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異世界における他殺死ガイド6


 冒険者の町ドーツ。カホト大陸の東、ゴルト伯が統治するアルゲ地方に、その町はあった。


 アルゲ地方には瘴気だまりが多く存在する。瘴気に長く触れた生物は魔物と化し、体の中に魔力の塊である魔石を生成する。強い魔物程、魔石も大きくなる。


 魔石からは魔力を取り出すことが出来、魔力によって動作する魔導器の燃料として使われたり、込められた魔力を解放して使ったり等、魔石には様々な用途がある。


 この魔石を狙って冒険者達は瘴気だまりへと向かい、魔物を退治する。


 魔物は瘴気を好み、力を持つ魔物程、瘴気を独占できる。瘴気だまりに近づけば近づくほど、強力な魔物に遭遇するということであり、大きな魔石を狙いたければ、危険を冒す必要がある。


 その過酷な道程の支えとして出来たのが冒険者の町ドーツである。





 ドーツの街中、冒険者ギルドの建物の前に、馬繋ぎに繋がれた鉄爪狼の姿がある。


 鉄爪狼とは、前足に大きな鉄の爪を持つ、大きな狼の姿をした高ランクの魔物である。生息域はドーツの南、瘴気だまりの存在するスクラの森の奥であり、こんなところに居て良い存在ではない。


 従魔術師という、魔物を従わせる存在は広く認知されているものの、従わせられる魔物は術士の実力に依存し、並の術士では最低ランクの魔物である綿鼠を従えるのがやっとという具合である。


 鉄爪狼程の魔物を従えられる術士など、国が抱える精鋭術士の中にも一人か二人であった。





 人は珍しいものを追わずにはいられない。鉄爪狼の前には遠めに人だかりが出来ていた。


 鉄爪狼は何故か首輪をされている。隷属印を刻まれた魔物は術士の命令に逆らえないため、首輪は必要無いはずである。




「なんでしょうね、あの鉄爪狼」


 人だかりの中、僧衣に身を包んだ高身長の男性が呟く。


「知らん。別に犬コロなぞ、珍しくもあるまい」


 隣に居る女性がやる気無さげに返答する。女性は足に大きくスリットの入ったワンピースを着ている。


 スリットから覗く白い脚はスラッと長く、美しい。


「犬コロって……」


「んん?」


 女性の三白眼がギラつく。


「あの犬コロ、隷属印を刻まれておらんぞ?」


「ええ、それ大変じゃないですか。ザラメさん、ホントにそんなことわかるんですか?」


 ザラメと呼ばれた女性は笑みを浮かべる。剥き出しになった歯列は鮫の歯のように全て尖っている。


「目を見ればわかる。あの魔物、面白そうじゃな。」


「魔物が? 飼い主のほうではなく?」


 僧衣の男が鉄爪狼の方を見ると、頭に羊のような巻角を生やした亜人の女性が、鉄爪狼の首から伸びるロープを、馬繋ぎから外していた。


 顔や防具には土が付き、汚れているが、それをものともしない美貌。やや太目の眉毛は気の強さを伺わせる。妙齢の美人であった。


「僕は飼い主さんの方が気になるなあ」


 僧衣の男は亜人の女性へ向かって歩いていこうとする。


「フギン、おぬし僧侶の癖に、この色ボケが」


「色ボケはひどい」




 その時、人だかりが少し騒いだかと思うと


「く、苦しい!」


 男が胸倉をつかまれ、片手で持ち上げられていた。


 持ち上げているのは筋骨隆々、顔には無数の傷があり、見るからに悪、腹に分厚い鉄の板を装備した男だった。


「俺様の足を踏んでおいて、唯で帰れると思うなよ?」


「す、すみません! 許してくださいぃぃ!」


 人だかりの中、悪そうな男の足を不幸な男が踏んでしまったらしい。




 ザラメが面倒そうに二人の近くへと寄る。


「そこの男、止めんか。そやつも謝っておるだろう、許してやれ」


「ああ? 女が出しゃばるんじゃねえ!」


 悪そうな男はザラメに向かって腕を振るった。


 ガシ


 腕はザラメに届くことなく、空中で固定された。


「おぬし……」


 ザラメの目がギラつく。


「ああ、ザラメさん抑えて抑えて、君、早く謝ったほうが良い。ほら、早く早く」


「あ? どうなってんだこりゃ? 腕が動かねえ……」


 ザラメの三白眼がさらにギラついたかと思うと


 バゴン


「ぐげぇ!?」


 悪そうな男の装備していた分厚い鉄の板が突然凹んだ。悪そうな男が膝をつく。胸倉を掴まれていた男は解放された。


「狭量な男じゃのう」


 ザラメの三白眼が膝をついている男を睨む。


 ボゴ!ボゴォ!


 悪そうな男の周りの地面にも凹みが出来た。


「ひぃぃ!?」




 周りの人だかりの中の一人がザラメを指差して言う。


「その三白眼に美しい脚、モルトウ王国の火力演習で見たことがある、ひょっとしてあんた、人外ザラメか!?」


「ザラメだって!?」


「あまりに強すぎて眼力だけで人を殺すって言う、あのザラメか!?」


「眼力って、物理的な力だっけ?」


「俺は見たぞ、あの女が睨んだだけで地面が凹んだ!」


「眼力って、物理的な力だっけ?」


 フギンが慌ててザラメを人だかりから隠す。



「ああ、ザラメさん、抑えてと言ったのに。騒ぎは面倒ですから逃げましょう」


「手は出しとらんじゃろう。それより、詰まらんことであの犬コロを見失ってしまった」


 鉄爪狼の姿は既に無かった。


 フギンとザラメは人だかりから離れた。




「はあ、やれやれ。それにしてもザラメさん、始めて見ましたが、あれ、どうやっているんです?」


「何がじゃ?」


「見ただけで鉄の板を凹ませていたでしょう? 目にも見えない速さで殴ったりしたんですか?」


「手は出しとらんと言ったじゃろう」


「では?」


「眼力じゃ」


「あれって本当だったんですか!?」


 フギンはこけそうになった。



「そんなことはどうでもいいじゃろう。それよりプロストとマギィはどこへ行った?」


「マギィさんは町に着くなり甘味を求めてどこかへ行き、プロストさんはそれについて行きました。」


「マギィはそればっかりじゃのう。プロストも……まあ良い、宿で待っていれば来るじゃろう。」


 フギンとザラメは宿屋に向かって歩き始めた。









「果汁、果肉、牛乳、砂糖を混ぜて、凍らせて、混ぜて、凍らせて」


 大きなとんがり帽子を被った子供が机に手を向け、何かを作っている。


 子供の手の平からは白い風が吹き出しており、手の平の先にある容器に入った混ぜ物はみるみる凍っていく。


「混ぜて」


 子供はスプーンで容器の中を混ぜる。


「出来た!」


 子供は容器を上に掲げて嬉しそうだ。


 その子供を見つめ、ニコニコしている男が一人。


「プロストにもあげるわ。一緒に食べましょう!」


「いいのかい? ありがとう」


 プロストと呼ばれた男は別の容器に混ぜ物を少量移し取る。


「いただきます」


「いただきます」


 二人はスプーンで混ぜ物を口に運ぶ。


「美味しい」


「美味いわ!」



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