異世界における他殺死ガイド66
海上 ー港町ポルトへと向かう船の内部ー
勇者ジークは困惑していた。
何故ならば、目を覚ましたらサーリアとコマキの仲が険悪になっていたからである。
目が覚めたジークがぼーっと部屋を見回したところ、不安そうな顔をしたサーリアがコマキに話しかけていた。
「コマキ、果たしてモルトウ王に救援を出してもらえるでしょうか?私は不安で仕方がありません」
「しらんがな…」
「!」
コマキの言葉にジークは驚愕した。主人、いや、一国の姫に向かってなんという言い草であろうか。迷惑そうな顔をして「知らんがな」とは。 ※コマキは同情しています。
だが驚愕してアワワワとなったジークの心は鎮静魔法に鎮められた。今のジークは常に冷静な男なのだ。この程度で動揺はしない。
「…。」
二人の様子を伺うジーク。コマキのあまりに酷い言動にショックを受けているかと思いきや、サーリアは少しも動揺したように見えない。ジークはサーリアに対して「流石はサーリア」などと思った。
ジークは考える。
サーリアとコマキの間に一体何があったのだろうか?相当に険悪な雰囲気である。だが二人に何かあったのか聞くのは藪蛇だろう。下手に干渉せず、嵐が治まるのを待った方が良い。
ジークは傍観する事を決めた。これはジークの経験からくる処世術である。
しかし、険悪な状態の女性二人と一緒にいるなど、この世に顕現した地獄であろうか。
ジークは早く嵐が去ってくれますようにと、冷静な心で願った。
***
カホト大陸 ‐港町ポルト‐
「城の方には東の町に寄ってから行くことになるが、それでもいいかね?」
「はい、構いません。」
フードに身を包んだサーリアが御者の男と話している。
荷馬車に乗せてもらうように話をつけたサーリアは後ろに待たせていた二人の所に駆け寄った。
「ジーク様、乗せてくれるそうです。」
「ありがとうシラ」
コマキに肩を貸してもらいながらジークが答えた。シラは現在サーリアが名乗っている偽名である。
港町ポルトに着いたジーク達は、モルトウ王国の中心、マスカッシュ城に向けて発とうとしていた。
ジークに肩を貸しているコマキに代わり、城方面に向かう馬車を探し、話をつけたのはサーリアであった。
サーリアはドヤ顔でコマキに話しかけた。
「コマキ、私、ひとりでもできましたよ?」
「…しらんがな!」
「!」
コマキの言葉にジークは驚愕した。一国の姫に向かってなんという言い草であろうか。眉をしかめながら「知らんがな!」とは。 ※コマキは感動しています
だが驚愕してアワワワとなったジークの心は鎮静魔法に鎮められた。今のジークは常に冷静な男なのだ。この程度で動揺はしない。
ジークが様子を伺うが、サーリアは少しも動揺したように見えない。
ジークはサーリアに対して「流石はサーリア」などと思ったが、ものには限度というものがあろう。コマキの言動は越えちゃいけないラインを越えている。
だがジークは傍観者でいることに努めた。触らぬ神に祟りなしである。
***
マスカッシュ城 -医療所-
「コマキ…」
サーリアが心配そうに語り掛ける。それを傍に立ち、見守るジーク。
医療所のベッドに横たわっているのはコマキである。
そこに、初老の男性が入ってくる。
「お嬢さんの調子はどうかね?」
「おかげさまで、落ち着いたようです。」
サーリアが答えた。
「それは良かった。それと、王との謁見の話だが、今日の予定が終わった後なら可能だそうだ。ここに連絡が来ることになっている。その時は私も一緒に行こう。」
「ゴルト様、モルトウ王との謁見の手配までしていただけるなんて、感謝してもしきれません。」
「借りを返したかったのはもちろんだが、グロツ王国から逃れてきた冒険者達の話を聞いたからね。山を吹き飛ばすような存在が城を落としたんだ、我が国にいつその矛先が向くかわからない。協力するのは当たり前のことだよ。」
「ありがとうございます」
ジーク達の乗った荷馬車がカホト大陸の東、アルゲ地方に寄った際、魔物に襲われている集団を見つけた。これをコマキとやや調子の戻ってきたジークが助けた。そうして助けた相手はなんとアルゲ地方を統治するゴルト伯であった。
これ幸いとゴルト伯に救助要請について相談したところ、ゴルト伯はちょうどマスカッシュ城に向かう所だったため、一緒に連れていってもらえることになった。
だが、さあマスカッシュ城に着くぞという所でコマキの調子が悪くなり、まずは医療所に向かう事となったのである。
サーリアがベッドの横に座り、横たわるコマキの顔を見ながら語り掛ける。
「コマキ、城を脱出した時に肺をやられて、ここまで無理をしていたのですね。気づいてあげられずごめんなさい。あなたが居なければ今頃私は…」
「しら…んがな…」
「!」
コマキの言葉にジークは驚愕した。うなされながらも「知らんがな」とは。
だが驚愕してアワワワとなったジークの心は鎮静魔法に鎮められた。今のジークは常に冷静な男なのだ。この程度で動揺はしない。
ジークが様子を伺うが、サーリアに動揺は見えない。
ジークは傍観者でいることに努めた。
人間の精神にはストレス耐久度というものが存在する。長時間のストレスにさらされた精神は病んでしまう。
果たしてジークの精神はいつまでもつだろうか。
***
マスカッシュ城 -王の間-
王の椅子の前にサーリア、ジーク、ゴルト伯が跪いている。
「私の本当の名はサーリア・バランシェ・フォン・グロツと申します。」
「なんと」「それは」「んえ?」 ザワ…
サーリアの正体に、ジークを除きその場にいる全員が驚いた。
「グロツ王国のお姫様?」
「はい」
王座に座り、前に跪くサーリアに話し掛けるのはわずか十歳ほどに見える少年。この少年こそが現在のモルトウを治める王、アルヴィスである。
自分の正体を明かしたサーリアは、その場にいる者に対し、勇者の召喚から魔王襲撃までの顛末について話して聞かせた。
黙ってサーリアの話を最後まで聞いたアルヴィスが話し出す。
「まだ色々聞きたいことはあるけれど、まずは魔王の対処について話そう。」
「アルヴィス様、モルトウ王国にとても強い女性が居るとお聞きしました。」
サーリアはモルトウ王国の火力演習を見学した兵士の言っていたことについて聞いた。
「ああ」
アルヴィスがサーリアから目を外し、横に目をやる。そこには四人の男女が立っている。
「ザラメ、君なら魔王に勝てる?」
「まあ問題ないじゃろう。」
大きくスリットの入ったワンピースを着た三白眼の女性が答えた。
「じゃあザラメ達にお願いしよう。」
「もしや…、この方が?」
「そう、ザラメはとても強いんだよ。いつも頼りにさせてもらっているんだ。」
「そ、そうですか」
サーリアがザラメを見ると、ザラメはギザギザの歯列を剥き出しにして笑顔を見せた。
「次は勇者の召喚についてだね。そっちの人が件の?」
アルヴィスはジークに目をやりながら聞いた。
勇者の召喚に何か問題があったのだろうか?サーリアは首をかしげながら答えた。
「はい、ジーク様は私が召喚しました。」
「勇者の召喚を勧めたのは誰かわかる?」
「お父様が妖術師のクロマと相談して決めたと記憶しています。」
「フギン」
アルヴィスが名前を呼ぶと、ザラメの隣に立つ長身の僧侶風の男が答えた。
「はい、間違いなく奴でしょう。名前も変えずに他国で活動していたとは。」
「あのう…、なにか?」
「その妖術師はこのモルトウ王国を滅亡の危機に陥れた狂人なのです。」
「え」
「そいつの名は、妖術師クロマ・ク・デス」
※黒幕じゃないか!




