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異世界における他殺死ガイド67

 

 ※登場人物が多いので会話文の前に名前を入れています。


 現在のモルトウ王、アルヴィスがまだ生まれて間もない頃、モルトウ王国は襲撃を受けた。何に襲撃されたのかと言えば、凄まじい力を持つ魔物、火竜アグリアという存在にである。遥か昔に封印されたはずのその火竜はカホト大陸の南に突然現れ、いくつもの村や町を焼いた。


 この事態にアルヴィスの父ハンスは、妖術師クロマの勧めるままに勇者の召喚を行った。そうして召喚された勇者と共にハンスはアグリアの討伐に向かった。そして、アグリアを討伐することは叶わなかったが、辛うじて封印することに成功した。だがその時に負った怪我により、ハンスは帰らぬ人となった。


 当時モルトウ王家にはハンスの他にはアルヴィスしか生き残っておらず、ハンスが死亡したことで王家の血筋はアルヴィスのみとなってしまった。


フギン「その時召喚されたのがそこに居るプロストさんです」


 フギンが指差す先に居た男は、隣の魔法使いらしき少女をジッと見つめていた。それは慈愛の目か、変態の目か。


サーリア「そちらの方も、勇者様なのですか?」


プロスト「……ん? あ、はい、そうですお姫様。」


 キリッ


 プロストが顔をキリッとさせてサーリアに顔を向けた。


マギィ「あはははは!」


 プロストのキリッに魔法使いらしき少女が指をさして笑う。それを見てプロストはデレデレになった。


プロスト「マギィ、アグリア討伐の時は本当に大変だったんだよ? ひと吹きで森を焼き払う凄まじい火力を持つ上に、不死性まで持っててバラバラにすると活動停止するんだけど、ほっとくとくっついて復活するから距離を十分に離した八つの祠を作って、その中に一部分ずつ封印したんだ」


マギィ「そうなんだ! すごいね!」


 プロストはデレデレデレリーン。


ザラメ「プロストお主……。」


ジーク「それで、勇者召喚の何が問題なんだ?」


 それまで黙っていたジークがフギンの話に口を出した。


フギン「勇者の召喚後、勇者の出てきた穴は閉じなかったでしょう?」


サーリア「ええ、灰色に染まって、なんだか不気味でした。」


フギン「プロストさんを召喚した時も、穴は暫くの間閉じませんでした。そしてその穴の向こうから厄介なものが出てきてしまった。」


サーリア「穴の向こう……?」


フギン「ええ、勇者の出てきた後に別のところに繋がるのか、または勇者がこちらの世界に来る際の通り道に繋がっているのか、或いは……」


 フギンは説明した。


 穴の向こう側に、こちらの世界とは異なる理が支配する世界が広がっていること。


 あちらの世界に住むものを異形と呼んでいること。


 異形達は穴を通ってこちらの世界に来ようとすること。


 異形達は理の異なるこちらの世界では生きていけないらしく、ほとんどが死ぬこと。


フギン「プロストさんを召喚した後、穴からは大量の瘴気が溢れだしました。クロマは穴を結界で覆って誰も近づけさせませんでした。穴はいずれ閉じると説明され、当時召喚に協力した魔術師達は奴を信用してしまった。結果、穴が閉じ切る前に厄介な異形がこちらの世界に来て、こちらの世界の理に順応してしまった。」


サーリア「その異形は今どこに……?」


フギン「さあ、今何処に居るのでしょうね? その異形は瘴気溜りに卵を産み付けます。瘴気を十分に吸ったその卵から孵るのは人間に似た姿をしているものの、腕は四本で、背中に蝙蝠のような翼を持った真っ黒な化け物。こいつを我々はブロデアと呼んでいます。ブロデアはアグリアには及ばないものの、とても強い力を持っていました。そして、ブロデアはどんどん増えて、アグリア以上の脅威となりました。」


サーリア「……」


フギン「アグリアの封印後すぐにプロストさんがその対処に当たりましたがブロデアの増える速度に追いつけず、このままではモルトウ王国は滅亡するという所まで行きました。ですがある日、ザラメさんがフラリとやってきて対処に当たってくれて、一時的に事態は収束しました。」


アルヴィス「本当に、ザラメには感謝してもしきれないよ。」


 アルヴィスがザラメを見て言う。ザラメは照れたのか顔を赤くして頭を掻いた。


ザラメ「アルヴィスはいい子じゃのう」


 ザラメの三白眼に少し母性のようなものが宿る。


フギン「ザラメさん……、プロストさんのことを強く言えないのでは?」


ザラメ「なんじゃと! ハンスとは旧知の仲じゃったし、その息子が困っていれば助けるのは当たり前じゃ!」


 ザラメはフギンの服の胸元を掴んで引いた。


フギン「そこまでムキになって否定しなくても!」


 フギンは拘束から逃れようとジタバタした。




ジーク「一時的な収束とは?」


フギン「その異形を倒せたわけではないということです。奴は今でもどこかの瘴気溜りに卵を産み付けています。観測により、卵が孵化する前兆のようなものは捉えられるので、孵化する前に卵を焼き払っているのが現状です。」


ジーク「話は分かった。倒すべき相手は魔王だけではないかもしれないという事だな。」


フギン「クロマの拘束も必要です。そうだ、勇者召喚の代償についても話しておきましょう。」


サーリア「代償? これまでの話は代償ではなかったのですか?」


フギン「まあ異形がこちらの世界に来てしまうリスクも代償と思えますが、それとは別に、勇者召喚を行うには代償が必要なのです。詳しい条件はクロマしか知らないでしょうが、わかっているのはブルーブラッド、王家に連なるものの命を代償としたらしいという事です。」


サーリア「人の命が代償なのですか?」


フギン「ハンス様にはアルヴィス様しか跡取りがいませんでした。それはアルヴィス様の兄弟姉妹に王妃であるアンナ様が原因不明の死を遂げたからです。サーリア様の境遇も似ているのではありませんか?」


サーリア「……似ています」


フギン「クロマが勇者召喚を勧めて来た時、既に代償は払い終わっているのです。」


サーリア「そんな……、そんな!」


 サーリアの顔が悲しそうに歪む。


フギン「火竜アグリアに魔王、それらもクロマが何かしたために人を襲い始めたのかもしれません。確証はありませんが。クロマは指名手配され、勇者召喚はモルトウでは禁術とされました。このことは他国にも周知されたはずですが、グロツ王は知らなかったか、或いは既にグロツ王国に居たクロマが情報伝達を阻害したか……。」


ジーク「クロマ……」


 ジークの目がメラった。だがすぐにメラメラは消えた。


ザラメ「情報の共有は終わったか? 終わったなら旅の準備をしたいんじゃが。」


フギン「ザラメさん、そろそろ放してもらえませんか。」


ザラメ「おおすまん忘れておった」


フギン「ひどい」


 ザラメの拘束から逃れたフギンは服を正した。


アルヴィス「では魔王やその他色々の事はザラメ達に任せて、サーリア達は城で暫く休むといい」


ジーク「待ってくれ」


アルヴィス「ん?」


ジーク「魔王退治には俺も同行させてもらう、それと、あんたが本当に強いのか確かめたい。」


 ジークはザラメを指差した。


ザラメ「おお、いいぞ、グロツ王国の勇者。ついでにそちらの力も見せてもらおうかのう。」


 ザラメの三白眼がギラリと光った。


 バギン!


 何かをはじいたのか、ジークの目の前に青い魔力の粒子が飛び散る。


ザラメ「ほう」


 それは魔王ジャブアの不可視の盾。


 悪食は食べたものを自らの力にする。ジャブアの肘から先を食べたことにより、ジークは不可視の盾を扱えるようになっていた。


ジーク「これは魔王の防御術の一部だ。あいつは俺の攻撃を全く受け付けなかった。この程度も破れないんじゃ、倒すなんて不可能だ」


ザラメ「相手の力を奪ったというわけじゃな。発展性のある強い力じゃ。それに比べてうちの変態は……。」


 ザラメが心底残念そうな顔でプロストを見た。


プロスト「な、何だザラメ、そんな目で見るな!」


マギィ「あはははは!」


ザラメ「お主がもっと強ければハンスも死なずに済んだじゃろうに……」


プロスト「そ、それを言うか! それを……、それを口にしたら……、戦争だろうがっ!」


マギィ「あはははは!」


 マギィは笑いすぎて目に涙を浮かべている。 ※マギィはプロストの顔が面白くて笑っているだけです


 ザラメはジークに視線を戻した。


ザラメ「ジークと言ったか、安心せい、わしの力は……」



 ギン!


 突然、ザラメの三白眼が見開かれた。


ザラメ「!!!」



 ザラメの視線の先、ジークの後ろ、誰も居ない空間に影が落ちている。だがその影の上に、光を遮るようなものは無い。光の屈折が、そこに居る何かの形を描き出す。それは大きな口のような、何かを包み込む形となり、ジークに向かう。


 ガバッ


ジーク「?」


 ゾゾゾ


 何かに顔を覆われたジークが何かの内側に見たものは、ずらりと並んだ目、目、目。


 グイッ!


 ジークの体が何かの中から引き出される。ジークの腕を掴んで引いたのはザラメであった。


ザラメ「フギン、後を任せる! プロストを見張れ! 好きにさせるでないぞ!」


 ズルパッ


 姿の見えない何かに一気に引き込まれ、その場からザラメの姿が消えた。




 ザラメの消えた王の間を静寂が支配する。




 ハッとしてサーリアがジークへと駆け寄った。


サーリア「ジーク様、大丈夫ですか!?」


ジーク「今のは一体?」


フギン「ザラメさんの様子からして、おそらくプロストさんの召喚後にこちらにきた異形です。これまで姿を現したことなど無かったのに、何故今……」


ジーク「あれが? なんでそんな奴がここに? それに、彼女が言っていたプロストを見張れとは?」


フギン「そ、それはそのう……、プロストさんは少し特殊な嗜好の持ち主でありまして……」


プロスト「皆が僕を「実は敵なのか?」みたいな目で見る!」


マギィ「あはははは!」


アルヴィス「フギン! ザラメは無事なのか!?」


フギン「多分……」



 ガシャガシャガシャ!



 混沌極まる王の間に、一人の兵士が駆けこんでくる。


兵士「緊急の報告です!」


アルヴィス「何だ?」


兵士「王国内の複数の瘴気溜りに孵化間近の卵を確認したとのことです!」


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