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異世界における他殺死ガイド54

 

 シュゥゥゥゥゥ…


 鉄の箱の中にある壺から瘴気が噴き出している。外の瘴気の元はこれか。


 ガコッ


 俺は壺に蓋をした。瘴気の吹き出しが止まる。これで外の瘴気が風にでも流されてくれれば視界も良くなるだろう。


 やがてだんだんと瘴気が晴れ、村は朝日を浴びていく。



 シャイン シャイン



 俺が残っていたアンデッド達を浄化していると、家に籠っていた村人達が外に出てき始めた。


「グレゴル!あんた、実は凄え司祭だったんだな!」「ああ司祭様、ありがとうごぜえます。」「あなたがいなかったら今頃どうなっていたことか。」


 口々に俺への感謝を伝えてくる。


「私は私にできることをしただけです。相手がアンデッドだけで良かった。」


 謙遜しておく。実際、アンデッド以外が混ざっていたらどうなっていたことか。


 その後、俺は村人たちと協力し、村に残っていたアンデッドを全て浄化した。そして、危機が去ったことが村人全員に周知された。


 村人たちはアンデッドに襲われて壊れた家の応急処置や、村中に落ちているアンデッド達の残骸を大雑把に片すなどした後、村長の家に集まって話し合いを始めたので、俺はそれに混ざることにした。


「ついにこの村にも魔物の集団が…」

「他の村もアンデッドに襲われたんだべか?」

「いんや、森に生息する種類の魔物の集団に襲われたって聞いてたべ。」


 そういえばヘデラ大陸の町や村が魔物に襲われているとか、そんな話をダルトに聞いたな。そしてここはヘデラだったか。


「巡回の兵士がもう何日も来ない。」

「この村は見捨てられたんだべか?」

「巡回に来れる者が居ないんだろうよ。」

「ヌベトシュ城が落ちたって噂ぁ、本当だっただか。」


 城が落ちた?それはまた大事だ。城を落としたのは魔王だろうか。


「この国はもう駄目だべ。」

「どこか別の国に逃げるべきだ。」

「行くなら西か?」

「逃げるなんて、わしにゃあ無理じゃあ。」


 村人たちは村を捨てる気だ。城が落ちたのが本当ならば、他の国に逃げようという思考は当然か。だが住み慣れた村をそう簡単に捨てられはしまい。


 こういう場合、どこかで生まれた勇者が魔王を倒しに行ったりするのだろうか。十六歳になったら城に呼ばれて、ほんの少しのお金を持たされて、魔王討伐に出発させられる。どうかそんな非道が行われたりしないよう願う。ああそうだ、城が落ちたという話だと、〇ーンブルクの兵士が〇ーレシアに危機を伝えて亡くなってしまうとこから始まるな。その場合、魔王退治に行くのは王子か。滅ぼされた城の近くの村の様子はどうだったか。普通に生活していたような…。危機感を持っている村人も一人くらいは居たかな?



 …魔王退治か。



 魔王がどれだけ強力な存在であろうと、俺の能力であれば何とかなるか?


 いや、俺の能力には弱点が多い。ここは魔法の存在する世界である。魔王が人の心を読む力でも持っていたらそれまでだ。俺はどこかに幽閉されて終わりだろう。


 魔王のことをよく知らないし、もしかしたら魔王にも正当性があるかもしれないし、大きな視野で見たら実は一方的な侵略ではなく、種族間の戦争だったりなのかもしれない。


 とにかく、俺の出る幕ではない。それより今の俺はルセスの町の所在を知りたいのだ。


 村人数人にルセスの町について聞いてみたところ、知っている者が居た。ルセスの町は東にある山を越えた先にあるとのことだった。


 俺はアンデッドの体で山を越えたのか。そういえばドクの屋敷周辺には動物も魔物も殆どいないとザンシアが言っていた。周囲に何も居なかったから、動くものを探して山に入ったのか。そのまま歩き続けてこの村まで来たと。



 よし、ならば山越えだ。



 山には魔物が生息しているそうだが、広範囲気配察知があれば避けていける。


 それはもはやハイキング、いや、散歩のようなものだ。


 俺は村を出る準備に取り掛かった。




 ■■■




 ガタゴトガタゴト



 ヌベトシュ城南の村が魔物に襲われているという伝令を受け、救援に向かう馬車の中、ジークとジュレスが対面で座っている。ジュレスの顔には疲れが見える。


「ジュレス、大丈夫か?酷く疲れているように見えるが。」


「大丈夫だ、戦闘に支障はない…。」


 ジュレスは疲れた顔のまま答えた。


「そうか。ならいい。」


 チャラ


 ジークは胸元からペンダントを取り出した。


「…それはなんだ?」


 ジュレスが聞く。


「ああ、サーリアが城を出る前にくれたんだ。」


「サ、サーリア様が。」


 告解室でのことを思い出し、ジュレスはどもった。


「ほら。」


 ジークがペンダントをジュレスに向けて見せた。丸い金属の中に、赤い宝石が輝いている。


「この宝石はシクっていって、幸運を呼ぶといわれているんだそうだ。中々綺麗な石だな。」


「え?」


 ジュレスはそれを聞いて固まった。ジュレスは知っているのだ、その宝石を送る本当の意味を。


 疲れた表情から戦慄した表情になったジュレスだが、ジークは気づかない。


「……。」


 何も言うまい。ジュレスはそう決めた。




 ***




「これはひどい」


 ジーク達はヌベトシュ城南の村に到着した。


「おおおおああああ」「うううああああ」「あー」


 馬車から出たジークとジュレスの目に飛び込んできたのは、村を囲う無数のドノーマンと魔物達。おまけに村の中に瘴気が満ちており、視界が頗る悪い。


 ジュレスの部下の一人が呟いた。


「対応に当たっていたロベール様の隊は…、全滅か?」


 そう判断した理由は、村の中に争っているような気配が無いからだ。


「ううー」「おおおあ」「グウウウ」


 ドノーマン達と魔物が一斉にジーク達一行の方を向く。


「ううっ」


 ジュレスの部下達が身構えると、ドノーマン達の間から、何者かが歩み出る。


「ううう…あああ…」


「ロ、ロベール様…」


 歩み出てきたアンデッドは変わり果てた姿のロベールであった。それを見て、ジーク達はロベール隊の全滅を悟った。


「仇は撃つぞ、ロベール。」


 シュラ


 ジュレスが剣を抜き、ドノーマン達に向けて突撃した。


「はああ!」


 ジュレスがロベールに向け、剣を横に薙いだ。


 ズシュアッ!


 それは闘気か、剣から白く光った刃のようなものが伸び、ロベールを含め、後ろのドノーマン達と魔物をも切り裂いた。


「おおおお…」「グガアア!」「ううー…」


 体を横に真っ二つにされたドノーマン達であったが、上半身のみで動き、呻いている。魔物は死んだ。


「うおお!」「おおお!」


 ドシュ ズバッ


 そこをジュレスの部下達が斬りつけ、首を落とし、無力化させる。



「はあっ!はああっ!」


 ジュレスは剣戟を見舞いながらアンデッドと魔物達の間を駆け抜ける。


 ズシュッ!ズシャアッ!


 ドノーマン達の体に括り付けられている鉄板などなんのその。ジュレスが剣を振るう度、アンデッドと魔物達は切り裂かれ、倒れていく。


 ジュレスの無双状態である。


 なぜこれほどにジュレスが強いのか。それはジュレスがジークの仲間として魔王探しに出向き、行く先々で魔物を倒してレベルアップしたためだ。


 シュバッ ゴファ!


 ジュレスの振るう剣戟の風圧で瘴気が吹き飛ばされる。


 シュバッ ガギィ!


 ジュレスの剣戟が止められた。受け止めたのはギ・ロンであった。その姿を見てジュレスが叫ぶ。


「奇怪な!」


 ズシャア!


 ジュレスはギ・ロンの体を切り裂いた。


「ぐおお!」「ごああ!」


 瘴気の中からヴァイスマンが飛び出した。大きなペンチでジュレスを挟もうと突進する。逆からは何処に居たのか、革袋を被ったアンデッドが掴みかかる。



 カシャ!


 シェイドレザー:

 強化アンデッド。皮製の袋で体を覆っている。歯も爪もないので袋を破ることができず、袋から出られない。カレルの考えた聖光使いへの対策用アンデッド。皮製の袋で遮光することで、聖光によって浄化されることを防いでいる。目も鼻も利かないが、アンデッドの持つ第六感で動くものに向かっていき、捕まえた相手を絞め殺す。



 二体が体を捉える前に、ジュレスは身を低くし、剣戟を振るった。


 ズシャア!


 ゴドッ ドドッ


 ヴァイスマンとシェイドレザーが真っ二つとなり、その場に転がる。



 シュバァッ!



 黒い線がジュレスの横をかすめていった。


 ベキベキッ ドシィ!


 黒い線が通った後にあった木が倒れる。


 ジュレスが黒い線の放たれたであろう方向に目をやると、そこには黒い鞄を背負ったアンデッドが居た。黒い鞄からは管が出ており、アンデッドの腕にある金属製の小手につながっているようである。



 カシャ!


 ウィングオブエンジェル:

 腕に装着された小手から血液を噴射してくる。ウォーターカッターならぬブラッドカッターである。背中には血液の入った容器を背負っている。容器内の血には、固まらないように抗凝固薬が混ぜてある。そんなことするなら水でいいじゃないかと思うのは当然であるが、狂気の(略。



「おおおぉ…」


 ウィングオブエンジェルが小手をジュレスに向けた。


「やらせるか!」


 シュッ! ズバッ!


 一瞬で間を詰めたジュレスの剣はウィングオブエンジェルを切り裂いた。


「!」


 瞬間、何かの気配を察知したジュレスはその場から飛びのいた。



 ズドォ!



 大きな金属製のペンチが先程までジュレスの居た位置の地面にめり込む。ヴァイスマンの体から拝借したペンチを持つのはマドラーである。


「はあっ!」


 シュバッ ガギン!


 あろうことか、マドラーはジュレスの剣戟をペンチで挟んだ。


「ぬうっ!?」


「……。」



 ズル… ボト



 マドラーの首が落ちた。


 首の無くなったマドラーの後ろにはジークが立っていた。


 ジュレスとジークは何も言わずに目を交わし、次の獲物へと向かう。もはや二人は阿吽の呼吸である。


 サーリア様がこれを見たらどう思うのだろうか、ジュレスの部下達はワクワクした。




「おおおああ」「ひぃい」「えああ」「んんんん」


 ジュレスとジークがアンデッドの群れを次々と撃破していく。


「た、助けてくれぇ!」「キャアアアア!」


 村人の生き残りか、声を聴いたジュレスはジークに背中を合わせ、話しかける。


「まだ生きている人がいる。助けるぞ。」


「ああ、わかった。」


 ジークとジュレスはアンデッドや魔物達を切り裂きながら進み、遂にデリバリーペインへと辿り着いた。


「ヴァヴァヴァヴァ」


 バブルヘッドの声が響く。



 カキン ガシャン!



 デリバリーペインの後方にある、まだ開いていなかった檻の左右が開いた。


 ズッ ズサッ


「んおぉぉぉ…」


 ジークとジュレスが檻から出てきた巨体を見上げる。


 その巨大なアンデッドの口は、象の鼻のように長く伸び、シュルシュルと蠢いている。



 カシャ!


 アントイーター:

 強化アンデッド。巨体のアンデッドの口を、他の死体から取ってきた皮で延長し、蟻喰いの様な形にしている。古文書から得られた尊い言葉に従って作成された。『地上最強の動物は蟻喰いだ。人間よりも強い動物といえば、肉食獣だ。だが、その肉食獣も、大きな体を持つ草食獣を恐れる。大きな足で踏まれでもしたら死んでしまうからだ。ところが、その大きな草食獣も、蟻の大群にやられてしまう。蟻の群れは、自分の十億倍も重さのある相手を殺してしまうんだ。だが蟻喰いは、そんな蟻を、まとめて食ってしまう。つまり、蟻喰いこそが、地上最強の動物なのだよチミィ!』





 ズバァ!



「んおぉ…」



 アントイーターはジュレスの剣の一撃で沈んだ。



「キャキャキャキャ」「ヴァヴァヴァヴァ」



 馬のようなものに乗り、デリバリーペインから離れていく影が二つ。バルブヘッドとナイチンガールである。ジュレス達がアントイーターに気を取られているうちに、逃げ出したのだ。



 カシャ!


 ジムナスチックス:

 強化アンデッド。無数のアンデッド達が縫い合わされ、四足歩行の動物のような姿となっている。馬代わりにされている。



 ドドドド


 ジムナスチックスが見た目に合わない速さで遠ざかっていく。


「逃がすか!」


 ジュレスがジムナスチックスを追おうとする。


「誰かああ!」


 だがバルブヘッド達が逃げた後、残されたアンデッドに今にも襲われそうになっている人が見えた。


「くっ!」


 ジークとジュレスは人助けを優先した。



 ***



「ありがとうございます騎士様。」


 ジュレスの部下達が僅かに生き残った村人達を介抱している。


 ジークがジュレスへと話しかけた。


「死舞の谷で見たアンデッドの使い道はこれか。」


「そのようだ。しかし、鍛えられた我が国の兵士がアンデッドに倒されるとは…。」


 ジュレスがロベールの隊の兵士だったであろう男の死体を見て言った。


「対策として聖光使いを集めさせてはいるが、あまり進んでいない。暫くは我々で対応するしかないだろうな。」


 ジュレスはため息をついた。そこに馬のひづめの音が響く。


 ドカラッドカラッ


「ジュレス様!」


 馬に乗ってやってきたのは城の伝令であった。


「なんだ?なにかあったのか?」


「今すぐに城へお戻りください!城が魔物の群れに襲われています!」


 ジュレスとジークは顔を見合わせた。


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