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異世界における他殺死ガイド4

 

 今俺はアリエスと共にドーツと言う町に向かっている。


 そこには冒険者ギルドがあり、アリエスの受けた依頼の完了報告に行くのだ。


 命を狙われているというのに悠長なことだが、依頼を連絡もなしに放棄してしまったら依頼者が困るだろうし、今後の仕事にも影響する。完了報告はしたほうが良いだろう。


 アリエスは俺を連れて行くことに躊躇は無い様だ。私に任せろとかなんとか言っていた。



 白猫のシロがアリエスの腕の中でゴロゴロ言っている。


 シロ、俺を殺してくれないか。






 もう町が近い。俺は立ち止まり、アリエスの横に座って背中に乗るように勧める。



「ガウガウ」


「クロ? 背中に乗れと言うのか?」



 察しが良い。


 アリエスは少し戸惑いながらもシロを抱いたまま乗ってきた。


 ただ連れているより、こうした方が見た者の印象が違うだろう。



 何せ俺は今、凶悪な魔物なのだ。


 町に入れてさえ貰えない可能性が高い。


 ちゃんと躾されていますよ。危険は無いですよ。というアピールだ。




 立ち上がり、歩き出す。アリエスは軽い。いや、鉄爪狼が力持ちなだけかもしれない。



「おお、これは……良い!」



 背中でアリエスがはしゃいでいる。


 アリエスは楽しい。俺は都合が良い。Win-Winの関係と言う奴だ。




 前方にこちら側へ向かう馬車が見える。御者がこちらを見て慌てている。


 俺は頭を低くし、アリエスが乗っていることがわかるようにした。


 御者は人が乗っていることを確認したのか、やや落ち着いたようだ。



 ジーッと、御者に凄く見られながら馬車とすれ違う。


 前途は多難そうだ。






 もう町の入り口だ。ちゃんと門があり、門番も立っている。



「おい、そこで止まれ!」



 案の定、門番から止められた。


 アリエスは俺から降り、門番と対面する。



「冒険者ギルドに依頼の完了報告をしたい。通してくれ」



 門番は俺に槍を向けて言う。



「こいつ、鉄爪狼じゃないか……、こんな魔物をどうやって従えた?」


「従えてはいない。私は従魔術師ではないからな」



 従魔術師。魔物を捕らえ、隷属印を刻み、味方として使役する術を持った者、だったか。


 隷属印を刻まれた魔物は、術師に一切逆らえなくなる。


 黒ローブが従魔術師だったとしたら、俺が鉄爪狼に乗り移った時、すんなりと黒ローブを殺せてしまったのが疑問だ。


 隷属印は魂を縛るという。俺が乗り移った時点で鉄爪狼の魂は消え、隷属印の効果が無効化されたのだろうか。



「なんだって? じゃあこいつ、いつ暴れ出してもおかしくないってことか?」


 門番が後ずさる。


「こいつではない。クロだ。私の友だ」



 アリエスは俺に抱きついて胸の毛に顔を埋め、スーハスーハした。恍惚とした顔に、少し変態性が伺える。



「悪いが、隷属印等の安全証明ができなければこいつを町に入れることはできない」



 至極真っ当な話だが、この町を囲む塀など、鉄爪狼であれば軽く越えてしまう気がする。



「仕方が無い。クロ、ここで少し待っていてくれ」



 そう言うと、アリエスは俺を置いて町に入ろうとする。



「……お、おい待て! こいつをここに置いて行くな!」



 一瞬ぽかんとした門番がアリエスに追い縋ろうとしたので、俺は門番に対してほんの少しだけ威嚇した。



「グルル……」



 ほんの少しだ。



「うわっ!?」



 門番は腰を抜かし座り込んでしまった。



「あわわ……」



 暫く門番と見つめ合っていたらアリエスが戻ってきた。


 手には何やら太く長いベルトのようなものとロープが握られている。



「クロ、すまないが、これをお前の首に着けても良いか?」



 ああ、それ首輪だったのか。


 アリエスの持ってきた首輪に、特に変な仕掛けは見受けられない。


 魔法的な何かも施されていない、ただの首輪のようだ。



 アリエス、首輪を着けたからと言って、安全の証明にはならないと思う。


 それに、そんなものを着けられたら、俺の中で新しい世界への扉が開いてしまうかもしれない。


 それは困る。



 気づくと俺は頭を下げて、首に首輪が巻かれるのを待っていた。


 首輪が巻かれ、首輪の穴にカチャリと金具が通される。



「息苦しくはないか?」



 アリエスが俺の体を撫でる。



 気づくと俺は仰向けで腹を見せ、尻尾を振ってヘッヘッヘッと息を荒くしていた。


 ご主人様ー!




「よーしよしよし」



 アリエスが俺の腹を撫でる。


 俺は身を捩って悶えた。


 あああああ! 俺の中の何かが満たされていく! 俺ばかりが得をして、Win-Winの関係が崩れてしまうー!





「ゴホッブヘッ」


 門番は俺の尻尾で巻き上げられた砂により、咳き込んでいた。


「わ、わかった。もうわかったから、行ってくれ。ただし、首輪に繋いだロープは放さないでくれよ?」




 意外。これで通してくれるとは。まあ、俺の必死のアピールが効いたのだろう。


 いよいよアリエスに俺の正体がバレたらまずい状態になった。



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