表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/105

異世界における他殺死ガイド8

 

 アリエスが胸元からペンダントを取り出した。



「これは兄上から頂いたものだ」



 俺はアリエスの手元を覗き込んだ。


 菱形の金属の中に、小さな宝石が並んでおり、中央に赤く、大き目の宝石が輝いている。



「中心部にある宝石はシクといって、幸運を呼ぶといわれているそうだ」



 アリエスはペンダントを上に掲げ、その輝きを楽しんでいる。



 キラキラしていた目から光が消える。



「どうやら私は兄上に命を狙われているようなのだ」



 アリエスが何を持って兄から狙われていると判断したかはわからないが、黒ローブの残した書筒に何かしら証拠と取れるものがあったのだろう。



「私は兄上が私の命を狙っているということを未だ信じられない」



 アリエスは悲痛な顔になる。



「だが、完璧主義者であった兄上の性格を思えば、不思議ではないとも考えてしまう」



 後継者はアリエスの兄で殆ど決まっていたが、完璧主義者なので憂いを除こうとしているということだろうか。



「兄上の元へ行って話を聞きたいが、それも出来ない」



 アリエスの兄が敵であるならば、殺されに行くようなものだ。刺客を送るのを止めてくれと伝えたとして、聞いてくれるわけが無い。


 ではどうするのか。同じように刺客を差し向けて、兄を暗殺するのか。


 アリエスには出来ないだろうし、俺が何とかするとしても、鉄爪狼を従えるような強者が他にどのくらい居るのかわからない。



「私はこの国を出ようと思う」



 逃げる。この国を出て、追っ手の掛からないところまで逃げる。現実的な選択肢だ。



「ついてきてくれるか? クロ」



 アリエスは俺の首を撫でる。


 俺は顔の横面をアリエスに擦り付ける。


 ペロペロはしないぞ。俺は紳士なんだ。





 ***





 というわけで、旅の準備を整え、宿屋の女将さんに別れを告げ、アリエスと共に町を出た。


 ドーツから遥か北にある港町、ポルトを目指す。そこから船に乗り、別の大陸へ渡るのだ。



 荷馬車に便乗させてもらう(俺は徒歩)という案があったが、俺を見て馬が動かなくなるので却下された。


 また、街道を行くとすれ違う人たちを怖がらせてしまう可能性もあったため、道からやや外れたところを、俺の背中にアリエスを乗せ、進む。



「クロの背中は気持ちがいいな」



 アリエスは上機嫌だ。


 試しに走ってみようか。鉄爪狼の体力や燃費も知りたいし。



「ガウガウ」


「ん? なんだ?」



 つかまれと言ったつもりだったが、これは流石に伝わらない。徐々に速さを上げていけば大丈夫だろう。



 ドドッドドッドドッ



「おお?」



 速さを上げていくと、アリエスが俺の首輪につかまってきた。落ちそうになったら対応できる速度には抑えよう。



 ヒュウウウ



 風を切る音が大きくなっていく。



「乗用馬より、ずっとはやい!!」



 アリエス、そのフレーズは駄目だ。



 結構な速さで暫く走ったが、驚いたことにまったく疲れない。恐れられる魔物なだけはある。体力は多いようだ。


 全速力だと違ってくるだろうが、今は試せない。



「クロ、疲れていないか? 疲れたり、お腹が減ったら言うんだぞ?」



 そう言ってアリエスは俺の首を撫でる。好きだ。


 ドーツからは大分離れた。回りに怪しい気配は無い。なので刺客の心配は無いが、魔物に遭遇する可能性がある。


 瘴気だまりから遠いので、強い魔物に遭遇する可能性は低いが、油断は禁物だ。


 とか思ってたら街道から離れすぎていた。



 !



 何かの気配を察知して、俺は速さを緩めた。



「クロ? 疲れたか?」



 そのまま立ち止まり、気配のした方を探る。



「グルルル」


 ガサリ



 草むらから現れたのは大きな蛇だった。蛇の頭はアリエスの頭より大きい。胴体は草むらに隠れ、どれだけ長さがあるのかわからない。



「シュゥゥゥ」


「こいつは、うわばみか!」



 アリエスは俺の背中から飛び降り、剣を抜いて構える。カッコいい。好きだ。


 だがアリエスに任せるわけにはいかない。ただの大蛇に見えるが、こいつは鋸鱗と呼ばれる魔物だ。


 毒は持っていないが、体にある鱗の一つ一つが硬く鋭く、その胴体に締め上げられた者は、見るも無残な肉塊と化す。


 街道から離れすぎたのもあるが、たまに強い魔物が他のもっと強い魔物に追い立てられ、瘴気だまりから大分離れたところに出てくる場合がある。こいつはまさにそれだろう。並みの冒険者では歯が立たない。



 俺はアリエスの前に出て、体勢を低くする。


 蛇の方も鎌首をもたげて臨戦態勢である。



「グルアアア!」


「シュアアア!」



 蛇は俺に飛び掛ってくる。これだけでかいのに、なんという速さか。


 しかし、俺の方が早い。



 ガシ!


「ジャアアア!」



 噛み付きをよけ、その鎌首に逆に噛み付いてやる。


 そして前足の鉄爪で首を落とす。



 ストン



 あっけない。この魔物で相手にならないとは、鉄爪狼の強さを再認識した。


 さあ、食料が手に入ったぞ。


 鋸鱗の胴体を顎で持ち上げ、アリエスにどや顔をしようとしたところ、鋸鱗の首が飛び上がった。



「シャアア!」



 こいつ、首だけで跳躍を!?


 言っている場合ではない。鋸鱗の飛び上がった先にはアリエスがいる。



「ガアア!」



 急いで首を何とかしようとするが、間に合わない。


 アリエス!



 シュ……キン!



 アリエスが鋸鱗の首を通り抜けた!? と思うと同時に、鋸鱗の首が真っ二つとなって地面に落ちた。



 アリエスさんは強かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ