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異世界における他殺死ガイド43

 

「お父様、あーん。」


「あ、あーん。」


 ザンシアがスプーンでシチューを口に運んでくれる。


 パクモグゴクリ


 今、俺は自室で昼食を取っている。


 ウーラは自分の食料確保のため、屋敷の外へと守護者三号に連れられていった。ザンシアの様子から、凄く厳しくされてたりしないか心配だ。


「ザンシア、ウーラの様子はどうだい?」


 ザンシアは業魔核で守護者三号を遠隔操作している。守護者三号の目が捉えたものは、ザンシアにも見えるのだ。


「外に出られたことが嬉しいようです。興味深そうにキョロキョロしています。」


「そうか、それは良かった。ウーラが一人でも生きていけるように、狩りの仕方を教え込んでやって欲しい。」


「承知しています。任せてください。」


 さて、次は自分の事だ。ドクの体は老衰でいつ死んでもおかしくない。誰かに殺される方法を考える必要がある。


 ザンシアが何かの作業中、もしくはザンシアに部屋でじっとしているように命令し、屋敷の外に出て獣にでも襲われるのが手っ取り早いか。ここは森の奥だし、屋敷周辺にも獣や魔物は居るだろう。


「ザンシア、この屋敷の周辺にはどんな獣や魔物が居たかな?」


「周辺の危険な生物は定期的に退治していますので、その影響か周りには獣も魔物も殆ど居ません。たまに玄冬鴉が遠くから屋敷の様子を伺っているようですが、何もしてきません。」


「そ、そうか…。ん?じゃあウーラは結構遠くまで行ったのか?」


「そうですね。ですが心配は要りません。守護者三号を通して私が立派な狩人にして見せます。」


 ザンシアが拳を握る。


「あ、うん。」


 屋敷の近くで獣に襲われるのは難しいか。


 他には…、キエルかシスに殺される?あの二人はドクのお金目当てだが、殺されるほどの悪いことをしたわけでは無いし、却下だ。教え子三人も、隠居したドクの身を心配して遊びに来てくれているのだろうし、却下だ。


 当然、ウーラに殺されるのも駄目だ。ドクはウーラにとって仇だが、殺されてやるわけにはいかない。ウーラは鳥の魔物に合成された人間が自分の母親だとは気づいていない。これについてもウーラに気づかれないように注意しなくては。


 考えて見ると、あてに出来そうなのは玄冬鴉とか言う大きな鴉の魔物だけか?そいつも様子を伺うだけで何もしてこないらしいし…。


 …あれ、そうすると、結構詰んでないか?


「お父様。」


 ザンシアが話しかけてきた。


「ん、なんだい?」


「訪ね人のようです。」


「訪ね人?どこに?」


「玄関で待っていただいています。」


「ああ…。」


 ザンシアは屋敷に何体か置いてある自動人形の内の一体を遠隔操作して、屋敷に訪ねてきた人の対応をしているようだ。現在ウーラについて狩りを教えている守護者三号も、同時に操っているのだろう。複数同時操作という訳だ。


「シィナという女性の方で、お父様に面会を求めていますが、どうしましょうか?」


 シィナ?誰だ?


「帰っていただきますか?」


 状況が詰みかけの今、面倒事は歓迎だ。俺はナプキンで口を拭いた。


「いや、会おう。ザンシア、私を玄関へ連れて行っておくれ。」


「わかりました。」


 カラカラカラ


 ザンシアは車椅子を押し、俺を屋敷の玄関まで運んでくれた。


 玄関の戸が開けられると、そこには黒い鎧の置物のような自動人形が佇んでいた。屋敷の守護用自動人形、守護者四号だ。


 その守護者四号の顔が向く先には女性の姿があった。コートの上にケープ、画家が被るような帽子。この世界ではあまり見ない、変な格好だ。


 ウィィン ガシュンガシュンガシュン


 守護者四号が動き出し、脇へ退いてくれた。それを見て女性は眉をひそめている。自動人形での応対が気に障ったのだろうか?


 車椅子を動かし、俺は女性に対面した。まずは挨拶だ。


「こんにちは。」


「こんにちは。あなたがドクさん?」


「ええ。私がドクです。」


「始めまして、私はシィナ。ルセスの町の自警団をしています。」


 ルセスは確か、この屋敷から一番近い町の名だったか。その町の自警団がこの屋敷に何の用だ?


「私に何か用ですか?」


「人を探しているのです。カエラという女性を知りませんか?」


 カエラ?誰だ?知らない名前だ。


「うーん…、知りませんね。」


「何年か前からこちらで住み込みの召使をしていたはずですが、本当に御存知ない?」


 ジワリ


 冷や汗が噴き出した。


 カエラはおそらくドクが魔物と合成した女性、ウーラの母親だ。


 カエラの知り合いが捜索願でも出したのだろう。それを受けた町の自警団がカエラの足取りを調査し、ドクの屋敷を突き止めて、ついにやってきたのだ。


 ドクのしたことがバレたら、俺はその罪に問われ、自警団の手で死刑に処されるだろうか。その場合、刑の執行人が死んでしまう。


 シィナに対して、カエラ及びウーラのことは隠す。良心が痛むが、仕方がない。


「シィナさん、申し訳ないのですが、私は最近歳のせいか色々と記憶が曖昧で、お手洗いの場所も忘れてしまう始末でして。過去にその方を召使として雇っていたかもしれませんが、ここを辞めて郷に帰ったのではないでしょうか?今この屋敷では召使いを雇っていません。」


「…後ろの方は?」


 シィナは俺の後ろで控えているザンシアを人間の召使いだと思ったようだ。


「私の娘です。」


「娘?あなたの?本当に?」


 シィナは俺とザンシアの顔を交互に見ている。人間だと勘違いしたままザンシアを見れば、人間離れした美人なのだし、その反応も無理は無い。だがこれは使える流れだ。シィナの言動に怒ったことにして彼女を追い返すのだ。ちょっと無理がある気はするが。


 俺は出来るだけ不機嫌そうな顔をする。


「私の娘には見えないと?不愉快だな。お帰り願おう。」


「ああ、スミマセン。そういうつもりでは…。」


「ではどういうつもりだと?」


「む、娘さんがあまりに美人だったので、驚いてしまって…。」


「娘の顔と私の顔を交互に見たのは?」


「う、そのう…、何故でしょうね?」


 シィナは頭を掻いて誤魔化した。


「帰りたまえ。」


 カラカラカラ


 ザンシアは車椅子を引き、俺を扉の中に入れ、扉を閉めた。


「ああ!ドクさん、待って!」


 ドンドン


 シィナが扉を叩いている。


「静かにさせましょうか?」


 キリキリキリ…


 ザンシアの体から何かの音がする。


「い、いや、止めなさい。放っておけば帰るだろう。」


「わかりました。」


 俺は自室に戻って昼食の続きを取ることにした。




 ***




 俺が昼食を食べ終えると、ザンシアは夕食の準備をすると言って出て行った。夕食の準備は遠隔操作では出来ないのだろうか?ザンシアには常に俺の傍に居て欲しい。


 何故かって、もうオムツの取り換えは嫌だからだ。俺が催した時、傍に居て欲しいのだ。お手洗いまで運んでもらいたいのだ。


 窓から庭を眺め、そんなことを考えていた時、それは起こった。



 ズモモ



 突然の便意。


「はぅっ!」


 これは、大きい方だ。ついにこの時が来てしまった。ザンシアが傍に居ない、このタイミングの悪さ。


 だがまだ間に合う。漏らす前にザンシアを呼ぶのだ。


「ザ、ザン…シア…」


 よ、呼べたぞ。か細い声だったが、これでもザンシアには届いたはずだ。早く、早く来てくれザンシア。そして、俺をお手洗いまで運んでくれ。



 …お手洗いまで運んでもらった後、俺はどうする気だ?


 自分でズボンも満足に下ろせないのに?



 ズボンもオムツも脱がしてもらって、体を支えられながら用を足すのか?


 その姿を想像してしまい、絶望が俺を包みだす。


 それならまだオムツに出してしまった方が…。



 ズモモモモ



「ふぐあああっ!」


 激しい便意。


 括約筋だ。括約筋を締めるんだ。ぬおおお。俺のアレは最早決壊寸前である。


 どうしたんだザンシア、何故直ぐに来てくれない?


 仕方が無い。これはもう緊急事態なのだ。緊急用の呼び出し装置を使うべき案件である。何せ大なのだ。小ではない。大なのだ。


 俺は懐から緊急用呼び出し装置を取り出そうとした。しかし、


 ポト


 焦っていたためか、手が滑り、緊急用呼び出し装置を床に落としてしまった。


 なんてことだ。だがまだ諦めるには早い。


 俺は床に落ちた装置に向かって手を伸ばす。だがそれが良くなかった。


 屈んだことでお腹が圧迫されてしまったのだ。


「あ。」


 ※以下自主規制


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