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異世界における他殺死ガイド68

 

「では再生魔法をかけるぞ」


「はい」


 白衣に身を包んだレッドセルとダフの見守る中、魔王は量りの上に置かれた謎の肉に再生魔法をかけ始めた。


 ググ…ググググ…


 肉が膨らんでいく、いや、増えていく。


 ググ…グ…ブツッ バシャ


 突然、肉は風船のように弾け、量りの上から流れ落ちた。


「あ…」


「これでも駄目なの…」


 レッドセルとダフは落ち込んだ様子でうつむいた。


「まだ候補になりそうな肉は残っている、落ち込むことは無い」


「ですがジャブア様、もうこれで百種類目です。本当にできるのでしょうか?」


「条件さえ揃えば可能だ。俺は少し出てくる、続けていてくれ」


 魔王は白衣を脱ぐと、それを壁にかけ、二人を残して部屋を出ていった。


 近頃の魔王は食事の途中でも、何かに気づいたように突然外出する。


 レッドセルとダフの二人は魔王が何をしに行っているのか気になっているが、聞けずにいた。


 魔王の去った後、ダフが量りの隣に置いてある箱からこれまた謎の肉を取り出し量りの上に置いた。


「レッドセル、お願いね」


「…」 コクリ


 レッドセルは無言で頷き、量りの上の肉に何やら施術を始めた。



 ***



「再生魔法をかけるぞ」


「はい」


 レッドセルとダフの見守る中、魔王は量りの上に置かれた謎の肉に再生魔法をかけ始めた。


 ググ…ググググ…


 量りの上の肉が少しづつ少しづつ増えていく。


 ググ…ググ…


 魔王が再生魔法をかけるのを止めた。


「…破裂しない?」


「みたいだな」


 レッドセルが量りを読む。


「でも増加が微量過ぎ…」


「ふむ、この魔力量にこの増加量だと、十分に増やすには必要な魔力量が膨大すぎるな」


「残念」


「だが破裂しない肉が見つかった、一歩前進だ」


「ええ、そうですね」


「二人とも今日は休め。俺はもう少しこの肉を調べてみる。」


「そんな、私たちも手伝います」「…」フルフル


 レッドセルは無言で首を振った。


「レッドセルは穴の解析で疲れているだろう、後で他に頼みたい仕事があるから今は休んでくれ」


「…わかりました」


 魔王の言葉を、レッドセルは不服そうな顔をしながらも受け入れた。


「ダフは…ジュレスが問題無いようなら居てもらおうか」


「んっは… ハッ はい、ジャブア様あ」



 ***



 怪しげな実験を続ける魔王と部下二人の所に、狂気の鍛冶師カレルがやってきた。


「ジャブア様、これを使ってみたらどうでしょう」


 カレルは小さな薬品を入れる容器をジャブアに見せ、レッドセルに手渡した。


「それは?」


「とある魔物の胎児から取り出した物質で、スーパーマッドへリンと名付けました。」


「どんな効果が?」


「フフフ、なんと、これをかけた肉は虹色に輝きだすのです!」


「…虹色に?」


「虹色に輝かせてどうするの!まったく、あなたは無駄なことしかしないわ!」


 ダフが憤った様子でカレルに詰め寄った。


「無駄かね?これから作ろうとしているものの性質からすれば、ピッタリな色になるのではないかね?そうでしょう?ジャブア様」


「ん?う、うむ、そうだな」


「ジャブア様が困ってらっしゃるじゃないの!」


「今は駄目、施術を追加したからその結果を見たい」


 レッドセルはカレルから渡された容器を白衣のポケットにしまった。


「そうかね。まあ気が向いたら使ってみてほしい」


 カレルは部屋から去っていった。


「まったくもう!」


 ダフはプンスカしながら作業に戻った。



 ***



 怪しげな実験を続ける魔王と部下二人の所に、カレルの助手、ジョシュアがやってきた。


「これを見てほしいっす」


 ジョシュアは大量の書類を机の上に置いた。


「これは?」


 それはカレルの行った実験の結果がまとめられた書類であった。


 書類に目を通すレッドセル。


「これ…この効果ならひょっとして…」


 レッドセルは白衣のポケットからカレルから渡された薬品の容器を取り出した。


 容器の中には透明な液体が揺れている。


「どうやらカレル様も実験に混ざりたかったみたいっす。勝手に効果のありそうな物質を探してたっす」


「虹色に輝くのは副次効果?」


「照れ隠しっすかね」


「どうしてあの人は…」


 ダフは額に手を当てて溜息をついた。



 ■■■



「よし、では再生魔法をかけるぞ」


「はい」


 レッドセルとダフの見守る中、俺は量りの上の虹色に輝く謎肉に再生魔法をかけた。


 ググ…ググググ…


 虹色の輝きが増し、謎肉が膨らんでいく、いや、増えていく。


 一定時間再生魔法を掛け続けた後、俺は魔法を止めた。


 レッドセルが量りを読む。


「魔力量に対する増加量、十分です。これなら…!」


「ああ、成功だ」


「やったあ!」「やりましたねジャブア様!」


 二人は俺に抱き着いて喜んだ。


 しかし、レッドセルはハッとして離れて向こうを向き、ダフは蛇部分を巻きつかせてきた。


 ミシ ミシリ


 俺の自動防御が発動しないようにゆっくりと優しく、しかし圧倒的な圧力で絞めてくるダフ。良いぞ。良くはない。




 俺が今取り組んでいるのは、食糧問題の解決である。


 魔王の持っていた知識、ドクの知識、そこにレッドセルとダフの協力が加わり、魔力を吸って急成長する食用植物の開発に成功した。魔力さえあればどんどん作れて栄養も豊富で、既に村々に配って回ったのでもう食糧問題は解決したと言って良い。


 これで餓えは無くなったが、まだ足りない。育ち盛りの子供も多いのだ、野菜ばかりではなく肉も食わせたい。だが肉を入手するには、森で獣を狩ったり食用の家畜を殺す必要がある。狩りは下手すれば生態系のバランスを崩してしまうし、食用の家畜を育てるには時間がかかる。


 そこで開発したのが増える謎肉である。謎肉といっても、元はとある魔物の肉であり、ソイレント何とかとか、そういうトラウマを呼び覚ますようなものではない。そのとある魔物の肉に様々な工夫を凝らしたことで、再生魔法をかけると増えるという特性を持たせることに成功したのだ。


 虹色に輝き、無制限に増える肉とか、破滅フラグの予感がするが、食べても人体に直ちに影響はない。いやいや、特に影響はない。魔王やドクの知識から考えても問題ないし、魔生物学者のレッドセルも問題無いと言ってくれた。本当に問題は無い。本当だ。


 ともかくこれで食糧問題は完全に解決だ。すぐに増やして村々に配ろうと思う。


「早速増やすぞ」


「は、はい」


 レッドセルがこちらに向き直った。赤い顔がさらに赤くなっている気がするが、気のせいだろうか。


 赤い肌は顔色で状態を判断しにくくて困る。


 レッドセルはほとんど寝ずに穴の解析作業をしていたようなので、今も無理していないか心配である。





 ところでそのレッドセルの解析していた穴だが、あれは勇者の召喚時に開いたものだということがわかった。レッドセルの解析魔法をかけたままにしておけば、あの灰色の何かはこちらに気づかないようなので、魔法の効果は持続させたまま、レッドセルに解析を中止させて謎肉の開発に加わってもらった。


 そして魔王の目的についてもわかった。


 まず魔王の正体は大昔にヤンチャして封印されたジャブアという魔法使いであった。


 どんなヤンチャをしたのかと言えば、魔物を支配して操る魔法を開発し、支配した魔物を率いて国を侵略しようとしたとか、そんな感じの魔王ムーブをしていたようである。


 封印から解き放たれたジャブアは自分を封印した人間に復讐してやろうと、封印場所の近くにあったヴァラーの里を襲った。そこでジャブアは自分を封印した者達は既にこの世に居ないことを悟った。


 次にジャブアは昔のようにヤンチャすることを考えたが、不意を突かれて再度封印されたりしたら堪らない。また、長い封印の間に、自分を超える力を持った存在が生まれているかもしれない。


 そのためちょっとずつ村などを襲って、自分を裏切らない配下を増やしていくことにした。そうして増やした仲間を用いて自分にとって脅威となるであろう存在がいないか情報収集を行った。


 そしてジャブアは、ヴァラーの里の禁書庫にあった古文書を読むうち、勇者という存在について知った。


 その古文書には、勇者は被召喚時に能力を一つ授かると書いてあった。


 能力を授ける?なんなのだそれは。そんなことができる存在、それは神か?悪魔か?


 ジャブアに湧き上がる強い好奇心。


 勇者はジャブアにとって危険な存在になり得る。何せどんな力を持っているかわからないのだ。


 勇者が脅威であるという情報の他に、ジャブアの目に留まったのは、勇者が別世界から召喚されるという事である。勇者はここではない別世界からやってくるのだ。召喚時に展開される穴を通って。


 穴の向こうには何がある?勇者の元居た世界か?それとも、勇者に能力を授ける存在の居る世界か?


 ここでやっと魔王ジャブアの目的はなんだったのかという話になる。


 ジャブアが城を襲った目的は、勇者召喚の後に残る穴の向こうに何があるかを調べることであった。





 グロツ王国に召喚された勇者に対して、ジャブアは最大限に警戒して対応した。


 支配した魔物の視点を通して勇者の力を調査したり、王国に別の切り札が無いか警戒して戦力を分散させてから襲ったり、とにかく警戒した。


 幸い勇者はそれほど強くはなく、警戒は無駄だったわけだが、強い能力を授けられていたら全力で逃げ出す気でいた。


 中々に情けないが、真に厄介な敵とは臆病な悪である。


 俺という存在が無ければ、この魔王を倒せる者はいなかったかもしれない。


 その場合、この国はどうなっていただろうか?




 ■■■




 ヘデラ大陸 -とある村-


 村の入り口に立つのはアンデッド、マドラーである。


「ご苦労様です」


 村人がマドラーに挨拶するが、マドラーは挨拶を返さない。


 マドラーは村を脅威から守るよう命令されているだけである。そのため、その他の事には反応しない。




 村の中、昼時なのか家の庭に設置された机の上に、野菜や肉の乗った木の皿が置いてある。肉は何故か虹色に輝いている。


 それを椅子に座った村人が手に取って食べる。


「コブラ殿の持ってきてくれたこの肉、始めは抵抗あったけんど、慣れると普通に美味いだべなあ」


「んだなあ」


「ところで城が落ちたって聞いて暫く立つけんど、魔物が襲ってきたりしないだな」


「来たとして俺達にはコブラ殿が居る」


「んだんだ、あの人がいりゃあ、例え魔王が襲ってきたとしても追い払ってくれるだよ」


 そこへ子供たちが駆けて来て遊びだした。


 魔王役なのか、頭に角をつけた子供が叫ぶ。


「この村を守る騎士はもういない!」


 フードの替わりなのか、首を服の中に入れ、ガミラのようになった子供が叫ぶ。


「いるさっ! ここにひとりな!!」


「ヒューッ!」


「がははは、いいぞ!」「もっとやれ!」


 村は平和であった。


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