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異世界における他殺死ガイド7

 

 泥棒が引っ立てられていき、馬小屋の前で俺とアリエスが戯れていると、宿屋の裏口から誰かが出てきた。


「今朝は騒がしかったようですが、何かあったんですかね? おや……」


 僧衣を身に纏った男はアリエスと俺に気づき、近づいてくる。


「お嬢さん、同じ宿だったんですね」


「……誰だ?」


「ああ、これは失礼、私、フギンと申します。ギルド前でお見かけしてから、その美貌に私の心は打たれ、是非お近づきになりたいと考えておりました」


 これはナンパか?


「私は近づきたくは無い」


「ひどい」


 俺はいい気味だと思った。このフギンという男、悪人ではなさそうだが、顔はまあまあ良いし、高身長だし、気にくわん。嫉妬ではないぞ。今、アリエスは命を狙われる身なのだ。怪しきは遠ざけるべきなのだ。


「グルル……」


 俺が小さく威嚇するとフギンは両手を上げて少し後ずさった。


「おっと、あなたと仲良くなりたかったら命を懸ける必要がありそうですね」



 キィ



 再び宿屋の裏口の扉が開き、誰かの顔が覗く。


「フギン、姿が見えんと思って探してみれば、ここに居たか。ん? おぬしは……おお、ギルド前で見かけた犬コロではないか」



 バッサアアアア



 扉から覗いた顔を見た瞬間、全身の毛が逆立った。


「ク、クロ? どうした?」


 逆立った毛で嵩が増した俺の体を見て、アリエスが心配してくる。


 扉から覗いているのは女性の顔だ。三白眼に、ニヤリとした口の歯列は鮫のようだが、怖くは無い。むしろ可愛い。


 なのに、全身の毛は逆立ったままで、心臓の鼓動もとんでもなく早い。これは一体?



 女性がこちらへ歩いてくる。スリットから覗く白い足が眩しい。


「ふむ、やはりこの犬コロには隷属印が刻まれておらぬ」


 魔物と化す前の、獣であったころに持っていたのであろう本能が、全力で逃げろと言ってくる。


「犬コロではない。クロだ」


 アリエスが俺を宥めるように撫でてくれたので、俺は少し落ち着いた。好きだ。


「わしの名はザラメじゃ。おぬしの名は?」


「……アリエスだ」


「アリエスよ、クロをちょっとだけわしにも触らせてくれんか?」


「クロが怖がっている。駄目だ」


 流石アリエスだ。俺のことをわかってくれている。好きだ。 


  ※アリエスは尻尾が下がりすぎて前に来ているのを見て怖がっていると判断しました。



「ちょっとだけじゃから」「駄目だ」「一撫でだけじゃ」「駄目だ」「ケチじゃのう」



 ザラメはフギンを手招きし、少し離れてひそひそ話を始めた。


「のう、フギン、あの女を垂らしこめんか?」


「ザラメさん意外と黒いですね」


「やかましい、こんな時にしかおぬしの色ボケなぞ、役にたたんじゃろうが」


「ひどい。そんなにあの魔物が気になるんですか?」


「気になるのう。わしも人じゃ、珍しいものには惹かれてしまう」


「おや、ザラメさんは人外では?」


「やかましい」


「アリエスさんを私が何とかできたとしても、これから任務もあるんですから、魔物と遊んでいる暇なんてありませんよ?」


「任務なぞ、おぬしらだけで何とかなるじゃろう。孵化していたとして、マギィがおれば問題ない」


「まあ私も問題ないとは思いますが王の勅命ですし、ザラメさんも来て頂かないと困ります」


「ぐぬぬ……」


 鉄爪狼である俺の聴覚はとても良い。丸聞こえだ。


 王の勅命とかなんとか言っていたが、こいつらそんなものを受けるような連中なのか?


「んん?」


 ザラメがいつの間にか目の前に居て、三白眼が俺の目を覗き込んでいる。


「グルアアア!」


 俺は吃驚して縮み上がる。声が出てしまった。


「あ! いつの間に! クロが怖がると言っただろうに!」


 アリエスが間に割って入ってくれた。好きだ。



「この魔物、人語を解しておるぞ」


 !?


「ええ? 鉄爪狼って、そんなに利口でしたっけ?」



 このザラメって人、得体が知れない。あの三白眼は、心を見通すとでも言うのか?


 俺が人語を解すと知ったら、アリエスは俺を手放すかもしれない。あわわ。



「ますます興味が沸いた。娘よ、この魔物をわしに譲る気は無いか?」


「断る!」


 好きだ。


「ぐぬぬ」


「ザラメさん、そろそろ行きましょう。多分もう二人も起きてきますよ。朝ごはんの時間です」


「ぐぬぬー!」


「アリエスさん、縁があったらまた会いましょう」


 ザラメはフギンに引っ張られていった。



 ***



 俺はアリエスに撫でられながら、アリエスが持ってきてくれた朝ごはんを食べている。


 バサバサバサ


「……人語を解すか」


 アリエスが呟いた。


「クロはなんだか私の言うことを理解しているように感じていたが……本当に私の話していることがわかるのか?」


 アリエスは俺の目を見てくる。


「私の勝手な想像だと思っていたが、お前はただ人懐こい魔物ではなく、本当にクロなのか?」


 ……困った。


「そんなわけはないな」


 アリエスは目を離す。


「だが、聞いてくれるかクロ」


 アリエスは俺の腹にもたれかかり、話し出した。



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