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異世界における他殺死ガイド41

 

 部屋に飛び込んできたザンシアは、緊急呼び出し装置を片手にポカンとしている俺を見るなり直ぐ傍に寄ってきた。


「何事ですか!」


 手に持った包丁が怖い。


「す、すまないザンシア、この装置が緊急用だということを忘れていたんだ。」


 それを聞くなりザンシアはホッとした顔になり、目の殺戮の赤色が、普段の青色へと変わっていく。


「ああ、大事でなくて良かった。」


 ザンシアは胸を撫でおろしている。これが本当に魂の無い自動人形の仕草なのだろうか?やはり信じられない。


 ドクの記憶を探ってみる。


 ザンシアの行動を決定している制御装置の名は業魔核。ゴーレム操作の魔法技術、魔法工学、後はグロツ王国の古文書の技術などを結集し、ドクが作成したものである。


 色々な技術を使ってはいるが、何者かの魂をコピーしただとか、人間の脳を使っているとか言うことは無く、ザンシアの精神はドクが一人で1から作成したのである。


 自動学習機能は持たせているので、多少の変化はあるかもしれないが、ザンシアの行動は全て計算されたものであり、そこに心は存在していない。打てば響く鐘と同じ。状況に合わせた行動を行っているだけなのだ。


 にもかかわらずこの精度。ドクは一体何者だったのだろうか。



「何の御用でしょう?」



 ザンシアが俺の顔を覗き込んでくる。眼鏡をかけているので、覗き込まなくても見えているはずだが、癖なのだろうか。しかし、眼鏡をかけたザンシアもまた、良いものだ。


「うん?ああ、その、小さめのフード付きローブがあったら持ってきてくれないか?」


「わかりました。」


 ザンシアは理由も聞かずに部屋から出て行き、すぐにローブを持ってきた。


 俺は部屋の扉を閉め、鍵を閉めると隠し部屋を開くスイッチを押した。


 ガチリ ゴゴ…


 ザンシアに車椅子を押してもらい、ウーラの入っているケージまで行く。


「なぅ…」


 ウーラはザンシアを見てオドオドしている。過去に何かあったのだろうか。


「ザンシア、ウーラをケージから出して、ローブを着せてやってくれ。」


「わかりました。」


 カチャ キィ…


 ザンシアがケージの扉を開けた。


「……。」


 だがウーラは出てこない。


「ウーラ、出ておいで、何もしないから。」


「なぅ…。」


 ウーラは小さく鳴くと、ゆっくりケージから出てきた。


 サッ


 ザンシアが素早くウーラの後ろへ回り、ローブをかぶせた。


「なぅっ!?」


 ウーラは少しジタバタしたが、直ぐに落ち着き、ローブから首を出し、手をローブの袖に通した。


 スッ


 俺がウーラの首に手をやると、ウーラはビクッとして後ずさった。


「大丈夫だから。」


「なぅぅ…。」


 俺はウーラにローブの首元についているフードをかぶせた。


「こうして顔を隠して、私とザンシア以外には見られないようにするんだよ。」


「うん、わかった…。」


 そして俺はウーラを隠し部屋から出し、隠し部屋を閉じた。


「ザンシア、ウーラは私の部屋に住まわせる。今度から食事をウーラの分も持ってきて欲しい。」


「わかりました。」


 ザンシアが耳打ちしてくる。


「お父様、良いのですか?合成魔獣の事は誰にも知られてはならないのでは?」


「ああ、でもウーラが可哀想で見ていられなかったんだ。」


「…わかりました。」


 後先を深く考えていない俺の行動に、ザンシアはそれ以上何も言わない。


 ウーラはとりあえずドクの部屋に住んでもらうことにした。当面、召使として雇った体にしたいので、掃除などをさせようと思う。そして、俺が誰かに殺されるまでの間に、ウーラには一人で生きて行ける術を身につかせてやらなくてはならない。


「では私の部屋に行こう。」


 ザンシアが俺の車椅子を押し、部屋を出る。ウーラはフードを深くかぶり、後ろをついてくる。


 先程までいた部屋はドクの仕事部屋であり、ドクの部屋はその隣にあった。


「ええと、お手洗いの場所は…、どこだったっけ?」


「お父様、あちらです。」


 ザンシアが指差した先は廊下の奥だった。お手洗いの場所も覚えていないドクは一体どうやって用を足していたのだろうか?


「ウーラ、お手洗いは一人で行けるかい?」


「なぅ…、僕、一人で出来る。」


「なら大丈夫かな。部屋に入ろう。」


 カラカラカラ


 ドクの部屋に入る。高そうな絨毯に机、椅子、寝具。壁には絵が飾ってある。部屋の奥にカーテンがかかって見えない所がある。


「ウーラの寝具も用意する必要があるね。ザンシア、お願いできるかい?」


「わかりました。では食事の準備が終わり次第、寝具を運び込みますね。」


「ああ、お願いするよ。」


 ザンシアは俺を机の横に移動させると、部屋を出て行った。


「さてウーラ、これからはこの部屋で暮らすんだ。慣れたら屋敷の外にも出してあげよう。」


「なぅ…。」


 ウーラはまだ不安そうだ。


「それから、ウーラはこの屋敷の召使ということにしたいから、この部屋の掃除をしてもらうよ。」


「なぅ…、わかった。」


「掃除用具は…、ああこれも、ザンシアに聞かないと分からないな…。聞いてくるから、部屋に居るんだよ。ああそうだ、誰か来たら寝具の下に隠れるんだ。」


「なぅ。」


 ウーラは頷いた。


 カラカラカラ


 俺は自室を出た。


 ザンシアは屋敷の厨房で料理をしているだろう。厨房の場所はわからないが、探せば見つかるだろう。


 カラカラカラカラ


 車椅子で廊下を進んでいく。部屋がいくつも並んでいる。この屋敷はどれだけ広いのだろうか。


 うっ…


 …突然の尿意。


 お手洗いに行きたい。確か、お手洗いの場所はザンシアの指差した廊下の方だ。このまま進めば見つかるだろう。


 ううっ?


 激しい尿意。


 い、いかん、これは駄目だ。漏れる。我慢が出来ない。


 懐の緊急呼び出し装置に手がのびる。だがさっきの今でこれを使うのはどうなのだ。大体尿意があるからと呼び出したらザンシアに悪いだろう。


 だがこのままでは漏れてしまう。声だ。声でザンシアに助けを求めるのだ。


「ザ、ザンシッ…アぁぁぁっ…」


 ジョボボボボボボ ※漏らした感覚の表現です


「あふっ…」


 ……。


 ジワァァァ


 股間に熱が広がる。


 やってしまった。


「あ、あああ…。」


 俺は泣きそうになった。


「お父様?」


 いつの間にかザンシアが後ろに居た。呻きのような声だったが、ザンシアは聞き取っていたようだ。


「ああ、ザンシア、それが、その…。」


 俺はザンシアの顔を見ることができない。何故かって、漏らしたら誰だってこうなるんじゃないかと思う。


「お父様大丈夫ですよ。今お取替えしますからね。」


 ザンシアは俺の様子から色々と察したようだ。本当に、ドクが作ったのかと疑いが深まるばかりだ。


 カラカラカラ


 車椅子を押し、俺をウーラの居る自室へと運ぶ。


「なぅ?」


 ウーラは椅子に座っていた。


 うう、ウーラとも顔を合わせたくない。何せお漏らししてしまったのだから。


「…どうかしたの?」


「なんでもありません。そのまま座っていてください。」


 カラカラカラ


 ザンシアは俺を部屋の奥のカーテンがかかって見えなかった所に運んだ。


 中には人を寝かせる台があり、周りの棚には布が置かれている。これは…。


 ギシッ


 ザンシアは俺の背中に腕を通すと、一息に俺を持ち上げた。凄い力だ。いや、ドクが軽いのかもしれない。


 ザンシアは俺を台に寝かせると、白衣を開き、ズボンを下ろし始めた。


 ちょっと待て。この展開は駄目だ。


「ま、待った。」


「はい、お父様。」


「自分でできるから、ザンシアはカーテンの外で待っていてくれ。」


「わかりました。」


 ザンシアはカーテンから出た。


 俺は少し下ろされたズボンの中を見る。股間に厚めの布が巻いてある。これはこの世界のいわゆるオムツというやつだろうか。棚にある布も同じものだ。


 ドクがお手洗いの場所を覚えていなかったのはこういうことか。


 俺はズボンを脱ごうと、ズボンに手をかけ、腕に力を入れた。


「ううむ…。」


 脱げない。俺は絶望した。ドクは生活のほとんどをザンシアに頼っていたようだ。もはやズボンを脱げないほどに体の筋肉が落ちていた。


 「ぬうう…。」


 もう一度挑戦してみるが、やはり無理だ。一人では脱げない。


 だが、このままでは股間が気持ち悪いままだ。俺の知る赤ちゃん用のオムツは吸水性が非常に高く、蒸れたりしないそうだが、今俺の股間を覆うのは只の布なのだ。


 これは最早…、いやだがしかし…、背に腹は…、ドクにとっては今更でも、俺にとっては…。


「ザンシア…。」


「はい。」


 ザンシアがカーテンを開け、入ってきた。


「交換を…、お願いしたい…。」


「はい、お父様。」


 ザンシアは俺のオムツを交換してくれた。


 俺は泣いた。


 ※ゴス風眼鏡自動人形に、オムツ交換してもらう主人公。字面は凄い気がします。


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