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異世界における他殺死ガイド42

 

「しくしく…」


 ザンシアにオムツ交換されてしまった俺は泣いていた。


 俺も赤ちゃんの頃はオムツ交換されていたはずだが、物心付く前の事なので、その記憶は無い。つまりはこれが記憶に残る初めてのオムツ交換体験である。


 情けないやら、悔しいやら、何故か深い安心感に包まれるやら、ザンシアが専用の手袋や前掛けをしていて、仕方が無い事だと思いつつも傷つくやら、色々な感情が俺を襲う。


「…うぅ…。」


「お父様、遠慮なく泣いて下さい。」


 ザンシアが俺の頭を抱きしめる。いや、そこまでしてもらわなくても、と一旦思いつつ、これはそれほどの大事だったかと認識し直してしまい、再び涙が溢れる。やめて。


「あうあうあう…。」


 ナデナデ


 ザンシアが俺の頭を撫でる。ああ、なんだか脳内麻薬的なアレが出てる。安心感が凄い。


 すぐに俺は泣き止んだ。


「…ありがとうザンシア、もう大丈夫。」


「良かった。少し外を眺められますか?」


 ザンシアは俺の頭を抱きしめるのを止めると、俺を車椅子へと座らせ、窓のカーテンを開けた。


 屋敷の庭が見える。中央に大きな木が生えている。他にも背の低い木が植えてあり、花壇もある。俺が落ちたのはどの辺りだろうか?探して見るが、庭に荒れている箇所は無い。既にザンシアが修復したのだろう。


 ふと庭の隅の方を見ると、柵で囲まれた部分がある。中には何も植えられていないようだ。


「あれは…?」


「ハジメさんですね。どこかの谷の特殊な土をあそこに運び込んで実験しているようです。」


「ハジメ?誰だいそれは?」


「…お父様の教え子のハジメさんです。」


 いかん。記憶にない。ドクはハジメのことを忘れている。そして、ザンシアはドクの酷い物忘れを当たり前に受け入れている。ドクの痴呆は深刻だ。ドクがこんな人里離れた屋敷で生きていけているのは、ザンシアの支え方が素晴らしいのだろうか。


「ザ、ザンシア、今この屋敷に居るのは誰々だったかな…?」


「お父様と私、合成魔獣を除けば、お父様の甥のキエルさん、姪のシスさん。以上です。」


「じゃあ、ハジメは今どこに…?」


「お父様の教え子のハジメさん、ヨニさん、ゴーさんは、たまにこの屋敷へ遊びに来てくださるのです。皆さん、また来るとおっしゃっていましたので、その内遭えますよ。その時はまた、何日か泊まっていかれると思います。」


「あ、ああ、そうだったね…。」


 いや別に遭いたくは無い。とりあえず近いうち、この屋敷に三人が泊まりに来るかもしれないということだ。ううむ、キエルとシスを合わせて五人。そんなに人が居たらウーラのことを隠し通せるか自信が無い。


 三人には悪いが、来たら何か理由をつけて帰ってもらうことにしよう。ついでにキエルとシスにも出て行ってもらおう。あの二人はお金目当てなのだから、出て行かせることに躊躇は無い。


 それよりも今はウーラのことだ。


「そうだ、ザンシア、ウーラにこの部屋の掃除をさせたいんだが、掃除用具はどこにあったかな?」


「…お父様、今なんと?」


 ザンシアの様子が少し変わった気がする。


「うん?ウーラにこの部屋の掃除をさせたいから掃除用具をと…。」


 キュイッ キュイィ


 ザンシアのくりっとした大きな目が見開かれている。


「…お父様、私の掃除ではご不満ですか?」


 キロッ


 ザンシアの目が動く。カーテンの外のウーラを見ているのか?


 いかん。俺は今、地雷を踏みかけている気がする。


「い、いや間違えた、この部屋の掃除はザンシアの仕事だな。」


「はい。」


 ザンシアが笑顔になった。怖い。


「し、しかしザンシア、その…、ウーラに何か仕事をさせてやりたいんだが、何かあるかな?」


「自分の眼球のガラス体液中の浮遊物でも数えたら良いのでは無いでしょうか。私には出来ませんので。」


 それはあれか、目を細めて明るい所を見るといくつも見える小さな丸いやつか。ザンシアの目はガラス体液とか入ってなさそうだし、確かに出来ない気がする。


 いやいや、なんだこれは。俺がウーラをかまったことに怒っているのか?まさか、嫉妬の再現だというのか?ドク、あんた一体…


「お父様、冗談です。」


「ハッ!ああ、うん。…うん?」


 今、俺はどんな顔をしていただろうか?


 ザンシアは冗談も言える。いや、本音を冗談といって誤魔化した?そんなことが出来たら最早…。


「予備食料の調達係りはどうでしょうか?」


「あ…、ああ、そうしよう…。」


 この屋敷の食料は一番近い町から人にお金を払って配達してもらっている。現状食料は足りているが、何かあれば配達が滞ることもあるかもしれない。当然予備の食料も既にあるのだが、予備の予備があっても良いだろう。


 そもそもウーラには独り立ちのために、魔物を狩る練習をさせる予定だったのだ。問題ない。


 ところで、独り立ちのために魔物を狩らせるという発想が出てくるのは、俺がそうしてこの世界を生き抜いたからである。それ以外に、合成魔獣であるウーラに対して、この世界での生き方を教えられる気がしない。


「狩りの仕方の教育には守護者三号を使いましょう。」


「ああ、それがいいね。」


 守護者三号とは、ドクの作成した自動人形であり、普段は屋敷の守備を担当している。ザンシアのような人に似せた見た目ではなく、鎧の置物のような見た目である。制御装置は業魔核では無く、簡単な命令しかこなせない。だが、ザンシアは業魔核から守護者三号を遠隔操作することが出来る。この機能を使ってザンシアは屋敷に居ながらウーラに狩りを教えるつもりなのだ。


 これはどうやらドクも覚えていることだったようだ。遠隔操作とか、凄い技術だと思うのだが、この世界でそれが普及していないのはコストの問題だろうか?それともドクが作り方を公開していないのか?


「では食事の後、合成魔獣を狩りの練習に行かせましょう。」


 行動が早い。しかし…


「ザンシア、あの子のことは合成魔獣ではなくウーラと呼ぶようにお願いしたいんだが。」


「嫌です。」


 否定された。


「な、何故?」


「理由は秘匿します。」


 理由も言いたく無いようだ。命令に背いたり、その理由を秘密にしたり、それでいいのかドク。それがいいのかドク。


 いや待て、お願いは断ることができるのかもしれない。命令ならどうだろう?


「ザンシア、あの子のことは合成魔獣ではなくウーラと呼びなさい。」


「…わかりました。」


 少し間があったが、命令なら逆らうことができないようだ。


 先刻の秘密についても、命令すれば教えてくれるだろう。しかし、それをしたらザンシアは拗ねてしまうかもしれない。


 流石のドクも拗ねる行動までは持たせていないだろうか…?


 試したりはしないぞ。俺は紳士なんだ。


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