだと思われる。だがブルー・ド・ダフィはブレずに青肌を極めている。通常であれば腹や乳房など、青が薄くなったりする部分も、青い鱗を纏うことで彼女の体は隅々まで青い。彼女の肌はしっとりとした湿り気を帯びていて、まさに爬虫類の肌である。爬虫類のような青肌キャラクターと言えば〇ックスメンの〇スティークが有名だが、それに比べると彼女の肌はより刺激的な青色であり、洗礼され切った青に見える。青肌が苦手な者はその色を見ただけで「もう結構」と言いたくなるだろうが、逆に好きな人は「これぞ究極の青肌」と虜になってしまうであろう。
チロッチロッ
ダフィネルの口から細く長い舌が見え隠れする。
ズルルルッ!
「うっ、ぐっ」
蛇の胴体がジオの体に巻きついていく。
ミシィ
「ぐああっ」
ジオがうめく。
チロロッ
ダフィネルの舌がジオの頬を撫でた。
ヌベトシュ城 ―獣愛の間―
「ヴロロロロー!!」
バシャシャシャ!!
具足虫の水棲亜人であるイゴルの背中から白い蛸の触手が伸び、アウロラに向かって連打を浴びせていた。
シパパパ!
しかしその全てを手刀で叩き落とすアウロラ。
「ヴロォ!?」
驚愕するイゴル。
その隙を突き、アウロラが何やら呪文を唱えだす。
シュィィィィン
アウロラの後ろに魔法陣が浮かび上がる。
『ガラテア!』
ヌヌヌヌ……
魔法陣から赤い甲殻が覗く。
ヌヌヌヌヌ……
赤い甲殻はどんどん大きくなり、それを見ているイゴルの視線は斜め上へと上がっていく。
タラリ
イゴルが冷や汗をかいた。
アウロラが行使したのは召喚魔法であった。
呼び出したのは金星蟹の成体。この巨大な個体の名前は雅羅手亜である。
バチバチン!
雅羅手亜は両手の鋏を打ち鳴らした。
ヌベトシュ城 ―退行の間―
「ガオオオン!」
「フシャアアア!」
白い獅子と縞虎の大猫が威嚇しあっている。
ジャングル皇帝モチャムと、猫と人の合成魔獣ウーラである。
体の大きさではモチャムが圧倒している。だがウーラも精一杯体を大きく見せて対抗する。
「グルゥゥゥゥ」
「ウルゥゥゥゥゥ」
モチャムの体を見れば長い毛が雲のような曲線を描き、触ればなめらかな手触りのモフワリ感が得られそうである。
ウーラの体を見れば毛が逆立っておりトゲトゲに見えるが、産毛のように細い毛が多く生えており、手をうずめればフワッフワに包み込んでくれることであろう。
二人の対決に決着がつくには時間がかかりそうであった。
ヌベトシュ城 ―実験場―
キン キシ
クロム鋼製の義足が高い音を立てる。
義足の主ジュレスが剣を向けるのは狂気の鍛冶師カレルである。
「カレル!」
「ジュレス君、こうして面と向かって話すのはいつぶりかな? 義足のメンテナンスはちゃんとしているかい? まあメンテナンスなどほとんど要らないように作ったつもりだが」
キィン! キュバッ!
ジュレスは床を蹴って跳躍、回転し、カレルに向かって義足によるかかと落としを放った。
ジャラッ! ヂィン!
ジュレスのかかとがカレルの脳天にヒットするかと思われたその時、カレルの足元から伸びた鎖がその攻撃を受け止めた。
「チッ!」
舌打ちし、距離を取るジュレス。
「これはバファル鋼製の鎖だよ。あまり強く打ち付けると君の義足に傷がついてしまうかもしれない」
「ふぅぅぅ……」
ジュレスが息を吐き、集中しだす。
キィィィィ……
剣に闘気を纏わせる要領で集中することで義足の魔力機構に火が入り、かかとにある丸い噴射口が青い魔力の光を放つ。
この世界の冒険者達が使う闘気もまた、魔力と同じものであったのだ。
「ほう、凄い力だ。どこまでの出力が出せるか測らせてもらっても良いかな?」
ジュレスの義足から放たれる青い光の強さにカレルが驚いている。
「戯れるな!」
ジュレスがカレルに向かって襲い掛かろうとした時である。
ガゴッ! ジャララララッ!
天井に鎖で吊るされていた何かが降りてくる。
「っ!」
警戒するジュレス。下りてきたのは金属製の棺であった。
バガアン!
棺の蓋が吹き飛ぶ。
「グゥオオオオォォ」
中から現れたのは巨大なアンデッドである。
ギギギギ……
巨大アンデッドが手に持つのは神器である。巨大アンデッドはそれを引きずりながらジュレスへと近づいていく。
カシャ!
エルダリーデメンティア:
グロツ国王ルードの遺体を狂気の鍛冶師カレルがアンデッド化したものである。強化マドラーの技術を転用して生前以上の力を持たせ、生前に使用していた神器を持たせてある。神器は使用者の生気を吸い取って力を発揮する魔導器であるため、ジャブアが堕落処置を施し魔神器へと生まれ変わらせた。カレルは自分の手掛けたアンデッドに独特のセンスで名前を付けているが、この個体の名前については死者に対して冒涜的過ぎると言わざるを得ない。
「ル、ルード……様……?」
かつて忠誠を誓った者のあまりに惨い姿に震えるジュレス。
「オオォォ」
エルダリーデメンティアの体からドス黒いオーラが立ち昇り、魔神器へと吸い込まれていく。
ズォォォ……
暗い光を放つ魔神器。
「さあ、ジュレス君の力を計らせてもらうとしよう」
ジャラララッ!
カレルの両手の袖から出た鎖が地面へと落ちる。鎖の先には三日月の形をした刃がついていた。
ギリィ
奥歯をかみしめながら憤怒に燃える目をカレルに向け、ジュレスは叫んだ。
「カレルっ! 貴様は絶対に許さん!」




