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異世界における他殺死ガイド46

 

「死んでるって…、何かの冗談かい?」


「いいえ。」


 ハジメに飲料水を部屋に持ってきて欲しいと頼まれたザンシアは、守護者二号を操り、ハジメの部屋に向かわせた。そして、守護者二号の目を通して部屋で血を流して倒れているハジメを発見した。ザンシアは、呼吸時の胸の上下が無い、呼びかけに応答しない、光を当てても瞳孔が変化しないといったことから、死んでいると判断したそうだ。


 まさかの殺人事件発生である。


 どうする?自殺?他殺?死因の確認?屋敷のみんなを集める?自動人形の遠隔操作は秘密?ウーラを隠す?


 考えがまとまらない。


「お父様。ハジメさんの部屋に行きましょう。」


「そ、そうだな。ザンシア、私を彼の部屋に連れて行ってくれ。」


「わかりました。」


 ハジメの部屋は屋敷の二階にあり、ドクの自室は一階である。階段をどうするのかと思っていると、ザンシアは車椅子ごと俺を持ち上げ、階段を上っていく。凄い力だ。


 ハジメの部屋に入る。結構広い。簡易なベッドに机。部屋の真ん中でうつ伏せに倒れているハジメが見えた。守護者二号は扉の横に立っていた。


 ハジメの体の下に血溜まりが出来ている。まったく動かないし、どう見ても死んでいる。


 この世界には魔法が存在する。体を仮死状態にする魔法があってもおかしくは無い。だからこれが教え子達の悪戯である可能性は捨てきれない。悪戯であって欲しい。脈の確認をしたいが、俺の体では無理だ。


「ザンシア、人を呼んでくれ。」


「わかりました。」


 扉の近くへと移動し、ザンシアが大きな声で人を呼ぶ。


「誰か!誰か来てください!」


 ガチャ ガチャ


「んー?」「なにかあった?」


 二階にある部屋の扉が開き、数人が顔を出したので、俺は呼びかける。


「部屋でハジメが倒れているんだ。皆来てくれ。」


「なんだって?」「ハジメが?」


 異変に気づき、ハジメの部屋の前に人が集まり出した。


「…ハジメ?」


 ゴーは倒れているハジメを確認すると、顔を険しくし、こちらを、ザンシアを見た。なんだ?


「ちょっとどいて。」


 ゴーはハジメへと駆け寄り、体に触ろうとした。


「待って!」


 大きな声に、ゴーの体が止まる。大きな声の主はシィナだった。


「死体にも、部屋のものにも触れないで。」


 ゴーはハジメの横で片膝をついているが、まだハジメの体に触れてはいない。シィナはハジメの所に歩いていき、しゃがみこんでハジメの体に手をかざした。


「状態確認」


 ポゥっとシィナの手が光る。


「…死んでるわ。」


「今のは?」


「私は生物の状態を確認する魔法が使えるの。彼は間違いなく死んでいる。」


「見れば分かるよ。」


 彼女の言うことが本当であれば、これは悪戯では無いということだ。それと、その状態確認魔法をウーラに使われたらまずい。俺に使われた場合もまずいかもしれない。


「し、死んでるの?」「う、オエエッ」


 誰かが吐いた。


「死因はこの傷ね。心臓を鋭いもので刺されたみたい。凶器は見当たらないわね。状況から見て他殺でしょう。」


 ハジメの背中、中央辺りに血が滲んでいる。服も裂けているようだ。


 しかし、シィナとゴーのこの落ち着きようはどうだ。二人ともこういうことに慣れているのだろうか?


「何か持ってる。」


 ゴーがハジメの手を指差す。見ればハジメの手には紙片が握られていた。


 カサ


 シィナはハジメの手を開き、紙片を取った。


「文字が書いてあるわ。」


「なんて書いてあるんだ?」


「一人目。って書いてある。」


 紙片は犯人が持たせたのか?一人目、ということは二人目以降があるということだろうか。


「死体の第一発見者は誰?」


「ザンシアだ。」


「ザンシアさんですか。死体に誰か触りましたか?何か怪しいものとか見ました?発見時の状況は…っと、その前にドクさん、屋敷に居る全員を集めてもらっても良いですか?ハジメさんが殺されたことを伝えなくては。」


「ちょっと待った、何であんたが仕切ってるんだ。」


 部屋の外に立っていたキエルがシィナに意見した。


「私は自警団ですし、状態確認の魔法も使えます。適任じゃないですか?」


「あんたがハジメを殺した犯人かもしれないし、状態確認の魔法も、他人からは本当のことを言っているかどうか確認できない。」


「状態確認の魔法なら私も使える。」


 低い声でみんなの視線を集めたのはゲッコーであった。


「あなた…は…。」


 シィナはゲッコーを見て眉をしかめた。


「私はゲッコー。行商人だ。雨宿りをさせてもらっている。」


 ゲッコーは今は帽子をかぶっていない。その四角い顔の額や顎に傷がある。行商人と言うのも楽な仕事ではないようだ。


 ゲッコーはハジメの元へ歩いていき、シィナと同じように手をかざした。


「状態確認」


 ポゥっとゲッコーの手が光る。


「…心臓を刺されている。俺もこれは他殺だと思う。」


「それ、彼女の言ったことまんまじゃないか。」


「彼女はまだ状態の詳細は言っていない。詳細を別々に誰かに伝えて、その内容が一致していれば本当だと確認できるだろう。とにかく、他殺の可能性がある以上、仕切る人が居ないと皆疑心暗鬼になって混乱する。」


「別に彼女が仕切ることは無いじゃないか。」


「今は全員が容疑者なんだから、誰がやっても同じだろう。私は彼女が仕切っても良いと思う。」


「ぐう…。」



 そんなこんなでシィナが仕切ることとなり、ハジメの体及び部屋の調査が行なわれたが、犯人を示す証拠は出てこなかった。その後、ハジメの部屋はハジメの死体を残したまま施錠され、屋敷に居る全員が食堂に集められた。ウーラもだ。ただし、ウーラのことは接触感染する病気だ何たらと説明し、人を遠ざけさせた。


「これで全員ですか?」


「ああ。」


「皆さん、もうご存知かも知れませんが、落ち着いて聞いてください。ハジメさんが殺されました。おそらく他殺です。」


 ザワつきはしない。皆既に知っていたようだ。


「ハジメさんの手にこんなものが握られていました。」


 シィナは紙片を皆に見せた。


「一人目。と書いてあります。犯人からの伝言でしょう。つまり、犯人は二人目以降を殺す予定であると伝えています。」


 ザワ


「そこで皆さんにお願いがあります。今からできるだけこの食堂で全員で過ごしてもらいます。そして、私が一人づつ話を聞き、犯人を見つけ出します。」


「全員で一緒に居るなんて、俺は嫌だね。」


 キエルだ。


「他殺って事はこの中に犯人が居る可能性が高いんだろ?」


「それは…、そうです。」


「なら、犯人かもしれない連中と一緒に居るのなんてごめんだね。俺は部屋に帰らせてもらう。」



 …ん?



 しまった。先に死亡フラグを立てられた。状況に流されて思いつかなかった。これは誰かに殺される絶好の機会では無いか。今から俺も部屋に篭るとか言ったら駄目かな…。駄目なんだろうな。他の、他の死亡フラグを立てるんだ。何か無いか。ええと…。


「待ってください。部屋に戻ってもいいですから、せめて二人で居てください。」


「じゃあ私が一緒に居るわ。」


 シスが名乗り出た。


「お願いします。」


 キエルとシスが食堂を出て行った。


 残ったもので色々な話し合いが行なわれた。


「一人ずつ話を聞いて、それで犯人がわからなかったらどうする?」

「一晩中食堂に居るなど無理だ。その内体調を崩す者が出るだろう。」

「全員でルセスに向かえば良い。犯人探しはその後で。」

「その場合、先生はどうするの?」

「屋敷に残ってもらう?」

「誰か人をつけるとして、それが犯人で無い保証は無い。」

「ルセスに人を呼びに行く組と、屋敷に残る組で分かれましょう。」

「外は嵐だぞ。強行するにしても朝が来ないと。」

「犯行時間が短すぎる。皆が食堂から戻ってすぐだぞ。」

「俺達のほかに犯人が居る可能性は?」

「この窮地を脱したら結婚するんだ。」

「誰とですかお父様。」

 :


 結局、一人ずつ話を聞いた後、それぞれ二人以上の組になって部屋に戻り、休むことになった。


 ザンシアには既に、遠隔操作や業魔核、その他の秘密事項を他人に知られないようにしろと命令してある。ウーラにも、ドクの知人の子供で、病気の治療で屋敷に居るという設定を貫くように伝えてあるが、ボロが出たらその時だ。


 既に人が死んでいて、犯人を見つけなくてはさらに犠牲者が出るかも知れないのだ。犯人探しの邪魔になってはいけない。それでカエラやウーラのことがバレて、俺が牢屋行きになって死んだとしても仕方が無い。




 食堂の隅に囲いを作り、そこでシィナが話を聞く。声が聞こえないよう、話をする者以外はそこから離れたところに集められた。


「ドクさん。」


 最初は俺の番だ。


 カラカラカラ


 車椅子を自分で動かし、シィナのところへ移動した。それにしても色々と仕切ってくれてありがたい。指示に穴はあるかもしれないが、俺ではもっとグダグダだっただろう。


「シィナさん、こういうことに経験があるのかい?」


「ありません。」


 無いのか。


「ですが、こういう物語を読むのが好きでして。」


 この世界にも推理物の物語があるのか。そういえば虫眼鏡なんて持っていたな。この世界では初めて見た。自作なのだろうか?


「ではドクさん、死体発見時の状況をお願いします。」

「ザンシアがハジメの様子がおかしいと言うので、部屋に連れて行ってもらったんだ。そこでハジメが倒れているのを見た。」

「それで?」

「血溜まりも見えたし、呼吸していないように見えた。だからすぐに人を呼んだよ。」

「ザンシアさんは何故、すぐに人を呼ばずあなたに連絡したんでしょうか?」

「彼らの悪戯だと思ったのでは?最初は私もそう思ったよ。」

「彼ら…、ハジメさん達との関係は?」

「魔法学院の教え子だよ。」

「ハジメさんはそこで何を学んでいたのでしょう?」

「申し訳ないが覚えていない。歳のせいか色々と記憶が曖昧だと言う話はしたと思うが。」

「それ本当ですか?記憶が曖昧なほど耄碌した方が、こんなにはっきり受け答えできるとは思えないのですが…。自分に都合の悪いことだけを忘れたと言っていませんか?」

「今日はなんだか体調がいいみたいだ。」

「そうなんですか?」

「このまま体調が良い日が続いて、もし歩けるようになったら、海を見に行きたい。」

「叶うといいですね。」

「どうかな。果たして皆、明日の日が拝めるかな?」

「止めてください縁起でもない。」

「この件が片付いたら一杯どうだね?」

「私は下戸でして。」

「今日は子供の誕生日なんだよ。」

「え、ザンシアさんの?」

「少し疲れたな。…眠らせてくれ。」

「だ、駄目ですよ…。」

 :


 質問は続き、疲れてきた頃、俺はやっと解放された。色々フラグっぽい事を言ってみたが、他殺パターンじゃないのもあったかもしれない。失敗した。


 シィナからの質問に殆ど忘れたと答えた気がする。彼女は怒り気味だったが、本当に記憶に無いのだから仕方が無い。他の人の証言から犯人が割り出せることを願う。



 ***



 ザンシアとウーラの番も終わった。どんな話をしたのか気になる。


 ザンシアが疲労している俺を気遣ってくれ、俺、ザンシア、ウーラの三人は自室に戻ることになった。


 部屋に着き、一息つく。…眠い。寝ている場合では無いのかもしれないが、この体と俺のオムツ、もとい、おつむでは出来ることなど無い。ドクの記憶がしっかり残っていれば違ったかもしれないが。


 でも一応推理してみようか。一番怪しいのは誰か?


 キエルとシスは?動機に心当たりは無い。


 残った教え子のヨニとゴーは?実は仲が悪かったとか?


 行商人のゲッコーは?実は殺人鬼だったり?


 自警団のシィナは?動機はなさそうだ。


 ウーラは?部屋で食事を取っていたようだし、動機は…、ドクが母の仇である事に気づいており、ドクの知り合いを殺していくつもりとか…?これ以上は考えたくない。


 ザンシアは?俺とだいたい一緒にいたけど、遠隔で自動人形を操ればいつでも人を殺せる。動機は無いと思うが。


 念のためザンシアには不殺を命令しておくか。過去にドクが下した命令と重複していたとしても、特に問題ないだろう。


「ザンシア。」


「はい。お父様。」


「人を殺めてはいけない。これは命令だ。」


「わかりました。」


 これで万一、ありえないと思うが、ザンシアが犯人だった場合、二人目の犠牲者は出ないだろう。







 俺もウーラも寝巻きに着替えた。ウーラは既にベッドだ。俺もザンシアにベッドへ寝かせてもらった。


「今夜は私もお父様の部屋で休みますね。」


「ん?ああ、そうだね。」


「着替えてきます。」


 そう言うとザンシアは部屋を出て行った。ザンシアの部屋はドクの自室の前にある。




 コンコン


 ノックの音だ。


「入っていいよ。」


 ガチャ


 入ってきたのはいつものゴス風の服ではなく、寝巻き、いや、ネグリジェ姿のザンシアだった。


 ザンシアはそのまま近づいてきて、俺の寝ているベッドに腰掛けた。


 ザンシアの動力は業魔核から供給されている。それは無限ではないものの、人間の寿命から考えれば、半永久的な動力と言って良い。とんでもない代物だが、ドクはそれを世間に隠している。そうしなければ業魔核を巡って戦争が起きるからだ。


 という訳でザンシアには補給が必要無い。また、特殊な魔石を体中に埋め込んであり、それによる自動修復のおかげで休息も、実は定期点検も必要無いのである。それなのに定期点検を行なっているのは、ドクの趣味だ。


 ザンシアが休息が必要ないのに休むのは、人間らしさの維持のために必要だからだ。休むといっても眠るわけではなく、じっとしているだけだが。


「お父様、どうぞおやすみになってください。」


 ベッドに座ったままザンシアは俺に就寝を促す。ザンシアは俺をジッと見ている。そんなに見つめられていては気になって寝ることが出来ない。


 …それよりもネグリジェが気になる。何故そんなものが存在するのか。いやわかっている。ドクの趣味だ。


 ザンシアの着ているネグリジェは白い。就寝時間だからなのか、ザンシアは眼鏡を外している。そして白い手袋に白いスリッパ。昼は黒い服に白い肌、白黒の印象だった彼女が今は真っ白である。長袖のワンピースで、レースのようで、若干透けている気がする。気がするだけかもしれない。


 そしてザンシアは下着を着けている。だがその下には特に摩擦などから守るべき物は無い。無いのだ。


 だが彼女は下着を着ける。何故って、問答など無用。人は隠れて見えないものにこそ、惹きつけられるからだ。つまりドクの趣味だ。


 そういうこととは別に、ザンシアにとっての隠すべきもの、それは人間でないことを視覚的にはっきりと認識させてしまう、球体間接である。


 ベッドに座ったザンシアが体を捻り、部屋を見回す。ネグリジェが引っ張られ、普段は隠れて見えない膝の球体関節がチラリ、チラリ。実に…、実に…。


 いかん。つい先ほど教え子が誰かに殺されたばかりだというのに、不謹慎だ。俺は反省した。


 ところで思い出したことがある。


 俺は既に紳士では無かった。


「ザンシア、一晩中ずっと座っているつもりかい?」


「…そうですね。」


 シュ


 ザンシアはスリッパを脱ぎ、ベッドの上に体育座りした。


 ハッ!な、何たることか。足首の球体間接が丸見えである。


 脚と足の間にあるその球体は、美麗な脚線美を若干破壊しつつも、新たに妖艶な曲線美を作り出す。


 マーヴェラス!


 ゴクリ。




「ぎゃああああ!」




 叫び声が聞こえた。


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