異世界における他殺死ガイド37
ギュンギュンギュン
渦の流れに押されながらも俺は水を掻き、回転を始める。
ギュルルルルル!
角度の付いた甲羅の刃が水の流れを作り出す。
ズゴゴゴ
バシュアアアア!
「ゴアアア!?」
渦から弾き出された。後ろには沈没船がある。
体勢を立て直し、外側から改めて渦を見てみれば、巨大な渦だ。海上にはもっとでかい竜巻があり、それが海中の水を吸い上げているはずだ。
こんなものを俺だけでなんとかしようなど、無謀にもほどがある。だが後ろには子供達が怯えて縮こまっているのだ。やらせはせん!やらせはせんぞ!!
「ゴウアアアア!」
ギュルルオオオオ!
ズゴアアアア!
俺の作り出した水の流れが渦へと当たる。だが渦はそれをものともせず進む。
このままでは駄目だ。もっと力が要る。
■■■
「アウロラ様、危険です!」
エルネストがアウロラを羽交い絞めにして止めている。
「離せ、エロネスト!武零怒が子供達を救うために大渦に立ち向かっているのだ、何もせずにいられるか!」
「ですが、これ以上近づけば我々も渦に巻き込まれてしまいます。奴もそれを望んではいないでしょう。」
「ぬうう…。」
アウロラが暴れるのを止めてうつむく。だがパッと顔を上げて叫ぶ。
「そうだ、声なら、私の声なら届く!」
アウロラはエルネストの羽交い絞めをやめさせ、背筋を伸ばし、腹に手を当てた。
ギュウウウウ
アバラの呼吸器に水が吸い込まれていく。
鼓舞
アウロラの喉が振動する。振動は水を伝わり、大渦の傍で回転している兇亀へと向かう。
「ゴウアアアアア!」
兇亀が吠える。
アウロラの歌は聞いたものの能力を引き上げる力を持つ。兇亀の目が赤い光を放ち、体の筋肉が隆起した。
ギュウルルルルル!
兇亀の回転速度が倍加、水の流れも倍加する。
ズゴアアアアアアアア!
大きな流れを受けて渦が揺れる。が、その進行を止めるには至らない。
激励
さらにアウロラが歌う。激励は聞いたものの能力をさらに引き上げる。兇亀の回転から発生する水の流れは三倍の勢いとなった。
「グゴアアアアア!」
兇亀がさらに吠える。そこでエルネストが異変に気付いた。
「これは…、血…?渦の中から?」
アウロラとエルネストがいる辺りにまで、ドス黒い濁りが漂ってきていた。
■■■
「キュウールルララララ…」
キューの声が聞こえる。これは歌だ。聞いたとたん体に力が漲る。
「ゴウアアアアア!」
回転する、とにかく回転し、水の流れを作り出す。
「キュアールルララ…」
さらにキューの声が聞こえる。俺は手足を甲羅に引っ込めた。
「グゴアアアアア!」
バガァ!
俺の腹部が割れた。いや、開いた。腹の模様に沿って甲羅が開いていく。
ズゴゴオオオオ!
開いた腹部に水が吸い込まれていく。引っ込めた手足の穴から水が吐き出され、回転力となる。
ギュギュギュアアアアア!!
これまでとは比べ物にならない速度で俺の体が回転する。
ズゴアアアアアアアアアア!
大きな水の流れを受け、大渦の進行が止まった。だが、止めただけだ。いつまでもこの状態を維持できるとは思えない。
鼓舞激励
「キュラララアアア!」(四倍だあー!)
オン!!
一瞬、水の流れが止まったように感じた。戦闘機がマッハを超えた時のような衝撃が発生し、俺の体の回転はもはや見えない。
ゴッバアアアアアアアア!!!
とてつもない水の流れが大渦を包む。その流れは海上へと達し、竜巻ごと吹き飛ばした。
※アサイラム時空のため、付近に被害はありませんでした。
渦が消えたのを確認し、俺は回転を止めた。
グルングルングルン
力が入らない。甲羅から手足、首を出す。その時、俺の周りの水が一瞬でドス黒く濁った。
ドバア
これは俺の血だ。鮫竜巻で鮫に噛まれた時、鮫の歯は俺の首の重要な血管を切り裂いていたようだ。
「キュウー!キュウー!」
キューが叫びながら近寄ってきた。
子供達はキューの仲間の水棲亜人が助けたようだ。
「キュアアウウウ!」
キューが俺の首の傷を抑えて泣き叫ぶ。手遅れだ。血を失い過ぎた。
「ゴウ…ゴ…。」
ここでの生活は良いものだった。
「キュウウ」「キュウー」
助けた子供達が傍に来て、俺を心配そうな目で見ている。
無事で良かった。
「ゴウ……。」
「キュアー!」
キューの泣き声が聞こえる。願わくば、キュー達がこの先の未来も安全に暮らせますように。
意識が途切れた。
俺は鮫竜巻に巻き込まれ、首の重要な血管を損傷し、出血多量で死んだ。
◆
ビュオオオオオ!!
空の上だ。
俺は鮫竜巻で噛まれた鮫の魔物に乗り移った。鮫は既に竜巻で空へと巻き上げられ、飛んでいた。
海上に竜巻は無い。俺の作り出した水の流れで消えたようだ。
ビュオオオオオ!!
随分と高く巻き上げられたものだ。これはまずい。このままでは海面に叩きつけられたら死ぬ。その場合、乗り移り先は無い。
ここは空だ。糸を出しても引っ掛けるところが無い。墨を出しても仕方が無い。尻尾を切ったら?意味が無い。
「ピィー!」
ガツッ!
痛い。俺の体が大きな鷹のような魔物の嘴に挟まれた。
これは助かった…か?
***
ビュウウウウウ
鷹のような魔物に咥えられたまま、空の旅だ。
いつの間にか眼下から海は消え、陸の上を飛んでいる。
山を越え、谷を越え、この鷹の魔物はどこまで俺を運ぶつもりだろうか?
ガクッ!
深そうな森の上を飛んでいる時、鷹が突然速度を落とした。
「カアアー!」
ゴオオッ!
大きな黒い鳥の魔物が俺を狙って襲い来る。これは鴉だ。鴉の魔物だ。
「ピィー!」
あ。
鷹は鴉を威嚇しようとし、嘴を広げた。当然俺は嘴から離れ、落下していく。
ビュオオオオ!
「シャアアク!?」
地面が向かってくる。
このまま落下死した場合、どうなんだ?俺は何かに乗り移れるのか?乗り移れずに終わりなのか?
落下死を目前にしたその時、俺の新たな本能が目覚める。
フワッ!
俺の体がほんの少し浮いた。この世界の鳥は魔法で浮遊し、飛んでいたようだ。
だがほんの少しの間浮いただけで、再び俺の体は落下しだした。浮遊できるのは一瞬のようだ。
ビュウウ!ドガッ!
「ジャアアグ!」
ついに俺の体は地面へと叩きつけられた。
一瞬の浮遊のおかげで即死は免れたようだ。
だがそのせいで死ぬまでの間に余計な苦しみが増えたかもしれない。
「シャ、アア…」
ここは森の中か?魔物が俺の体を食べに来てくれればまだ助かる見込みはある。
薄れる目で周りを見回すと、そこはどうも森の中ではないようだ。周りはレンガの壁で覆われている。建物の庭にでも落ちてしまったのか?
ザッザッザッ
誰かの足音。人がいるようだ。
体を捻り、足音の方を見ればそこには女性が立っていた。顔は真っ青で血の気が無く、服は一言で言えばゴスだろうか。黒一色のドレスで、スカートや胸元にフリルが付いている。
シュキン
女性はナイフを取り出した。
まずい。俺を殺す気だ。俺が殺されたらこの女性が死んでしまう。逃げなくては。
ビチビチビチ
駄目だ。その場で跳ねることしかできない。
糸だ。
シュルル!
女性の足元へ糸を伸ばす。
「!」
シュバッ!
女性は糸を察知してか、距離を取った。
よし、そのままあっちへいってくれ。
シュザッ!ドシュ!
「シャアア!」
刺された。体を捻って逃げようとしたら、一瞬で間を詰められてナイフを首に突き刺された。
…なんてことだ。
俺は女性にナイフで刺されて死んだ。
◆




