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異世界における他殺死ガイド39

 

 病的なまでに白い肌。まつ毛の長い大きなクリっとした目。すっと通った鼻梁。色は薄いがぷっくりとした可愛らしい唇。綺麗な長い銀髪。


 ザンシアは非常に美しい。


 だが、シミ、ホクロ一つない綺麗な白い肌。完全な左右対称。ザンシアの顔は人間離れして整い過ぎている。


 俺が状況に混乱さえしていなければ、人形であると気づけたかもしれない。




 俺はザンシアに殺されたが、ザンシアは自動人形だったため、道具とみなされたのか、乗り移り対象とはならなかった。


 そして、ドクはザンシアに対して屋敷に侵入した魔物の一切を駆除するように命令していた。そのため、その命令を下したドクが俺を殺したことになったようだ。




「今日は手も点検されるのですか?」


 ザンシアが尋ねてきた。彼女の手首を掴んだまま考え事をしていた俺は慌てた。


「あ、ああ、今日は手の点検もしようか。」


 ドクは自動人形であるザンシアの点検を毎日行っていた。点検は体を開いて中を見るといったものではなく、音を聞いて異常が無いかを確認する聴診のようだ。


 俺は机から聴診器を取り出し、首にかけた。


 シュル


 ザンシアは外した手袋を机の上に置いた。


「お父様、お願いします。」


「ああ。」


 俺は差し出されたザンシアの手を持ち、眺める。掌と指の間に球体。指の第一、第二関節部にも球体。非常に複雑な作りだ。良くこの世界でこんなものが作れたものだ。


 …美しい。


 工学的な美の感覚はドクのものかもしれないが、人に似せた造形物に感じる美は、誰でも持っているものではないだろうか?


「手を開いたり閉じたりしてみなさい。」


「はい。」


 ザンシアの手が閉じられる。そして開かれる。滑らかな動き、それはもはや人の手だ。見惚れてしまう。しかし、関節部にある球体に、これは作り物なのだと、否応なく認識させられる。だがそこが良い。


 俺は手フェチだったか?


「手に問題はないようだね。いつもの点検に移ろうか。」


「はい、お父様。」


 シュル


 ザンシアは手袋を嵌め、俺に向き直り、服の前を開けた。そして前かがみになる。


 ザンシアの胸、お腹、スカートで隠れていない腰の上部分までが露わとなる。肋骨の一番下に沿って切れ目があり、腰の部分も腰骨に沿って切れ目が入っている。


 人の体にこのような切れ目など入っていようものならグロテスクの一言である。しかしこれは、人形の体を構成する材質に合わせて、人と同じような動きができるように、駆動部を増やすために必要な機構。


「ふ、ふつくしい…」


「お父様?」


 いかん、声に出ていた。


「い、いや、何でもない。」


 俺は聴診器を耳に装着し、集音盤部分をザンシアの胸に当てた。


 心臓の音は無い。その代わりに


 キリキリキリ…キュイイ…


 糸?何かの駆動音?音の正体はわからないが、この音ならば問題ないという記憶だけがある。


「うん、問題ないね。」


 ザンシアの胸から集音盤を離した。


「お父様、点検ありがとうございます。」


 ザンシアは俺に礼を言い、服の前を留め始めた。俺は聴診器を外し、机の引き出しへとしまう。


 だがザンシアは部屋を出ていかない。俺の座る車椅子の肘掛けに手をつくと、屈んで俺の顔を覗き込んできた。


 人間離れして整った顔が近い。よく見れば大きなクリっとした目の中に、人の目の虹彩とは違う、幾何学的な模様がある。


「…ザンシア?」


「今日のお父様はなんだか、凄く快活に見えます。」


「そ、そうかい?」


 普段のドクは一体どんな状態だったのだろうか。


 キュイ、キュイイ…


 ザンシアの目の幾何学模様が広がったり狭まったりする。


「しかし、ザンシアちょっと、近すぎないかい?」


「こうしなければお顔が良く見えません。」


「そ、そうなのかい?。」


 自動人形なのに目が悪いのか?


「ちょっといいかいザンシア。」


 ザンシアの体を離れさせ、俺は指を三本立てた。


「これは何本に見える?」


「ええと、六本でしょうか?」


 …これは駄目じゃないか?しかし、駄目だとしても今の俺の記憶にザンシアの目を調整できそうな技術はない。何とかできないかと考え始めたその時


「ぐ…。」


「お父様?」


 記憶の流れ込みが発生した。


「ザンシア、私を本棚へ運んでくれ。」


「わかりました。」


 ザンシアが俺の後ろに回り、車椅子を部屋の本棚の前へと押していく。


 本棚に着いた俺はドクの記憶を辿り、順番に本を押していく。


 ガチリ ゴゴ…


 本棚が真ん中で割れ、開いていく。


 ゴ…


 本棚が開ききった。本棚の裏には棚。棚には眼鏡がいくつも並んでいる。


 …こんな仕組みにする必要ある?


 俺は棚に並んだ眼鏡の中から一つを手に取り、ザンシアに渡した。


「ザンシア、これを着けてみなさい。」


「はい。」


 ザンシアは眼鏡を手に取ってかけた。


「ああ、良く見えます。」


「そうか、その眼鏡はあげるから、これからはかけるようにしなさい。」


「わかりました。ありがとうございます。お父様。」


 ドクは最早、ザンシアの目を調整できなくなっていた。だが既に眼鏡を用意していた。それを渡さなかったのは、顔を近づけて覗き込んでくるザンシアが可愛かったからだ。まあわかる。


 ザンシアは部屋の窓から外を見ている。外には庭が広がり、中心に大きな木が一本生えている。


「木の葉が良く見えます。こんなにも綺麗だったのですね。」


 木の葉を綺麗だと言い、感動している。ように見せている?自動人形とは思えない。


 眼鏡をかけたことにより、ザンシアはゴス風な服装の眼鏡をかけた自動人形という、やや属性過多な存在となった。


 ところで眼鏡をかけた自動人形というと、アラレちゃんが浮かぶ。


 初期のアラレちゃんに見る作者の変態性は、他の同じような作品(愛玩的自動人形の出てくる作品という意味で、スランプ博士の内容と同じような、という意味ではない。)と比べ、群を抜いていると思う。初期のアラレちゃんは、非常に可愛いのだ。本来必要であるはずのない眼鏡を自動人形がかけているという、無駄?ギャップ?だがそこがいい?あの時代に眼鏡の自動人形という設定を思いつく彼の人の先進性もまた、他の作家と比べ群を抜いていたと思わざるを得ない。その後の竜玉のヒットがアラレちゃんの内容からは予想できないという話を聞いたことがあるが、いやいやヒットは必然であったのだと…。


 何の語りだこれは。



 ゴゴ…



 本棚が閉じていく。


「では次は食事の時間に来ますね。」


「ああ、お願いするよ。ザンシア。」


 ザンシアは部屋の扉から出ていく。心なしか上機嫌に見えた。目が良く見えるようになったことが嬉しかったのか?そこまで感情を繊細に再現できるものだろうか。俺、ドクが彼女を作ったことが信じられない。



 とりあえず、これで俺は部屋に一人だ。


 これからどうするかを考える。誰かに殺されるための算段を立てるのだ。


 直ぐに思いつくのは一人で外に出て、魔物に殺されることだ。しかし、今の俺は一人で立つことも出来ない。車椅子の駆動輪の外側の輪を回してみる。


 カラカラカラ


 おお、意外と動ける。これなら一人で屋敷の外に出るのも不可能ではないかもしれない。


 ジー…カタカタカタ


 おっと危ない。俺は足元に来た自動掃除機を避けるため、車椅子を後ろに進ませた。


 ドン


 壁に当たった。


 ガチリ


「ん?」


 壁にあった何かのスイッチを押してしまったようだ。


 ゴゴ…


 白い壁が開いていく。こんな仕組みにする必要ある?


 …ゴゴ


 白い壁が開ききった。そこには部屋があった。そして、俺は部屋を覗き込んだ。



 ブゥーン


 何か、大型の装置の駆動音が聞こえる。


 部屋の中には大きな円柱状の水槽のようなものが並んでいた。


 水槽の中に浮いているのは魔物。蛇、馬、百足、鳥、色々な魔物が浮いている。


 だが、それらの魔物にはおかしな部分がある。蛇には鳥のような羽が生えていたり、馬には足が六本あったり。百足の体は一つ一つに口が付いており、それぞれが一体の生き物で、お尻に噛みつき合って百足の体を成しているようだ。 ※ムカデ人間か。


 コポリ


 鳥らしき魔物の体が揺れ、こちらを向いた。


 光のない目がこちらを見る。


 そこには人の顔があった。


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