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異世界における他殺死ガイド70

 

 カホト大陸 -アルゲ地方 ゴルト伯爵邸‐


「僕は反対だ。どうしてアリエスが」


 ゴルトの私室にて、ゴルトの息子ウルスは不満を訴えていた。


「兄上、私は一向に構いません」


「ならば僕もついていく」


「ならん。ウルス、お前にはここを守ってもらう必要がある」


「うぐぐ」


 マスカッシュ城王の間でザラメが異形と共に消えた後、孵化間近のブロデアの卵が複数確認されたという報があった。これにより、フギン、プロスト、マギィは卵の焼却に向かうことになり、グロツ王国の魔王退治への協力は後回しとされた。


 ジークは卵の対処に協力を申し出て、フギン達とは別の卵へと向かう事になった。サーリアはジークと離れたくなかったが、コマキが心配だったのでマスカッシュ城に残った。


 卵の一つはアルゲ地方のトアルの森に確認されたとのことで、ジークはゴルトと共にアルゲ地方へと向かい、ゴルト伯爵邸に来た。


 そして、ゴルトはジークだけに任せるのは忍びないとし、腕の立つ者を一緒に行かせるといって紹介したのがゴルトの娘アリエスであった。


 ジークは戦力は自分一人で十分であると断ったが、ゴルトに連れていってやってくれとお願いされてしまった。


 聞けば冒険者として身を立てていたアリエスであったが、とある事件の後、家から出してもらえていないらしい。その原因はアリエスの兄ウルスであった。


 ゴルトはこの機会をウルスからアリエスを解放するために利用する気でいた。


「父上はアリエスが心配ではないのですか?」


「ウルス、ジーク殿はグロツ王国の勇者だ。その強さを私はこの目で確認している。心配は要らない」


「ならばアリエスを行かせる必要はない」


「一人ではできないことは多かろう。それに、このところのお前はアリエスを拘束しすぎている。カトリーヌのことがトラウマになっているのかもしれんが、このままではお前がアリエスに嫌われてしまうぞ?」


「うっ、そ、それは…」


 ウルスがアリエスを見る。するとアリエスはにっこりと笑って言う。


「大丈夫ですよ兄上、私が兄上を嫌うわけがありません」


「…アリエス!」


 ウルスは感極まった感じである。


「ですが」


「?」


「父上、私が幼い頃、アグリアとブロデアという脅威がこの国を滅亡寸前にまで追いやったなど、私は知りませんでした。不安の中で育たぬように、私に外の世界を見せなかったのですね?」


「…うむ」


「冒険者となって働いて外の世界を知った気でいましたが、まだまだでした。このまま兄上の庇護下にいては、依然として私は何も知らず弱いままです」


「アリエス…」


「行かせてください兄上、私はもっと強くなりたいのです」


「…」


 ウルスは目をつむった。


「わかったよ。行っておいでアリエス」


「はい」


「これを持って行って」


 チャリ


 ウルスが懐から取り出したのは以前アリエスが身に着けていたペンダントであった。




 ***




 ジークの待つ部屋に、ゴルト、ウルス、アリエスの三人が入ってきた。


「ジーク殿、こちらがブロデアの卵の対処に同行させてもらうアリエスだ」


 ゴルトはアリエスを紹介した。


「ジーク殿、よろしく頼む」


「ああ、こちらこそよろしく」


 アリエスとジークは握手をした。


 ピリッ


 ウルスから確かな殺気が走った。


「僕はアリエスの兄ウルスだ」


「ああ、よろしく」


 ウルスとジークは握手をした。


 メキィ


 ウルスの圧倒的握力にジークの手が悲鳴を上げた。


 サアアア


 ジークの手から再生の光が発生した。


「…」


 だがジークは動揺などしない。今のジークは常に冷静な男なのだ。








「ゴルト様」


 秘書らしき女性が部屋の外からゴルトに話しかけた。


「ああ、すぐに行く。それではジーク殿、ブロデアの卵の対処を頼む。アリエス、無事帰るのだぞ。ウルスは余計なことをしないようにな」


 ゴルトが退室すると、アリエスがジークに話しかけた。


「ジーク殿、早速出発するか?私の方の準備は出来ている」


「ああそうだな、行くなら早い方が良い。だがその前に一つ、してもらいたいことがある」


「なんなりと言ってくれ」


「俺の仲間になって欲しい」


「ん?そのつもりだが?」


 何を言っているのだと、アリエスは眉をしかめた。


 これまでにジークが仲間にしたのはジュレスだけである。仲間状態を解除する方法は不明であり、レベルアップのための経験値は分配式のため、むやみに仲間を増やすべきでは無いのだが、ゴルト伯の娘に何かあっては大変なので、ジークはアリエスを仲間にすることに決めた。


「俺がグロツ王国で召喚された勇者だってことは知ってると思うが、勇者には色々便利な能力があるんだ。そのうちの一つが仲間の状態を管理したりする能力なんだが…相手を仲間にするのに儀式が必要なんだ」


「儀式?」


「ああ、俺が言う通りに動いてもらえるか?」


「わかった」


「まず、俺のことを上目遣いで見てくれ」


 ウルスの頬がピクリとした。


「…何故?」


「必要な儀式なんだ」


「わかった」


 アリエスはジークの前で少し腰を折り、上目遣いでジークの顔を見つめた。


「…!」


 兄のウルスですら狂わせるその美貌から繰り出される上目遣いは、常に冷静であるはずのジークの心すら乱した。


「どうだろうか?」


「…もう少し、媚びるような感じで」


「こ、こうか?」


 アリエスは後ろに手を結び、片膝を曲げた。


「!!」


 その破壊力たるや。


 バシャ! ガキィ!


 凄まじい速度で突き出されたウルスの剣を、ジークはGの前足を使って防いだ。


「あ、兄上!?」


 ウルスの殺気は本物である。


 シュパァ!


 ウルスの放った横薙ぎの剣をジークは飛びのいて避けた。


 シュラァァ


 避けたジークをさらなる剣戟が襲う。


 バシャ!


 本気で避けなければやられる、そう思い、ジークはGの後ろ足を解放した。


 プン!


 何たる早さか、ジークは残像を残しつつ、ウルスから離れた。


 シュタ!


 だがウルスはついてきた。


「俺の動きについてくる!?」


 ジークは驚愕した。Gダッシュはジークの最高速である。


 シャカカカ!シュタタタ!


 ジークが壁に逃げると、爪をかけているわけでもないのに壁を駆け上がるウルス。


「遅い!」


 ヒュ!


 ウルスの剣戟がジークの頬を掠めた。


「俺が遅い!?」 ※俺がスロウリィ!?


「兄上!」


 アリエスがウルスの背中に抱き着いた。


「!」


 それによりウルスはジークへの攻撃を止めた。


 正直、足手纏いは困るなどと考えていたジークであったが、アリエスはジークとウルスの速さについてきた。ジークは自分の目が曇っていたことを自覚した。


 キン


 剣を納めたウルスがジークに冷ややかな顔を向けながら言った。


「流石にアリエスに向かって媚びろなどと言う輩は許せないよ」


 ジークもGの手足をひっこめて言った。


「本当に媚びろと言っているわけじゃない、必要な儀式なんだ、わかってくれ」


「…仕方ないな」


 その後、ウルスがジークの後ろに立ったり、何故かアリエスへの注文を追加したりした。


 なんやかんやの後、アリエスはジークの仲間となった。



 ***



「ウガーウガー」


 ジークの目の前に大きな魔物が座っている。


「こいつは?」


「カトリーヌ様から譲っていただいた岩熊のチョロギーだ」


「こいつは魔物だろう?危険じゃないのか?」


「大丈夫だ、隷属契約で縛ってあるからな」


 アリエスはウルスに拘束されていた間、何もしていなかったわけではない。カトリーヌから隷属印の使い方について教えてもらっていた。命を狙われた相手に教えを乞うなど剛毅であるが、アリエスには目標があったのだ。


「トアルの森まではチョロギーの背中に乗っていこう」


「わかった」


 アリエスがチョロギーの首後ろに座り、ジークは背中に座った。


 アリエスがチョロギーの岩のような首をさする。岩熊の体はほとんどが固い岩のようであり、モフモフとは程遠い。


「…」


「アリエス、どうかしたか?」


 アリエスはクロと名付けた鉄爪狼の胸に顔をうずめてスーハスーハしたことを思い出していた。


 またクロと戯れたい、モフモフしたい。だがクロはもういない、それはもはや叶わぬ願いである。


 アリエスの目標は、いつかまたクロのように人懐こい魔物と出会い、クロと同じような関係を築くことであった。隷属印の使い方を習ったのは、そのとっかかりとすべくである。


「いや、なんでもない。行こう」


 アリエスとジークはトアルの森に向かって出発した。


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