表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/105

異世界における他殺死ガイド9

 

 半分になった鋸鱗の首を前足で転がし、もう動かないことを確かめる。



「ふふん、どうだクロ。私もやるものだろう?」



 アリエスさんがどや顔でこちらを見てくる。可愛い。好きだ。



 まさかアリエスさんがあんなに強かったとは。


 鋸鱗の硬い鱗を切断する剣技に加え、アリエスさんが鋸鱗の首を切った時、動きが見えなかった。


 アリエスさんは、鉄爪狼の目で追えない速さで動けるということだ。


 ヴィクター達に捕まった時は、シロを人質に取られていたので動けなかったのだろう。


 鉄爪狼におびえていたように見えたのは、実は鉄爪狼の犬っぽさに悶えていたとか?


 流石にそれは無いか。



 鋸鱗の胴体を鉄爪で切り分け、俺の首輪に巻きつけてもらった。


 これで数日は食料に困らないだろう。



 何度か休みながら旅路を行く。


 休みながらにしたのはアリエスさんの休憩のためで、俺は疲れていない。ずっと走っているのに、凄まじい体力だ。燃費の方も、割と良い。


 やがて日が暮れたので、岩陰で野営することになった。



 鋸鱗の他には魔物と戦うことは無かった。どうも弱い魔物は俺を見ると逃げていくようだ。


 岩陰に俺が丸く横たわると、中心にアリエスさんが入ってくる。


 俺の横腹の毛をポフポフしてふわっとさせ、顔をうずめてきた。


 トムジェリですか。



「スーハスーハ」



 アリエスさんやめて下さい。




 ***




 怪しい気配を察知し、俺は目を開いた。


 まだ遠いが、複数の気配がこちらへ迫ってきている。人の気配ではない。魔物だ。


 アリエスも既に起きていた。


 俺は岩陰から身を乗り出し、アリエスを守るよう立ち上がった。


 月明かりはあるが、明かりの当たっていない箇所は真っ暗である。だが俺には気配察知で魔物の姿が見えている。向かってくるのは小さい魔物、これは飛び鼠だ。


 飛び鼠は素早い動きで相手を翻弄し、見失った相手に対して大きな耳を羽ばたかせて飛び上がり、首などの急所を狙ってくる。それなりに厄介な魔物である。



「ピィィィ!」「ピィィ!」



 十匹ほどの飛び鼠がこちらを威嚇してくる。



「飛び鼠か。悪いがクロ、相手を頼めるか?」


「ガウ」好きだ。(告白)



 おかしい、昼間に見かけた小さな魔物は俺を見るなり逃げていったが、こいつらは逃げない。夜ということと、多勢であることが彼らを勘違いさせてしまったのだろうか。



 シュバ!



 一匹の飛び鼠が飛び掛ってくる。



 パヂュ



 前足で叩き落としたら潰してしまった。仲間が一匹潰されたと言うのに、飛び鼠達は逃げない。



「「ピィィィ!」」



 今度は一斉に飛び掛ってきた。



 パヂュ パヂュ



 一匹、二匹と潰していく。なんなんだこいつらは。自殺したいのか?



 パヂュ



 最後の一匹を叩き落とし、息をついた。



「……終わった、か?」



 俺はアリエスの方へと移動する。




 トス




 ……? なんだ? 何かが俺の背中を叩いた?


 見れば俺の背中、腰の当たりから血が滲んでおり、小さなナイフが刺さっている。



 敵を全て片付けたと思って油断した。飛び鼠達は隷属印を刻まれていたのだろう。だから逃げなかった。気づくべきだった。


 辺りに怪しい気配は無かった。しかし、アリエスを狙うのは、この鉄爪狼ですら従える強者である。気配察知に掛からない術を持っていてもおかしくはない。



 俺は気配察知に集中した。どんな小さな気配でも見逃さないように。



 ゥ……スゥ



 わずかに、ほんのわずかに服が擦れるような音がある。


 そのわずかな音を敵の気配だと認識し、再び気配を探る。


 ぼんやりと人間の輪郭が見え始める。


 一人、二人、三人……六人。


 囲まれている。


 この数の人間がすぐ近くに潜んでいようとは。


 昼、かなりの速度で走り通しだった俺達に、どうやってついて来た?



「グルルル」


「クロ? まだ何か居るのか?」



 シュバ!



 居場所がバレたのを悟ったのか、影が三体飛び出してきた。三体とも短い剣を逆手に持ち、黒いフードを被り、鼻も口も布で覆って目だけ出している。



「グルアアア!」



 俺の本気の威嚇だ。強者の威嚇は弱者の動きを縛る。


 効果があったのか、刺客達にほんの少し隙が出来る。俺はそれを見逃さず、内の一人に鉄爪で切りかかった。



 ギャリイン!



 鉄爪が弾かれた!?


 体勢を整え、敵の方を見ると、他とは違う、赤黒いフードを被った男がこちらを睨んでいた。


 腕には金属製の爪を装備している。それで鉄爪を弾いたようだ。



「うかつだぞ、お前達」


「申し訳ありません」



 七人目、どこにいたのかわからない。集中しても気配を察知できなかった。


 会話から、赤フードがリーダー格であるとわかる。赤いのだし、きっと他より三倍だ。



「物盗り、では無いな、刺客か……」



 アリエスは剣を前に身構える。


 暗闇の中、気配を察知できない敵と、アリエスを守りながら戦わなければならない。


 赤フードがとんでもなく強くて、俺を瞬殺してくれるなら良いが、じわじわ殺されるパターンだった場合、アリエスを守れない。



 赤フードが手で指示を出すと、六人が一斉に襲い掛かってきた。


 鉄爪で払いのけようとするが、俺の攻撃は赤フードに止められてしまう。


 ガギギ!


 ドシュ!


 刺客達の斬撃が俺の体を傷つける。


「ガアア!」


「クロ! ぐっ!」


 ギィン!


 アリエスも攻撃を受けている。いなせてはいるが、この暗闇でいつまで持つか分からない。



 俺は頭の中のチャンネルを切り替え、魔力を練った。


 低く、地面へと糸を送り、罠を張る。



「むっ!?」



 かかった。


 糸に足を取られ、動けない刺客に向け、鉄爪を振るう。



 ギャリン



 赤フードに止められた。


 なんなんだこいつは。凄く部下に優しい。部下は殺させないぞという気が伝わってくる。


 理想の上司か。


 これはじわじわ殺されるパターンだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ