異世界における他殺死ガイド88
コォァァァァ
ディーの口が再度光る。
また空中に制止させられてしまっては困る。俺は粒子光線を避けるため、ディーへと接近し足元へと潜り込んだ。
これにより光線の射角が取れなくなったのかディーは口を閉じた。
下からディーを見上げる俺。
……。
絶景である。
ディーの体は黒い。そのため細部の認識がしにくいはずだ。だがその体表面はツルツルである。水に濡れたかのような光沢がその形をくっきりさせてしまう。
さらに巨大であることにより、ごまかしがきかないにもかかわらず、その造形の美しさは完璧の一言であった。
太過ぎず、細過ぎずの腹、腰、臀部、脚。腰骨のでっぱり、臀部から脚にかけてのライン。太腿と股関節の繋がる部分など、破綻しないことが不思議なほどの複雑さを持った美である。
女性の下半身はこれほどに美をはらんでいたのかと、気づかなかった自分に反省し、感動することしきりである。
ゴオオオッ!
いかん。
案の定、集中を持っていかれた俺にディーの踏み付けが迫る。
黒いボディースーツの巨大な女体の踏み付けである。
あ、新しい……!
いや、ポンコツな俺がご褒美だと思う特殊な状況など、先人達は既にジャンルとして確立済みであろう。きっと巨大女、踏み付けとかで調べれば、そんな内容の書物が大量に出てくるに違いない。
ドズウウウウン
俺がご褒美を喰らった、もとい、踏みつけられた音である。
グオオオオオ
ディーはその巨体の全体重を俺に乗せてきた。
潰されないように不動で耐える俺。凄まじい圧力だが、問題なく耐えられる。
ドドウ!
「お父様!」
上ではザンシアがディーに攻撃を加えている。
いかん、集中を切らしている場合ではない。ザンシアが荷電粒子砲に被弾したら大変である。
ドドシュ!
不動の腕をディーの脚に突き刺した。
バリバリバリ!
不動の腕を通って破壊の力がディーの脚に流し込まれる。
ジャブア・コレダーである。
ディーの足に亀裂が入り、砕けていく。
キィィィィィ
「……」
亀裂がディーの脚にまで及んだのを見た俺は魔力の放出を止めてしまった。
この美しい巨体を壊したくない。
俺はそう思ってしまったのだ。
そこからの戦いは混迷を極めた。
ディーは体の管をドリルのようにして攻撃してきたり、あらぬところから荷電粒子砲を撃ちだしてきたり、地面から突き出た魔砲から射出した電撃ネットで俺を捕縛しようとしたり、戦いの途中でこちらの力を分析し、マグニフィセント・アーマーを使ってきたり。
凄まじい猛攻に、たまに俺の服が焦げ付いたりした。主には荷電粒子砲とその他の組み合わせによるハメ殺しによってそれは起こった。
ザンシアと俺も反撃するが、ディーの体を壊しつくすことができない。
お互い決定打が打てずに戦闘が長引き、やがてディーは奥の手を使うことを決心したようだった。
グニュウ
ディーの背中から長い棒が突き出た。棒は枝分かれし、アンテナのようになる。
一体何をする気なのかと見守っていると、やがて俺の超広範囲気配察知が遥か上空からの飛来物を捉えた。
急いで空中に防御結界を構築する俺。
バッ ――キュ!
ドゴオオオオオオ!
その飛来物は空中に展開した防御結界を貫き、俺の防御をも貫いて地面に到達し、大爆発を引き起こした。
爆風に吹き飛ばされるザンシアが見える。
だが助けに行けない。何故なら俺の左半身が吹き飛んでいたからである。
幸い頭が無事なので、止血しておけば後で再生できる。
危なかった。ディーは俺を殺せる力を持っていたのだ。
下を見れば煙で何も見えないが、気配察知では巨大なクレーターが出来ているのがわかる。
神の鉄槌。
宇宙に浮かべた人工衛星から金属棒を地表に向かって打ち出す兵器である。こんなものまで作っていたとは、流石は古代人である。
ディーを抑え込み、人工衛星を制御することが出来れば……。
カァァァァァァッ!
荷電粒子砲。空中に制止させられる俺。
俺の中の誰かが警鐘を鳴らしている。神の鉄槌の二射目が来るのだ。
これを喰らえば俺は死ぬ。喰らうわけにはいかないのだが、破壊力があり過ぎてただの防御層では防げない。
だが神の鉄槌は物理攻撃である。極限まで防御力を高めた不動でなら、ほんの少しだけ軌道をそらすことが出来るかもしれない。
そして、俺にも奥の手はあるのだ。
ズラアアアア
並列意識の大量追加。頭の中、俺の後ろに俺がずらりと並んでいく。
追加した並列意識達全員に防御に特化させた不動を展開させる。
ブブブブブゥゥゥゥゥン
鎧を着た六本腕の巨人が俺の周りに何重にも浮かび上がる。
大きな不動から小さな不動。マトリョーシカのようである。
不動たちがその六本の腕を一斉に上に向けた。
神の鉄槌の第二射が飛来する。思考加速。周りがスローモーションになる。
バッ ギィィィィィ――!
凄まじい運動エネルギーが何重もの不動を打ち抜いていく。
飛来した金属棒は結構な大きさである。円柱形で、円の直径はスイカくらいの大きさだろうか。推進装置が付いており、多少の軌道補正も可能のようだ。
大気との摩擦で燃え尽きないようにか、金属の表面に断熱用魔力機構が浮かんでいるのが見える。
ギィィィ
スローモーションの中、俺が展開した全不動の半分を貫き、金属棒のスピードの収まる気配はない。
だが。
ブブブブブゥゥゥゥゥン
さらに不動を展開する。並列思考に思考加速。
貫かれたら貫かれただけ不動を展開する。
これにより金属片が俺に到達する時は来ないのだ。
やがて金属棒の運動エネルギーは尽き、スローモーションは治まった。金属棒を不動の手でつかみ、地面へ投げ捨てる。
ブゥン
俺は超巨大不動を展開し、ディーに掴みかからせた。
ドガッ!
超巨大不動はディーと取っ組み合う形になる。
だがディーの腕は二本。不動の腕は六本である。余った腕をディーの頭と背中に回し、アンテナを破壊した。
ディーは身動きが取れないでいる。
そしてディーの本体、女性像へと俺自身が接近する。
女性像を見る。
空に向かって祈っている体勢の美しい女性像である。
額に四角い宝石がはまっており、チチチチッと光っている。
ガシッ!
俺は欠損した左半身を不動で補い、ディー本体を抱きしめた。
ググググッ!
ディー本体を巨体から引き剥がそうというのである。
当然ディーは暴れようとした。だが超巨大不動がそれを抑え込む。
キィィ……ィィ……
荷電粒子砲はかなりのエネルギーを使うようで、ディーは一時的にエネルギー切れを起こしていた。
ブチブチ
ディーの本体を管の束から切り離す。
チチチッ
四角い宝石が少し光った後、ディー・エクス・マキナは沈黙した。
ドズウウウウン
薄めの黒いボディースーツを全身に纏った巨大な女体が地面に倒れた。
混迷を極めた戦いはここに決着した。
地面に横たわる巨体を眺める。これもまた良い。
持って帰る……、のは無理か。
ヒュゴオオオ
「お父様!」
吹き飛ばされていたザンシアが戻ってきた。ボロボロだが深刻なダメージは無さそうで安心した。
「見せてください」
ザンシアは吹き飛んだ俺の左半身を心配しているようだ。
「大丈夫だ、治る」
「わかりました」
不動で抱えている女性像を見る。
ディー・エクス・マキナの本体が動き出す気配はない。
このまま持ち帰ってカレルに見せてみようと思う。
俺の悪癖が出たのもあるが、ディーは強かった。俺が乗り移る前のジャブアが相対したとして、勝てたかどうかわからない。
俺に溶けた魂が多いからか、俺の魔力量はとても多いらしい。このおかげで並列意識が展開する無数の不動の魔力を補えたのである。手心を加えないで攻撃していたとして、ジャブアだけでは魔力切れしていたかもしれない。
まあジャブアは勝てない相手なら逃げるし、逃げた後対策を練ったりして最終的に勝つかもしれない。
「帰るぞ」
飛び立つ俺。
「うおーい!」
呼ぶ声に下を見れば、守護兵二十八号に瓦礫から引きずり出されつつモチャムが叫んでいた。
いかん、完全に忘れていた。




