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異世界における他殺死ガイド74

 

「どうぞ」


「ああ」


 トクトク


 俺の持つ碗に酒を注ぐのはムイという青年である。


 無用の混乱が起きないように、プレアムの難民達のキャンプを作ったことを近くの村に伝えに来たところ、村の一番大きな家に連れていかれ、村を救ってくれたお礼にと、酒と料理を振舞われることになってしまった。 俺は礼など必要ないと言ったが、皆俺と飲みたいのだという。無下に断るのも悪いので、飲むことにした。


 庭でBBQみたいな感じの立食である。お前達陽キャか。


 コブラの行っていることは外から見ればマッチポンプである。振舞われた酒と料理を頂きながら村人達から感謝の言葉を聞いて俺は胃を痛くした。その後難民たちのことを伝えて、用は済んだから去ろうとした時だった。


「――というわけだからよろしく頼む」


「承知しました」


 ビュウウ


 風が吹いた。


 このままでは料理に風で舞った土埃が掛かってしまう、などと心配するよりも前に俺は慌ててフードを抑えた。


 危なかった。フードがめくれてしまう所だった。


「コブラ殿」


 フードを深く被り直す俺に、やや体格の良い男が話しかけてきた。


「ん?」


「あなたはとても強い」


 なんだいきなり。


「そぉかい?」


「先日の訓練に参加させてもらったが、あなたの動きは尋常ではなかった。それに、あの恐ろしい白狒狒をあっという間に倒したとムイに聞いた」


「さあ、どうだったかな」


「コブラ殿…」


「おいメッチ」


 俺に話しかけてきた男はメッチという名前らしい。何故かメッチの後ろにいる村人がメッチを止めようとしたが、メッチはそれを振り払った。


「それだけの力を持っていながら、魔王を放置しているのは何故だ?」


 う、それを聞いてきたか。


「メッチ」


 メッチの後ろにいる村人がメッチの肩に手を当てて引くが、メッチは動かない。


「あなたがこの国の人々を救って回っているのは知っている。それについては感謝しかない。だが国がこうなった元凶である魔王を倒しに行かないのは何故だ?」


「メッチ止めないか、コブラ殿に失礼だろう」


 周りの村人がメッチを止めようとする。


「魔王ね」


 俺は酒を少し飲んでから続ける。


「無理に退治する必要があるのかい?」


「あるに決まっている。こうしている間にも、魔王は魔物達の軍勢を強化しているはずだ。やがては村や町を襲い始めるだろう。それに奴は、奴はルード様を!」


 メッチの顔は真っ赤である。魔王に対する怒りは相当と見える。


「メッチ!」


 後ろの村人がメッチを抑える。


 どうやらメッチは城の兵士だったようだ。


 ヌベトシュ城が落ちた後、撤退した城の兵士達は国中に散り、村や町を守ったようである。素晴らしい兵士達だと思うが、その行動は故国王への忠誠心がさせているようであり、その国王を殺した魔王を彼らは許しはしない。たとえ今後、魔王が人を襲わないとしても、彼らは魔王を殺そうとするだろう。


 メッチが魔王の顔を見ているかもしれないし、早めにここを去るのが良さそうである。



「魔王に勝てる訳ないだろ」



 聞き覚えのある声が聞こえた。


 声の聞こえた方を見て俺は驚いた。そこにいたのはダルトであった。


 この国の冒険者達の大半は国外へ逃げたらしいが、ダルトはまだ逃げていなかったようである。しかし、この村にいたとは、全く気付かなかった。宿屋などに引きこもってたりしたのだろうか。


 まずい。ダルトは間近で魔王の顔を見ているし、声も聞いている。


 ダルトと一緒に酒を飲みたい気はするが、すぐに去った方が良い。


「コブラ、流石のあんたも山を抉る程の力を持った奴を相手に勝てるとは思わないだろ?」


 ダルトに話しかけられてしまった。その声にちょっとやさぐれたような印象を受ける。


 ダルトにしたことを思い出してみる。


 山を抉って見せた後、その場に倒れている冒険者達を帰すために働いてもらった。ダルトにしてみれば魔王に心を折られ、お情けで生かされた上、使い走らされたという屈辱。やさぐれて当然である。


「……」


「ああ悪い、気を悪くしたなら誤る」


 俺が何も言えないでいるとダルトは謝罪し、頭に手を当てて目をつむった。


 魔王に味わわされた屈辱が彼を悩ませているのだろう。ダルトすまん。


 魔王に恨みを持つ兵士に、魔王の顔を間違いなく見ているダルト、二人がいるこの場を一刻も早く去らねばならない。去ることを伝えようと、俺が口を開きかけた時だった。



「「「きゃあああ」」」



 突然女性の声が聞こえた。


 後ろを見れば女性が俺に向かって突っ込んでくる。女性の手には配膳用のお盆がある。配膳中に足を引っかけたようだ。


 お盆が宙を舞い、倒れこむ女性の手が俺のフードにかかりそうになる。それがスローモーションで展開される。フードの危機を察知した俺が思考を加速したのだ。



「あ あ あ ぁ ぁ ぁ」


 キュピイン



 唐突に、俺は気づいた。


 これはドジっ子属性を持った女性が転んだはずみで俺のフードを脱がしてしまい、メッチやダルトに顔を晒してしまうという展開であろう。わかっているぞ、俺には特別な知恵があるんだ。


 その手は食うものか。抗ってやる。この運命デスティニーに。


 スゥゥゥ


 俺はスウェーバックで女性の手をかわす。


 それにより、俺の顎が上がってしまうが問題ない、それで見えてしまうほどフードを浅く被ってはいない。


「ぁ ぁ あ あ あ」


 なんだと?


 回避した先に、倒れこむ別の女性の手があるではないか。


 そういえば女性の声は複数聞こえていた気がする。


 ドジっ子は二人いたのだ。


 くっ。流石は運命デスティニー。俺は今死に体。ここからの回避は無理がある。不動を使えば可能かもしれないが、それによって正体がバレてしまっては元も子もない。


 風魔法で体を浮かすのも、強い風圧がこの場を滅茶苦茶にしてしまうであろう。


 ならばどうするか。困った時の魔力糸?いや、鳥の浮遊魔法だ。


 ほんの一瞬で良い、タイミングさえずらせればフードをめくられることは無いのだ。


 フ ワ ァ


 俺の体が少しだけ重力に逆らった。


 これにより、バッチリ合っていたタイミングがずれ、二人目のドジっ子の手はフードを外れていく。


 勝った!この部分で完結します! ※まだ完結しません


「っぁ あ あ あ あ」


 先の二人とはまた別の角度から俺のフードへと手が伸びてきた。


 三人目ジェットストリームアタックだと!?


 ばんなそかな!


 一つの村にそんな何人もドジっ子がいてたまるか!運命デスティニーぃぃ!



 ファサァッ ドテドテドテッ



 三人の女性が地面に倒れこむと同時に、スローモーションが終了した。


 誰であろうと運命には抗えない。何故なら抗って変えたと思っている結果もまた、定められた運命の内なのだから。


 抵抗空しく、三人目のドジっ子の手が俺のフードをめくってしまい、魔王である俺の顔が村人たちの前に晒された。



「「「ご、ごめんなさ……」」」


 ト ゥ ン ク



 大きな心臓の鼓動の音が何重にも重なって聞こえた。


 「あ…」「まあ…」


 足元を見れば倒れながら俺を見るドジっ子三人娘。その目にはハート形が浮かんでいる気がする。


 そういえば魔王は美形だった。


 周りにいる女性も俺を見て顔を赤くしている。中には顔を赤くしている男も居た気がするが、今の俺はそれどころではない。


 メッチとダルトが目を見開いて俺を見ている。


 バフッ!


 俺は急いでフードを被りなおした。


「酒と料理美味かったぜありがとな」


 シュバッ!


 礼だけ言い、俺はすぐにその場から去った。





 ■■■





 カホト大陸 -トアルの森近くの村-


「ナァウゥゥゥウ」


 ジークとアリエスはトアルの森に入る前に立ち寄った村で、家畜を襲う魔物に困っているという話を聞いた。


 二人は助けになりたかったが、今はブロデアの卵が優先である。どこにいるかわからない魔物を探している暇はない。二人がトアルの森に出発しようとしたその時、魔物が出たと村の中が騒がしくなった。ジーク達は急いで現場に駆け付けた。


 するとそこにいたのは人間の子供くらいの大きさの、猫のような魔物であった。


 奇妙なことに、その魔物はボロボロの布を上半身に纏っており、なんと後ろ足二本で立っていた。


「見たことの無い魔物だ」


 アリエスが興味深げに魔物を観察している。


「フシャアアッ!」


 魔物が威嚇してくるが、アリエスは怯まずに観察を続ける。


「アリエス、不用意に近づくと危ないぞ」


 ジークがアリエスの身を心配して注意した。相手はさほど大きくない魔物ではあるが、その手を見れば鋭い爪が付いている。


「ジーク殿、相談なのだが……」


「なんだ?」


「この魔物に隷属印を試させてもらっても良いだろうか?」


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― 新着の感想 ―
[一言] いやいやいや確率どうなってるんだよと言いたいw ダルトからしたらなんだったんだろうと思ってるわなw
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